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8 可愛さとは


サウスビー家の朝は早い。

使用人不足のため、手が回らないのだ。

元々少ない人数しかいなかったが、お父様が亡くなったことで泥船と思われたのか、1人、また1人と辞めていってしまったのだ。

今はタイラーとクララ、セオドア、それに通いで来てくれる人たちで何とか回している。


今朝は、馬丁のジョージがお休みなのでセオドアと二人で馬小屋の掃除だ。

馬の世話は重労働できつい。

住み込みだったジョージが、週3回の通いに変えたことでかなりの負担が増している。

馬糞を片付けながらセオドアをちらりと見れば、セオドアも疲労の色が濃い。

目の下にクマもあるし、顔色も良くない。


無理もない。昨日から働きづめだ。

ベスたちを助け出した後、すぐにマシューたちと土砂崩れの視察に行ったが、だからといって通常の仕事が待ってくれるわけではない。

フォローすべき私も、自分の仕事で手一杯で何一つ手伝えなかった。

申し訳なくて、思わずため息まじりに呟いてしまった。


「新しい人、探しているからもう少し待っててね」

セオドアが馬にブラシをかけながら怒ったように言う。

「俺一人で大丈夫だから、別にいらねーよ」

「そんなわけにはいかないでしょ」

タイラーに頼んで募集はしているが、人は一向に集まらない。

雇用条件は特段悪くないと思うのだが、私の認識が甘かったのだろうか。


「ねぇ、もう少し給与を上げた方がいいのかしら?」

平均額は提示していると思っていたが、世間ではもう少し給与が高いのかもしれない。

「馬鹿言ってんじゃねーよ。十分すぎるくらい貰ってるよ」

「でも・・・これじゃあ、セオドアたちの負担が大きいわ」

人が少なくなった分給与は上げたが、こんなに仕事量が多ければ割に合わないだろう。


「あと半年もすれば、オリバーが戻ってくるだろ」

「半年も、よ。長いわ」

「うっせーよ。しゃべってないで、手、動かせ」

セオドアはこっちを見もしないで、蹄のチェックをしている。


「動かしてるわよ」

慣れた仕事だ。勝手に手は動く。

ただ終盤になってくると、身体から湯気が出てくる。

セオドアも暑いのか、額の汗をシャツでしきりに拭っている。


「それに今だけの問題じゃないわ。セオドアが騎士団に入団するから、人手は足りないままよ」

「・・・・・・あー、それなんだけどさ、」

何かセオドアが言いかけた時に、


「アンナー!!!」

大きな声が聞こえてきた。

声のしたほうを見れば、ワンピースにエプロンをつけたベスが手を振りながら子犬のように走ってきていた。その後ろにはアルバート様。

二人とも銀髪が陽光を浴びて、きらきらと輝いている。

(なんて可愛いのかしら)


ベスのワンピースは私のお古。

アルバート様に至っては、身丈に合わない寸足らずの服(これでも精一杯着丈は伸ばした)だが、それをものともしない美しさだ。

もはや神々しいレベルである。


「すげぇな」

同じことを思ったのか、隣でセオドアが呟く。

「ホント。同じ人間とは思えないほどの美しさね」

手を止めて見惚れていたら、ベスが懐に飛び込んできた。


「おはよう、アンナ。クララに聞いたらアンナたちがここにいるって言うから走ってきたの」

抱きつきながら私を見上げる仕草が、可愛くてたまらない。

膝をついて、ベスと目線を合わせる。


「おはよう。早いのね。よく眠れたかしら?」

「ええ。おかげでこんなに元気よ」

ベスがその場でくるりと回って見せる。

(この世にこんな可愛い生き物っている?)


