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52 二人の正体


恐ろしいことに、タイラーが「第一騎士団」と呼んだ軍団は、うちの玄関前に集合している。

騎士団の巻き上げる土埃を確認してから、何をする間もなかった。

あっという間に、うちの庭は騎士団に占拠されている。


(この光景は、一体何なの・・・?)

大勢の騎士たちが、壁のように私たちを取り囲んでいるために、威圧感がすごい。

馬から降りて整列した騎士たちは、皆背筋を伸ばして、微動だにせずに私たちを見据えている。

集まった騎士たちは皆、白銀色の甲冑に身を包み、赤いマントをなびかせて優雅な姿に見えるが、腰には長剣を下げている。


この冗談みたいな光景に、頭がついていかない。


「えっと、あの・・・」


狼狽えている私に、精悍な騎士二人がこちらに近づいて膝をついた。

逞しい壮年者と、もう一人はアルバート様と同じくらいの年齢だろうか。

青年の方は、銀縁の眼鏡が光で反射しているため、顔が良く見えない。

逞しい騎士の方は、日焼けした顔に大きな傷があって、歴戦の騎士を思わせた。


「ご無事で何よりでございます。アルバート殿下」


(へっ?殿下?)

逞しい騎士の言葉に驚く私をよそに、アルバート様は鷹揚に頷いている。

殿下と呼ばれるからには、アルバート様は王族なのだろうか。


「ああ。エリオットか。騎士団長ともあろうお前が、わざわざ迎えに来てくれたのか」

「はい。アルバート殿下の御身を守るためですから、当然でございます」


エリオットと呼ばれた逞しい騎士は、頭を下げたままだ。


うちの国の軍事を司る最上位が、騎士団長だ。

そんな人が頭を下げているということは、アルバート様は偉いのだろう。

アルバート様にどういうことかと問い詰めたいが、驚きすぎて何も言えない私を残したまま、三人は会話を続けている。


「しかし、よくここがわかったな」

「私が計算しましたからね」


アルバート様の言葉に、眼鏡を押し上げながら若い騎士が、得意げに顔を上げた。

眼鏡の騎士は、アルバート様に対して随分気安いようだ。


「大変だったんですよ。王都中探してもいないし、お二人の目撃情報もないから、残るは郊外だと思いましてね。それで川を下ったサウスビー領に目をつけたんですよ」


「だがライアン、お前にしては、時間がかかったように思えるのだが」


アルバート様の物言いに、ライアンと呼ばれた騎士は、腰に手を当て、ため息をつきながら立ち上がった。


「勘弁してくださいよ。サウスビー領と王都を結ぶ道が塞がっていたでしょう?予測はできても、実行はなかなかできないんですよ。これでも重臣たちを説得して、大急ぎで道を復旧させたんですから」


(だから王都から道の復旧作業の手伝いが入ったのね!?)

急遽王都から復旧作業の手伝いが入ったのは、アルバート様たちのためだったのか。

領内のことは領主が対応するのが原則だから、王都から助けがくるなんておかしいと思っていた。


「ああ、そうだな。大変だっただろう。すまない」

「・・・え、い、いえ。私の方こそ、遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」


アルバート様が謝ると、ライアンと呼ばれた騎士は、一瞬戸惑ったような顔をしてから頭を下げた。

今度はエリオット団長が、やれやれと立ち上がる。


「私たちも苦労したんですよ。殿下たちの情報を得るために騎士たちを派遣したら、不審者と間違われて、何度も領民たちから白い目で見られましたよ。まさか殿下たちを探してるなんて言えないでしょう?ここの領民たちは、よそ者を警戒するのか、もう疑われて大変で」


(マシューの言っていた不審者って、騎士だったのね・・・)


