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97 続 兄妹愛


「じゃあ、最後の一着を選ばないといけませんわね。お兄様はどれがいいと思います?」


(・・・・・・アンナ嬢のドレスは、どれがいいだろう)


頭の中で店の中にある全てのドレスを思い出しながら、必死に探す。

どうせなら、アンナ嬢に一番似合うドレスを纏わせてやりたい。

俺の商売人としての誇りをかけて、最高の一着を選んでやる。



(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あった!)


手に取ったのは、濃い茶色のグロリア絹地のドレスだ。

上品な茶色は、アンナ嬢によく似合うだろう。


「アンナ様には、この茶色のドレスがいいだろう」


ルーシーに茶色のドレスを渡せば、ルーシーが困惑したように眉を顰めた。


「・・・・・・少し、地味ではありません?」

「いや、胸元に白いレースをあしらっている。清楚だし、アンナ様の雰囲気にも合うだろう」


「そうですけど。でも、この茶色のドレスだと、大勢の中にいたら目立ちませんよ?お兄様は、先ほどご自分で、アンナ様が目立つようなドレスを選べって言いましたよね?」


「色なんて関係ないさ。アンナ様に似合うのが一番だ。それだけで輝くから、目立つだろう?」


このドレスを着て、微笑む彼女を想像する。

健気でひたむきで、助けてやらねばと思わせるのに、時に大胆に行動して俺を驚かせる。

決して派手ではないが、確かな存在感を放つ彼女にこそ、このドレスがふさわしい。



「・・・・・・そうですね。とても上品なドレスだから、アンナ様に似合うと思います。このドレスなら、真珠と合わせたらいいかもしれませんね」


ドレスに一家言を持つルーシーだが、それ以上は、特に反対しなかった。

滑らかなドレスの生地の感触を確かめるように、指先で擦り、僅かな音に耳をひそませている。


「よし、決まったな。じゃあ、俺はすぐに職人の元へドレスを届けてくる」


急がねばならない。

せっかちなイザベラ様が明日の朝と言ったら、遅くとも、今日の夕方までに届ける必要がある。

そうでなければ、次の商談の機会はないだろう。


ルーシーからドレスを奪い返して、階段を駆け降りて行く俺の耳に、ルーシーの消え入りそうな声が入ってきた。


「・・・・・・お兄様、私、オリバー様を落とそうと思います」

「何だって?」


階段の踊り場から振り向いてルーシーを見ようとしたが、抱えたドレスが邪魔で何も見えない。


「何か言ったか?」

「そうしたら、アンナ様は私のお義姉様です。お兄様も親戚として、ずっとアンナ様と一緒にいれますよ」


「・・・・・・お前は、何を言っているんだ?」


分厚いドレスを抱えていたせいで、ルーシーの声が上手く聞きとれない。

ルーシーは何故かその場に留まって、どこか遠くを見ている。


仕方がないので階段を上ってルーシーの元に戻れば、面白いことでも思いついたように、ルーシーは目を細めて、うっすらと笑っていた。


「いい考えでしょう?それに、私、オリバー様を気に入りましたの。賢いけど、お洒落じゃないし、お金もないし、いつもよくわからない本ばかり読んでいて、空気の読めない変人です」


「・・・賢い、以外は、悪口に聞こえたのだが?」


そんな奴のどこが良かったのか。


「でも、私の髪を『赤毛は珍しい』って言ってくれたんです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・それは、事実を述べただけだろう」


うちの妹の国語力は本当に大丈夫だろうかと、心配になってくる。


「ええ、そうですね。でもね、みんな私の髪を品評するんです。私は意見なんて求めてないのに、おかしいですよね。でも、オリバー様は、事実だけ。あの人にとって、私の赤毛は『鳥は飛ぶ』みたいに、当たり前なんです」


「・・・俺には言ってる意味が、よくわからないが」


妹の言っている意味が、本気でわからない。

明日のテストは大丈夫だろうか。


「いいんです。私がわかっていれば」

「・・・・・・お前が好きなら、好きにすればいいだろ。金は心配するな。お前たち二人ぐらい、食い詰めたら俺が養ってやるさ」


「そうですね。だからお兄様、私のために、どうか独身でいてくださいね」

「は?」


「どうせお兄様のことだから、お父様からのお見合い話を受けようと考えているんでしょう?」


図星だ。

アンナ嬢と結婚することはない。

家のために父の用意した見合い話を受けて、アスター商会の発展に尽くさねばならない。


「当たり前だ。アスター家の家訓を忘れたか。『産めよ、増やせよ』だ」


「もういいんじゃないですか?その家訓」

「何を言ってるんだ」


アスター家が、どうやって家業を大きくさせたかを小さい頃から教え込んだのに、もう忘れているのか。

どうもルーシーの頭の中は、お花畑だ。


「だって、お父様の代までならわかりますけど、お祖父様の兄弟、全員名前を言えますか?いとこの名前は?私たち、甥や姪まで入れたら、親戚が何人いると思っているんですか」


「だが、家族で助け合って・・・」


「家族っていうけど、ウィリアム兄様はサイレニアに行ったまま、もう何年帰ってきてないと思ってるんですか。お嫁さんを貰って、自分の子どもができたら、それが自分の家族になるでしょう?結婚前のようには、私たちとは付き合えませんよ」


結婚した兄たちは、それぞれ仕事と家庭のことで忙しいから、実家に顔を出すのは、年に数回、いや、一回もない時だってある。


「『兄弟は他人の始まり』とも言うでしょう?」

「だが『血は水よりも濃い』とも言うぞ」


父が靴だけでなく、服飾品に手を出したのは兄弟仲が悪かったからだ。

しかし、資金繰りが上手くいかない時に助けてくれたのも、兄弟だった。


「もう、お兄様ったら、屁理屈ばかり。たまには自分に素直になればいいんですよ」


「なんだよ、素直って」

「まだ結婚したくないんでしょう?気の済むまで独身でいればいいじゃないですか」


「・・・・・・俺の老後は、どうなるんだ」


勝手なことを言ってくれる。

俺の身体が動かなくなった時、誰が助けてくれるというのだ。

孤独死はごめんだ。


「その時は、今まで面倒見てもらったお礼として、お兄様のことは私が面倒見ますよ」



「・・・・・・・・・悪いが、お前は当てにならない。それより、明日のテストのために勉強しろ」

「ちょっと、お兄様!今、そんなこと言います!?」


店内に、ほんのわずかに子供らしさを滲ませたルーシーの声が響く。

いつまでも子どもだと侮っていた妹が、いつの間にか気遣いのできる大人になっていた。


そのことが嬉しくもあり、寂しかった。



お読みいただき、ありがとうございました。


作中登場する「濃い茶色のグロリア絹地のドレス」は、「赤毛のアン」で、マシューがアンに贈ったドレスから引用させていただきました。子どもの頃に、どんなに美しいドレスなのだろうと憧れていたので使いたかったんです。


明日は、アンナ視点の話に戻ります。

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