「もう朝ご飯は食べた?クララが用意していたでしょう?」

クララが栄養のあるものを食べさせなければと朝から奮闘していたはずだ。

私もポトフをベスたちのために作り置きしてきた。


「母さんのご飯は美味かっただろう?」

セオドアも手は止めないものの、ベスに優しく声をかける。

「ううん、まだ食べてないの。アンナたちと一緒に食べようと思って」

これまた可愛いことを言ってくれる。

思わず胸がきゅんとする。


「それは嬉しいけど、もう少し時間がかかりそうなの。先に食べていてくれる?」

「いや、私たちも手伝うよ」

ベスの後ろからアルバート様が現れた。

(しまった。ベスのあまりの可愛さにアルバート様の存在を忘れていたわ)


「あ、おはようございます。体調はどうですか?」

慌てて立ち上がって挨拶するが、ぞんざいさが態度に出てしまっていたのか、アルバート様は苦笑いだ。

「ああ、おかげ様ですっかり元通りだ。それに洋服もありがとう」

綺麗に着れたと言わんばかりに、服をちょっと摘まんでみせる。

だが残念ながら、それでも短い。


「あ、いえ。直してもやっぱり丈が足りませんね。すみません、今日身体に合う洋服を探しに行ってみます」

「いや、これで十分だ。そう長い滞在でもないしね」

その言葉に正直ちょっとホッとする。買いに行く時間も惜しい。


「それより手伝おう。何をすればいいかな」

「えっ、いや、お疲れでしょうし、それにその腕では・・・」

思わず折れた右腕を見る。

セオドアは「こいつアホか」と言わんばかりの目つきだ。


ベスが私の目の前で、ぴょんぴょんと飛んでみせた。

「大丈夫よ、私がおじ様のお手伝いするから!私、一度お馬さんのお世話をしてみたかったの!」

ベスが高らかに宣言する。


怪我人に貴族令嬢。

手伝いになるどころか、足手まといになる未来しかみえない。


「ここはふれあい牧場じゃねえぞ・・・」

セオドアがうんざりとした声で呟いている。

多分ベスは、馬に餌を与えたり、楽しく触れ合ったりとかを想像しているに違いない。

(馬の世話は、あなたたちが思っているより重労働なのよ)


馬に慣れていないベスには、誰かが必ず付いていないと危ないだろう。

片腕のアルバート様では心許ないから、私かセオドアのどちらかの手が必ず取られる。

(セオドアの気持ちもわかる。セオドアも私もわんさか仕事が残っているしね。申し訳ないけど、ベスたちに付き合っている時間はないのよ)


「やっぱりベスたちは、屋敷に戻って朝ご飯を食べましょう」

悪いとは思ったが、屋敷に向かわそうと手を引っ張る。

「遠慮しないで。お手伝いするわよ」


連れていかれまいと足を踏ん張りながらベスが、クララの真似なのか、任せてと右腕で胸を叩いた。

(そうは言ってもね。他の仕事もあるからあんまり時間もかけてられないし、何よりあなたがちょろちょろと動き回ると危ないのよ)


その時ベスのお腹がぐぅ~っと鳴った。

「あ、ほら。お腹が空いてるんでしょう?戻ってアルバート様と朝ご飯を食べていらっしゃい」

親切めかして、屋敷に帰そうと試みる。


「え~、お手伝い、したかったのに・・・」

ベスががっかりして俯いたが、すぐに思いついたように顔をあげた。


「ねぇ、お願い。ダメ?」

小首を傾げて、潤んだ瞳で上目遣いにお願いされる。

(可愛い、可愛い、可愛いけど・・・)


「お願い、アンナ」

更に両手を合わせて、可愛く微笑む。


「ね?」

ダメ押しだ。


額に手を当てて空を見る。

(こんなに可愛いのに、断れる?)


ベスの小さな身体に両手をまわして抱きしめる。

「もうっ、ベスったらなんでそんなに可愛いの。断れないじゃない」

「えへへ~」

ベスはなぜか誇らしげだ。


「・・・・・・ベス、どこでそんなことを覚えたんだ」

憮然とアルバート様が聞いてくる。


「イザベラおば様よ。お願いがある時は、こんな風にしたら男の人は何でも言うこと聞いてくれるって」

「姉上か。本当にあの人はろくでもないことしか教えない・・・!」

アルバート様の首ががっくりと垂れた。

(ふふっ、アルバート様ったら結構苦労しているみたい)