護衛もつけずに王族がいると知れたら、暗殺や誘拐される可能性だって出てくる。

騎士たちが秘密裏に動くのは当然だが、マシューたちはアルバート様たちを慕っていたから、怪しいよそ者には当然口は固くなる。

騎士たちがアルバート様たちの居所を見つけるのは、相当苦労しただろう。


一つずつ、疑問だったパズルのピースが組み合わさっていく。


「手を尽くして探して、ようやくサウスビー家に、美少女と、やけに背の高い男がいたという情報を手に入れたんですよ。それで何とか、ここまで来られたんですよ」


視察の時、アルバート様は帽子を深く被っていたから、顔が見えなかった。

もし顔が出ていれば、あの場でアルバート様が王族だとわかる人間がいたかもしれない。

それが良かったのか、悪かったのかは、今となってはわからないが。


「それは悪かったな。・・・それにしても、私たちが生きている前提で探してくれたのだな」

「そりゃあねぇ。あれだけ鍛え上げたアルバート様が死ぬわけないでしょうし、ましてや王女殿下もいらっしゃるから、絶対どこかで生きてると思っていましたよ」


それからライアン様は、チラリとアルバート様の骨折した右腕に目を走らせる。


「ま、無傷とはいかなかったようですが」

「当たり前だろう」


アルバート様は苦笑いだ。

あの嵐の中、ここまで流されてきて、生きているだけでも奇跡だ。


ベスの無事を確認するかのように、ライアン様がセオドアの腕の中にいるベスに目を向ければ、見知った顔なのか、ライアン様に向けて小さく手を振っている。


「エリザベス王女殿下もご無事で何よりです。・・・・・それにしても、お二人とも、少し見ない間に健康的になられましたね」


ライアン様は、ベスに小さく手を振り返しながら、少し嫌味のように返す。


この数日の間に、ベスは日焼けしたせいか、絵画に出てくるような美少女だった印象が薄れた。

よく食べるし、外に出て思いきり運動したせいか、肌艶も良く、生き生きして見える。

同じくアルバート様も日焼けし、表情が出てきたためか、人間らしく見える。


「そうだな。ここは楽しいからな」

「・・・まるで王宮が楽しくないみたいな言い方をしないでもらえますか?私たちがどれだけ必死で探したと思っているのですか!?」


まるでバカンスを楽しんだかのようなアルバート様の発言に、顔を引き攣らせながらライアン様がアルバート様に詰め寄る。


「そうですよ。お二人がいなくなって、王宮中どんな騒ぎになったかわかりますか?陛下の憔悴ぶりを見せてあげたかったですよ。あのいつも朗らかな陛下が、憔悴しきって、一言も発しませんでしたよ。王妃殿下なんて、心配のあまり、泣き叫んでは倒れるを繰り返すし。侍女たちは、責任取って自害するとまで言うから、それを止めるのにもう必死で。王宮はもう、この世の阿鼻叫喚の図みたいになっていましたよ」


エリオット団長の心底げんなりした顔に、アルバート様も想像がついたのか、さすがに神妙な顔をして頷いている。

ベスは両親の話題が出たからか、セオドアの腕の中でそわそわしている。


「すまないな。王都には今から帰るところだったんだ。エリオット、ライアン、紹介しよう。私たちが世話になったサウスビー領当主のアンナだ」


呆然とアルバート様たちのやり取りを聞いていただけなのに、急に紹介されてしまい、慌てて挨拶をする。


「は、初めまして。サウスビー領当主アンナでございます」

「初めまして、第一騎士団長を務めるエリオット・アームストロングです」

「同じく第一騎士団所属ライアン・グレイです。アルバート殿下がお世話になりました」


二人共、私でも聞いたことがある有名な家名だったが、偉ぶることなく、にこやかに微笑んで私に挨拶をしてくれる。

きっといい人たちに違いない。


「ああ、本当にそうだな。彼女には、アンナ嬢には本当に世話になった」


アルバート様が私の手を取って、にっこりと微笑んだ途端、騎士たちにどよめきが走る。

エリオット団長とライアン様の目が、信じられないようなものでも見るように、大きく見開いている。


(えっ、何?、一体何なの?)

