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94 再会


空耳かと思ったが、扉のそばにはアルバート様が静かに佇んでいた。

ダニエル様たちから迫られてパニックに陥っていたため、全く気が付かなかった。


(え・・・、噓でしょ?)

月の光を紡いだような銀の髪。

白く透明感のある肌と、どこまでも澄み渡るような青い瞳を持つ、端正で気品のある顔立ち。

うちにいた時とは違い、仕立てのいいシャツに身を包んだアルバート様は、この世の者とは思えないほど美しかった。


アルバート様が美しすぎて見惚れているのか、驚きすぎて見つめているのか、自分でもわからない。

伝えたいことは沢山あったはずなのに、言葉が一つも出てこない。


(どうしてアルバート様がいるの・・・?)

私の疑問を余所に、アルバート様はダニエル様の顔を確認するように、ゆっくりと視線を巡らせている。

余計な感情を含まない瞳と完璧に整った立ち姿に、改めてアルバート様が王族なのだと気付かされる。


本来なら威圧感さえ感じるアルバート様に見つめられれば不安を覚えそうなものなのに、ダニエル様はその視線を受けて、むしろにこやかに挨拶した。


「アルバート殿下ではないですか。お目にかかれて光栄です」


ルーシー様は、ダニエル様の言葉にアルバート様が王弟だということに気が付いたらしい。

目を見開いたまま、その場で凍り付いたように固まっている。


「ああ。君がダニエルか。会うのは初めてだな」

「ええ。遠くから拝見したことはありましたが、直接お会いするのは初めてです。お会いできて嬉しいです」


アルバート様は無言のままダニエル様に左手を差し出し、二人はがっちりと握手をしている。

だが、ダニエル様は微笑んでいるものの目の奥は笑っていないように見えるし、アルバート様もダニエル様を測るように見つめているだけで、笑顔の気配は微塵もない。

二人に漂う空気は、どこかぎこちなく、冷たく感じられた。


「私も会えて嬉しいよ。カーターたちから、君はとても優秀だと聞いている」

「ありがたき幸せでございます」

「それに君は、随分と義理堅い男のようだな。カーターが感謝していた」


「・・・・・・カーター団長が、何かおっしゃたのでしょうか?」


「ああ。第五騎士団に防寒着を寄付してくれてたと聞いた。君は騎士団を辞めても、第五騎士団のために尽力してくれて、本当にありがたいとカーターが言っていたよ」


「アルバート殿下のお耳に入っているとは、お恥ずかしい限りです。第五は私の古巣ですし、お世話になった騎士団に少しでも恩返しがしたくて寄付させていただきました」


「そうか。北は王都と違って寒さが厳しいからな。騎士たちの健康を守るために、私も策を講じようと考えているところだ。今後私が相談することもあるだろう。ぜひ力を貸してほしい」


「勿論でございます」


(・・・・・・・・・私のことは?)

あんなに会いたかったアルバート様は、ダニエル様とばかり話していて、私とは目も合わせようとしてくれない。

私は話したいことがたくさんあるのに、アルバート様は久しぶりに会った私に、何も思うことはないのだろうか。

せめて「久しぶりだな」「元気だったか?」ぐらい声をかけて欲しいと思う。


それに、ダニエル様も、先ほどまで私に求婚していたはずなのに、どうしてこんなに平然と仕事の話ができるのだろう。

無理に結婚を迫られて困っていたところ、アルバート様が来て話が中断したおかげで助かったのだが、こうも存在を無視されると、なんだかモヤモヤしてしまう。


二人は騎士の防寒着について話をするばかりで、私にはちらりとも視線を寄こさない。



(・・・・・・どうしてアルバート様は、アスター商会に来たの?)


騎士団の防寒着についてダニエル様と話をするために来たのだろうか。

でも、それにしては急な訪問だったような気がする。


一瞬私のために来てくれたのかとも思ったが、アルバート様にアスター商会と契約する日を伝えていたかどうかは、記憶にない。

そもそもアルバート様が私たちの契約日を知っていたとしても、アルバート様には関係のない話だ。


「あ、あの、どうしてアルバート様がここに・・・」

「アンナ様に、王立研究所の成分検査の結果をお持ちするためですよ」


(えっ!?まだ人がいたの!?)

アルバート様に事情を聞くために話しかけようとすると、アルバート様の後ろから眼鏡の騎士がひょっこりと顔を出した。

申し訳ないが、アルバート様の存在感があり過ぎて目に入っていなかった。

私の記憶が正しければ、ベスたちを迎えに来た騎士の一人で、名前はライアン様だったはずだ。


「アルバート殿下も、そのために来たんでしょう?いつまでも関係ない話なんかしてないで、アンナ様に検査結果を早く渡してくださいよ。全く、何をやってるんですか」

「えっ・・・?」


「今朝検査結果が届いたんですけどね。すぐにアスター商会に入ればいいのに、アンナ様が同席するのを嫌がったからと、契約が終わる時間をわざわざ見計らって外で待っているんですからね。本当に呆れますよね」