「でもそれ、いいわね。私もやってみようかしら?」

「止めとけ、お前には無理だ」

セオドアが呆れ顔で失礼なことを言ってくる。

「あらっ、やってみなければわからないじゃない?」


セオドアの近くに寄り、小首を傾げてみた。

背の高さがほとんど同じだから、顔が思ったより近づいてしまった。

少しでも可愛く見えるよう、目の端に力を入れて笑顔を作る。


「ね、お願い、セオドア」


瞬間セオドアが手で顔を覆い、後ろを向いてしゃがみこんだ。


「えっ、何、何?セオドア、一体、どうしたの?」

「・・・・・・いや、お前、なんだ・・・それ・・・・・」

「ええっ、そんなに酷かった?ちょっと!ねぇ、そこまでする?」

セオドアのあまりの拒否具合に、ショックを受ける。


どういうことと近寄って顔を覗き込もうとすれば


「やめろ・・・・・今、俺のとこに、来るな・・・・」


今度は顔を膝の間に挟み、片手でシッシッと犬のように追い払われる。

(酷い。酷すぎる。仮にも私、女子なんですけど?)


「ちょっと、そんなに気持ち悪い?ねぇ、ショックなんだけど」

「アンナ!そんなことないわ!とっても可愛かった!!」

ベスが両手を握りしめて励ましてくれるが、この反応はかなりきつい。


「やっぱりベスみたいな美少女じゃないと、無理なのね・・・」

もう気分は最悪だ。馬鹿なことをしてしまった。

「そんなことないわよ!大丈夫!そうだ、おじ様は?おじ様になら効くんじゃないかしら!?」

「え、えぇ・・・そんな」

「何事も挑戦って、イザベラおば様が言ってた!」

ベスの言葉に勇気をもらう。


「じゃ、じゃあ、お願い?アルバート様?」


自信はなかったけど、アルバート様にもやってみた。

ベスの仕草を思いだし、今度は手の動きもつける。

(アルバート様とは身長差もあるから、大分マシに見えると思うんだけど・・・)


するとアルバート様は、無表情のまま、ゆっくりと左手で顔を覆った。そのまま動かない。


あまりに動かないので、お伺いを立ててみる。


「えっと、あの、どうでした?」

「・・・・・・アンナ嬢、ベス」


「なぁに?」

「はい」


「今後、そういうことはしないように」


『はぁ~い』

何故だか怒られてしまった。

(可愛いって難しいのね)


ため息をついていたら、セオドアが立ち上がった。

どうやら気持ちの悪さからは復活したらしい。でもまだ耳が赤い。


「もういいじゃん、手伝ってもらおうぜ」

セオドアが諦めたように、がしがしと頭を掻きながら言う。

「でも・・」

私がベスたちの相手をすれば、その分またセオドアに負担がかかる。

これ以上セオドアに負担はかけれない。


セオドアがベスに向かって、ニッと笑いかける。

「手伝ってくれるのは構わないよ。ただし、直接の馬の世話は、まだダメだ。馬小屋の掃除ならいいさ」

「え~、お掃除?」


今度は、アルバート様が口を尖らすベスに諭す。

「馬は本来臆病な生き物だからね。よく知らない人間が来たらびっくりするし、ましてベスも馬に慣れているわけではないだろう。まずは馬と仲良くなるために、私と一緒にお掃除から始めさせてもらおうか」

「お掃除したら、仲良くなれるの?」

「ああ。何事にも順番があるからね。ベスだって自分のお世話をしてくれる人のことは好きだろう?まずは馬に信頼できる良い人間だと思ってもらうことにしよう」

「わかったわ!任せて!!」

ベスが張り切って大きな声を出した。


その途端、セオドアが怖い顔をしてベスに近づく。

「ちびちゃん、大きな声は出すな。馬が怖がるからな。手伝ってくれるのはありがたいが、馬には近寄らないようにしろ。特に馬の後ろには立つな。蹴られるぞ」


その言葉に緊張するベスに、セオドアが今度は笑いながら頭をくしゃくしゃと撫でる。

「でも俺がいいと言った時は、見に来ていいぞ。掃除を頑張ったら、一緒に馬にリンゴをやろう」

最後の一言に、ベスが満面の笑みを浮かべる。


「『男に二言はなし』だ」

セオドアが、またベスの頭を撫でまわしている。

ベスも髪型が崩れるとか文句を言いながらも、嬉しそうだ。

(セオドアが子どもに好かれるのはこういうとこよね)