アルバート様が、ただ私に笑いかけただけなのに、騎士たちが顔を見合わせて騒然としている。

この妙な展開に、頭が追いつかない。


「いいな。彼女は私たちの命の恩人なのだ。皆もそのように扱ってくれ」

「はっ!!!」


騎士たちに向かってアルバート様が告げれば、その場にいる騎士たちが一斉に胸に手を当てながら、膝をついて私に頭を垂れた。


(壮観過ぎて怖いっ)

なんせ、庭中を埋め尽くしている白銀の甲冑を着けた騎士たちが、私に向かって膝をついているのだ。

人生初めての経験で、足が震えそうになる。

クララとタイラーは、真っ青になって今にも倒れそうだ。


「・・・もしかして、殿下は、わざと戻ってこなかったんじゃないか?」

「しっ!滅多なことは言うな」

「いや、だって・・」


同じく膝をついたライアン様が、こそこそとエリオット団長に話しかけているが、動揺している私には、何を言っているかは聞き取れない。


「ア、アルバート様、あ、あの、アルバート様って・・・」

「ああ、黙っていてすまなかったな。私はアルバート・ロズモンド。国王陛下の弟だ」

「え、え、えぇ?」

「ベスは、兄上の娘だから、第一王女になる」


(・・・・・・アルバート様は王弟で、ベスは王女!?)


頭が真っ白になって口もきけない私の横で、エリオット団長たちがアルバート様を促している。


「アルバート殿下、申し訳ありませんが、すぐに王都へ戻る準備をしてください。陛下たちがお待ちかねです」

「そうしてください。急がないと、大変なことになります」

「ああ。だが世話になった者たちに挨拶をさせてくれ。ベスが懐いているからな。お前たちも疲れただろうし、その間に少し休むといい」


アルバート様が背を向けて屋敷に戻ろうとすると、ライアン様がアルバート様の左手をがっしりと握りしめた。ライアン様の口元が引き攣っている。


「どこに行こうとしていらっしゃるんですか?先ほどエリオット団長が言ったでしょう?王宮は大騒ぎだと」

「いや、別れの挨拶ぐらい」

「そんな時間はありませんよ。王妃殿下が、今からいらっしゃいます。迎えの準備をしてください」


ライアン様の言葉に、アルバート様が驚いたように目を開いた。


「はぁ!?義姉上がか?義姉上がここまで来るのか?」

「ええ。勿論です。馬には乗れないので、馬車でこちらに向かっています」


馬車は馬に比べると、どうしてもスピードが落ちる。

後から合流するつもりなのだろうか。


「義姉上がここまで来るのは大変だろう。なぜ王宮で待っていないのだ?」

「少しでも早くエリザベス王女殿下の無事を確認したいからでしょう。私どもも、止めはしたのですよ。長い道のりになりますし、馬車ではスピードも落ちるから、私どもがエリザベス王女殿下をお連れした方が早いとは言ったのですが、お聞きになりませんでした」


「・・・・・・そうか」


ライアン様の説明に、アルバート様が額に手を当てている。


「ちなみに、陛下もいらっしゃいます」

「兄上もか!?」

「ええ。陛下は馬に乗ってここに向かおうとしましたが、さすがに警護上それは止めていただきたいと懇願しまして。只今、王妃殿下と同じ馬車に乗っていらっしゃいます。騎士団の中でも、選りすぐりの速さに長けた馬にひかせていますから、もうお着きになりますよ」


遠くをみれば、先ほどと同じように土埃が舞いあがっているのが見えた。


「護衛は、どのくらいついているのだ?」

「勿論同じ数をつけております」


(同じ数って、もううちの庭に入らないわよ・・・ってその前に陛下がお見えになるの!?)


どうすればいいかわからず、気が遠くなりそうだった。




お読みいただきありがとうございました。

ブクマや評価をしてくださった方々、本当にありがとうございます。本当に嬉しく、励みにしています。


明日も朝7時に更新予定です。

よかったら、明日もお付き合いください。

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