48 続 ベス探し
外に出ようとしたところで、セオドアが戻ってくるのが見えた。
「セオドア!!」
私がこんなに焦っているというのに、セオドアはのんびりと玄関まで歩いてきている。
「馬車を玄関までまわしてきたぞ。・・・って、おい、そんなに慌ててどうしたんだ?」
「ベ、べ、ベス。ベスがいないのよ。ねぇ、ベスを見なかった?」
不安のあまり、もう腰が抜けそうになり、震える手で思わずセオドアに縋りつく。
セオドアはベスを、外で見かけなかっただろうか。
「何だって!?外にはいなかったぞ!!」
「た、多分、森か、養蜂場へ、行ったと思うの・・・!!」
セオドアが無言で私の身体を押し戻し、馬小屋の方へ駆けて行く。
恐らく馬小屋に先に行って、馬に鞍をつけてくれるつもりだろう。
アルバート様と、セオドアの後を追いかけるように馬小屋までの道をひた走るが、走り慣れた道のはずなのに、やけに遠く感じる。
(・・・・・・胸が苦しい!!!)
こんなに全力で走ったことなんて、いつぶりだろう。
肺に空気が上手く入らず、気持ちは急くのに、足がもつれて上手く走ることができない。
「あっ・・・!」
腹が立つほど上手く動かない足が石に躓き、思いっきり転んでしまう。
前を走っていたアルバート様が私の叫び声に気付いて、駆け戻ってきた。
腕を掴んで起こそうとしてくるが、今はそんなことはどうでもいい。
私のことより、一刻も早くベスを探すために馬に鞍をつけて準備して欲しい。
「大丈夫か?アンナ嬢?」
「私のことはいいから!早く、早く馬小屋へ行ってください!!すぐに追いかけますから!!!」
アルバート様は私を気にする素振りを見せながらも、馬小屋に向かって駆けていく。
さっきまでは、私の走るスピードに合わせていたに違いない。風のように速い。
(お願い、ベス、せめて馬小屋にいて!)
もしかしたら、ベスは馬を見に行っただけかもしれない。
あの子は馬が大好きだ。
(そうよ、きっとそうよ。ベスは馬小屋にいるのよ)
大好きな馬に、お別れを言いに行ったのだろう。
そんなかすかな希望に縋りつくが、すぐに不安が押し寄せる。
(でも、もし馬小屋にいなかったら、あの子は一体どこに行ったの?)
1人で歩いて森まで行ったのか。それとも養蜂場のある林までか。
だがどちらに向かうにしても、途中に川もあれば、池もある。
子どもの水による事故は、後を絶たない。
もし行く途中で、迷子になっていたら?
それに、不審者が彷徨いていたと昨夜マシューが言っていた。
不審者に連れ去られていたら?あの子はどうなるの?
頭の中には、最悪の事態ばかりが浮かんでくる。
冷汗が流れて、心臓の鼓動がバクバクと止まらず、眩暈までしてきた。
それでも立ち上がろうとしたところで、自分の膝から、血がうっすらと滲んでいるのに気が付く。
傷口がじんじんと痛い。
「・・・・・・・偉っそうに」
腹から、自分のものとは思えないほどの低い声がでた。
あんなに偉そうに、アルバート様にベスのお願いを聞くように言っておきながら、自分はベスに理由も聞かず、養蜂場行きを却下した。
興奮して、眠れなくなったらといけないと、ベスの家に帰ることを話さなかった。
早く王都についた方がいいからと、出発時間まで勝手に決めていた。
ベスの気持ちなんて、聞こうともしなかった。
私はただベスを甘やかし、自分の都合がいい時に可愛がっていただけだ。
あの子は何を思い、どうして一人で出て行ってしまったのだろう。
次々に後悔が胸に押し寄せて涙が滲んでくるが、泣くのはベスを見つけた後だ。
目元を拭って立ち上がり、持てる力を振り絞って走る。
(ごめんね、ベス!!お願いだから無事でいて!!)
息を切らしながらひたすら馬小屋まで走れば、馬に乗ったアルバート様たちが私の元に駆けてきた。
セオドアが、私の分の馬も引いてきている。
「アンナ嬢!」
「アンナ!!」
アルバート様が、私が馬に乗るのを手助けしようと馬から降りて駆けつけてくれたが、少しの時間も惜しくて、馬のたてがみを掴んで飛び乗る。
「俺は森に行く!アンナたちは養蜂場の方へ行ってくれ!」
「わかったわ!」
返事をした瞬間、セオドアがパッと何かを投げてきたので、片手で素早く掴む。
指を開いて確認すれば、マッチだ。
「ベスを見つけたら、すぐに知らせろ!俺も知らせる!!」
「ええ、セオドアも気をつけてね!」
セオドアが馬の腹を思い切り蹴り上げ、道を駆け抜けて行った。
セオドアの乗る黒毛は風のように走るから、ベスが森へ行ったなら、すぐに追いつくはずだ。
それに私たちだって、馬に乗っているのだ。
すぐにベスを見つけることができる。きっとそうに決まっている。
「大丈夫、大丈夫。子どもの足よ。そう遠くは行ってないはず」
自分を落ち着かせようと、必死に自分に言い聞かせるようにように呟いたが、無情にもアルバート様が告げた内容に驚愕して、手綱から手が離れそうになった。
「いや、ロバがいなくなっていた」
「・・・・・・ロバ!?えっ、ロバ!?ロバがいないって、どういうことですか!?」
「おそらくベスは、ロバに乗っているはずだ」
(・・・・・・ベス!!!)
思わず心の中で、ベスの名を思いっきり叫ぶ。
あの子の運動神経は、抜群にいい。
昨日、ロバを乗りこなせるようになったと言っていた。
「そんな、まさか!?あの子1人で!?」
「ああ、鞍もなかった」
(手先が不器用なくせに、何でそういうことはできるのよ!!!)
ロバに乗って行ったなら、捜索範囲がかなり広まる。
それ以前に、ベスがロバに振り落とされたり、ロバの制御ができずに、どこか遠くまで行ってしまうかもしれない。
心臓が早鐘を打ち、手綱を握る手が震えるのを止めることができなかった。
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