結局優しいのだ。


「じゃあ、時間もないことだし、始めましょうか」

両手を合わせて、仕切り直しする。

セオドアは手早く準備をして、馬房の外に馬を連れ出してくれた。

放牧地まで連れて行ったら、また戻ってきてくれるだろう。


掃除もある程度は目処が立っている。

(お腹も空いてるだろうし、さっさと済ませてベスに朝ご飯を食べさせなくては)


「あ、そうだ、ベスにいいものあげる」

ポケットから蜂蜜飴を取り出して渡す。

「なぁに?」

「蜂蜜飴。甘くて美味しいわよ」

ベスが興味深そうに飴玉の包みを開く。横からアルバート様も覗き込んできたのでついでに渡す。

「アルバート様には、大人向けのをどうぞ」

食べないかなと思ったが、アルバート様も口に含む。


「あま~い」

ベスが頬を押さえてにっこり笑う。

「ああ、確かにピリッとした感じが美味しいな」

「えぇ?私のはしないけど?」

「アルバート様のは、同じ蜂蜜飴でも生姜が入っているからね」

「私も、大人用を食べてみてい~い?」

「えぇ?大丈夫?」

「大丈夫。ね、お願い?」

まあ、私も子どもの時に食べてたからいいかな、とベスに生姜の入った飴を渡してあげる。


「あっ本当だ。ちょっとピリッてする。でも美味しいわ」

「うふふ、そうでしょう。さぁ、これで元気も出ただろうし、頑張って働いて美味しい朝ご飯を食べましょう」


◇◇◇


「手を綺麗に洗おうね」

水場でベスに石鹸を渡す。

ベスは手の汚れが気になるのか、ごしごしと強めに擦っている。

アルバート様は、ベスの髪についた藁くずを丁寧に取ってあげていた。


馬小屋の掃除は意外なほどスムーズにいった。

アルバート様は、どうやら手馴れいたらしい。

片手で器用にフォークを使い、糞を取るのも敷料を補充するのも完璧にやってのけた。

その一方で、ベスに餌桶と水桶を洗うよう指示してくれたおかげで、段取り良く済ませることができた。


(馬の世話の経験があるのかしら?)

うちのような人手の足りない貧乏貴族ならわかるが、高位貴族になると馬の世話は馬丁に任せて自分ではやらないはずだ。


(騎士団にいたから?)

でもヘンリー様が馬の世話を手伝ってくれることはなかったから、馬の世話は騎士の仕事には含まれていないような気がする。


(アルバート様ってわからないわよね。言葉遣いや所作は高位貴族のような気がするけど、平民がするようなことも平気でやってのけるし)

そっと横目で窺うと、ベスに爪の中に入った汚れを洗うよう指示している。

(まあ、考えても仕方がないわよね。それに1週間ほどのつきあいだから関係ないか)


それにしても予想に反して、二人とも一生懸命やってくれた。

馬房には、糞や尿、それに生き物特有の匂いだってある。正直臭い。

だからベスは汚いと嫌がるかとも思っていたが、黙々と命じられるままに桶を洗っていた。

先ほどは戦力外として扱ってしまい、本当に申し訳ない。


「ありがとう、とても助かったわ」

心を込めてお礼を言う。

私の気持ちが通じたのか、ベスの顔がぱっと輝く。


「明日もお手伝いするから任せて!」

どうしようとアルバート様を見れば

「勿論だ。明日も手伝おう」

(・・・・・・こちらも意外とやる気だった)

ベスが手を洗い終わったみたいなので、タオルを手渡す。


「いえ、ありがたいけど、明日はジョージが来てくれるから大丈夫です」

「そうなのか?」

「じゃあ、違うことをお手伝いするわね」

ベスがタオルを返しながら、そんな嬉しいことを言ってくれる。


「いいのよ。ベスはお客様だしゆっくりしてて」

「でもアルバートおじ様が、アンナが大変だからお手伝いしようねって」

そうなのかとアルバート様をみれば、スッと目を逸らされた。


「世話になっているからな」

「私もアンナの役に立ちたいの!アンナのこと大好きだし」

(ベスったら本当に可愛い!こんな可愛い子には、私もご褒美をあげたい!)