ライアン様がアルバート様を横目で見ながら、私に困ったように囁いてきた。

アルバート様はライアン様の声が聞こえたのか、ライアン様を睨むが、ライアン様に気にしている様子はない。

それどころか素知らぬふりをしながら、眼鏡を外して汚れを拭いている。


「・・・・・・君と約束していた、蜂蜜飴の成分検査結果だ。遅くなって悪かったな」

「い、いえ、ありがとうございます」


ライアン様の言葉にびっくりしながら、アルバート様から茶封筒を受け取る。

アルバート様を信頼していたが、本当に研究所に依頼して、しかも、結果をわざわざ持ってきてくれるとは夢にも思っていなかった。


「あ、あの、お手数をおかけして申し訳ありません」

「別に大した手間ではない。ライアンはそう言うが、私たちも先ほど着いたばかりだ」


(あ・・・、聞こえてたのね)

確かに同席してほしくないとは言ったが、王族であるアルバート様が、検査結果を渡すためだけに、外で待つことはないと思う。

それに成分検査の結果が出たなら、うちに郵送すればいいだけの話だ。


現にライアン様は、呆れたような顔をしながら不満そうに首を振っている。

絶対今着いたわけではないだろう。一体いつから外で待っていたのだろうか。


「ほら、中身は見なくていいのか?」

「は、はい・・・」


アルバート様の催促に、茶封筒の中身を慌てて確認する。

忙しい中わざわざ届けてくれたアルバート様と、何より不機嫌そうにため息をついているライアン様の手前、すぐに見なければ失礼だろう。



「あ、身体に有効だと認めてくれています・・・」


検査結果は嬉しいが、アルバート様に会った驚きの方が大きいせいで上手く反応できない。

どうしていいかわからず、アルバート様とダニエル様を代わるがわる見てしまう。


「おや、それは素晴らしいですね。良かったら、私にも見せていただけますか」

「は、はい。どうぞ」


いつの間にか元の紳士的な姿に戻ったダニエル様に検査結果を渡すと、上品に頁をめくりつつも、目は真剣そのものだった。


「・・・・・・さすがですね。素晴らしい。この結果があれば特許も取れるでしょうし、騎士団も長期契約してくれることでしょう。本当によかったですね。アンナ様、これからも末永くお付き合いをお願いしますよ」

「え、ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」


検査結果を読み終えたダニエル様が、満足げに私に握手を求めてくる。

ダニエル様の眼鏡にかなったということは、養蜂場拡大の事業は、ひとまず軌道に乗ったということだろうか。

これで養蜂場の経営も安心だと思うと、ホッとして身体の力が抜けてくる。


握手を交わす私たちに、アルバート様が声をかけてきた。


「ダニエル。アンナ嬢は、私の大切な友人なのだ。どうかよろしく頼むよ」

「ええ、勿論でございます。私にとってもアンナ様は大切な友人です。何としてでも、この事業を成功させてみせますよ」


そう言いながら私に向かって微笑むダニエル様は、いつもと同じで紳士的で優しく、そしてどこか嘘臭かった。

とてもさっきまで、無理やり結婚を迫っていたとは思えない。


一瞬だけ本気でダニエル様に求婚されたと思ったが、やはり全て演技だったに違いない。

僅かな時間だったが、真剣に悩んだあの時間を返して欲しい。



(・・・・・・でも、まあ、いいわ)

床に視線を落とし、自分の気持ちを落ち着けるように呼吸を整える。

ダニエル様から求婚されたことで、自分の本当の気持ちを自覚することができた。


私は、アルバート様が好きだ。


どんなに素敵な人でも、アルバート様の代わりにはならない。

一人で過ごす未来を想像すると切なくなるが、アルバート様が、私の心に巣くって離れようとはしない。

アルバート様への恋心を持ったまま、誰かと結婚することはできない。


アルバート様を忘れることができるまで、このまま一人で生きていこう。

将来、この決断を後悔する日が来るかもしれないが、それでもいいような気がしてきた。


寂しさと覚悟を滲ませながらアルバート様を見上げれば、アルバート様は表情を崩すことなく私を見下ろしていた。

せめて微笑んで欲しいと思うのだが、こればかりは仕方がない。

思い通りにならないのがアルバート様だ。


(もうっ、変わらないわね。久しぶりなんだから、少しぐらい嬉しそうな顔を見せてくれてもいいんじゃない?)

でも、ようやくアルバート様に会えた実感が湧いてきた。

表情は変わらないけど、いつでも人のことを思いやる、優しいアルバート様なのだ。

検査結果を持ってきてくれたお礼を改めて伝えようとした瞬間、不意に女性のかん高い声がした。



「アルバートは、ここにいるかしら?」


きんきんと鋭く響く声に驚いて、その場にいた全員が声のした扉に目を遣った。

どうやら声を発したのは、扉の側にいた銀髪を高く結い上げた女性らしい。

扇子を片手に持ち、優雅に微笑む女性の傍らには、昨夜会ったフランシス隊長が壁のように立っていた。



お読みいただき、ありがとうございます。

ブクマ、評価をしていただき、ありがとうございました。


久しぶりの登場のアルバート様ですが、右腕が骨折中のため左手で握手しています。


明日も朝7時に更新します。

引き続きお楽しいただけると嬉しいです。

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