「ベス、手を出して」

「なぁに?」

ポケットからクリームの入った容器を出して手に載せてやる。

「なんだ、それは?」

アルバート様が眉を顰めている。

「手を保護するクリームです。弟が先月作ったからと送ってきてくれたんです。蜂蜜入りなんですよ」

怪しいものではないと蓋を度開け、中を見せる。

容器の中だけ見ると白い油の塊だ。

興味深げにベスも中を覗く。


「こんなのじゃないけどお母様もよくお顔や手に塗っているわ。お肌がしっとりするからって」

「初めて見るな」

アルバート様が不思議そうにクリームに顔を近づける。


(そうでしょうとも。王都で売っているのは高級クリームしかないからね)

「王都で売っている高級クリームを参考にして作ったみたいです。私の手荒れが少しでも良くなるようにって」

小分けにしてポケットに入れて、いつでも塗れるようにしている。

そのおかげで最近手荒れが随分と良くなった。

ついでに夜は顔にもつけている。おかげで肌の調子が良い。


「ちょっとベタベタしますけど、これを塗ると手が荒れないんですよ」

とりあえず自分の手に塗り込んで掲げてみせ、アルバート様の手に少量載せてやる。

アルバート様は一瞬手を引っ込めそうになったが、意図を理解したのか大人しく塗らせてくれた。

綺麗な顔に似合わず、手が骨ばっていてごつごつしている。


「でもその分効果はあるみたいで。私の手荒れも随分良くなったんですよ。それにちょとした火傷くらいなら効きます」


自分の身体で立証済みだ。

オリバーも私に送る前に、散々自分の身体で試したと話していたから、まず間違いはない。

「もしかして、アスター商会との取引というのは、このクリームのことか?」

「いいえ、これはまだダニエル様にはお話していません。違うものを・・・」

「もうっ!!さっきから二人だけでお話して!私にも塗ってよ!!」

ぷりぷりと怒りながらベスが間に入ってくる。


「あっ、ごめんごめん」

上目遣いにアルバート様を見れば、よしと言わんばかりに頷いたので、ベスにもクリームを塗ってあげる。

「ホントだぁ、ちょっとべたべたする」

嬉しそうにまだ子供らしさを残す、ぷっくりした手を揚げて見せてくる。

「しばらくするとべたべたも無くなるからっ・・・て、あっ、セオドア、セオドアったらどうしたの?」

蹄の音が聞こえたと思ったら、セオドアだ。なぜか馬に乗っている。


「いや、俺、すぐに出るわ」

「えっ、どうしたの?」

「フィンリーじいさんとこの孫、覚えてるか?ちょうど今、休みもらって帰ってきてるんだって」

「お孫さんって、確か王都で働いている?」

「そうそう。王都で土木の最新技術学んでるらしくて。どうやら専門が土木工学で復旧工事に詳しいらしいんだわ。土砂崩れの現場、見てくれるってさ。ちょっと俺、案内してくるわ」

そう言うなり馬の前脚を高く上げさせ、跳ねるように走り出してしまった。


ベスがぽかんとしながら見送っている。

途中、何か思い出したのかセオドアが馬を止める。


そして遠くから大声で叫んだ。

「ベス!餌やりは帰ってきたら一緒にしよう!ごめんな!!」

それだけ言って、また土埃を巻き上げながら駆けていった。


「お馬さんにご飯あげるって、お約束、してたのにぃ・・・」

ベスは不満げだ。

ご褒美の餌やりを楽しみに手伝いを頑張ったのだから尚更だろう。


「セオドアにも仕事があるんだ。仕方がないだろう」

「ごめんね、ベス。セオドアが戻ってきたら一緒にお馬さんにご飯をあげようか」

二人で代わるがわる慰めるが、それでも不服そうなベスの手を繋ぐ。


「さあ、朝ご飯を食べに行きましょう。クララが首を長くして待っているわ」

(機嫌、直るといいんだけど)

「はぁ~い」

帰り道のベスの足取りは重く、口数も少なかった。



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