表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/142

47 ベス探し


部屋に戻り、ベスのドレスを手に取る。

ドレスの胸の部分に、大輪の赤い薔薇。

裾には、小さな赤い薔薇と葉をバランスよく配置している。

大雑把な私にしては、細かい部分まで丁寧に縫い上げた。我ながら会心の出来だ。


(お店でも売れるんじゃないかしら?)


完全な自画自賛だが、きっとベスも喜んでくれると確信している。

喜んで「どうかしら?」とでも言いながら、その場でくるりと回って見せてくれるに違いない。

そう思いながらも、これを着たらベスが帰ってしまうと思うと、足が動かない。

ずっとうちにいてくれたらいいのにという思いが過り、慌てて首を振る。


(いやっ、こんなことではダメよ!)

ベスのためにも、ご両親のためにも、ベスを早く家に帰らせないといけない。


「さぁ、しんみりしている場合じゃないわ!準備させないとね!遅れちゃうわ」


自分を鼓舞するように、ドレスを抱えて食堂まで走る。

喜ぶベスの顔を見るのが楽しみだ。


「ベス、お待たせ。ってあれ?ベスったらどこに行ったのかしら」

「どうされました?」


食堂の扉から入ってきたのは、タイラーだ。


「ああ、タイラー、ベスを知らない?」

「おや、先ほどまで食堂にいらっしゃいましたが」

「おかしいわね。台所かしら」

「そうかもしれませんね。クララがまたお菓子を作っていましたよ」

「また?お土産の焼き菓子はもう作ったでしょうに」


クララは、これ以上何を作ろうというのだろう。

台所にベスを探しに行こうとする私を、タイラーが呼び止める。


「あ、お嬢様、ベス様を見つけましたら、私にもお知らせください」

「いいわよ。どうしたの?」

「マジックのコツを書いてきました。ベス様には、マジックを完璧に出来るようになっていただかないと」

上着のポケットから、マジックのコツを書いたメモ用紙を見せてきた。


細かい文字が、びっしりと並んでいる。

横には解説のつもりだろうか、下手くそな絵まで描いてある。

二人仲良く、すっかり師弟関係が出来上がっているようだ。


「わかったわ。ベスを見つけたら、必ず教えるわ。じゃあ、後でね」


クララがお菓子を作ってるであろう台所へ向かう。

もしかしたら、クララと一緒にお菓子を作っているかもしれない。


あの子は料理をすることが大好きだ。

寝ていた私のために、一人でお粥まで作ったベスを思い出し、くすっと笑う。

家に帰ったら、きっとベスはベスのお父様にお粥を作るだろう。

ベスの作った、あの不味いお粥を無理してでも食べる、顔も知らないベスのお父様を想像すると、笑いがこみ上げてくる。


「クララ、ベスはいるかしら?」

「えぇ?ベス様ですか?台所には来ていませんよ」


クララは額に汗を滲ませながら、必死にボウルをかき混ぜている。


「ちょっと、クララ、何作ってるの?もうすぐ出発よ」

「生クリームですよ。お嬢様。ベス様は、生クリームがお好きでしょう?シュークリームを作ってあげようと思いまして」

「今から?」

「ええ。まだ日中は暑いですからね。悪くなってはいけませんし」


シュー生地はもうすでに焼いていたらしく、テーブルに並べてある。

後はもう生クリームを入れれば完成だ。


「お土産に焼き菓子を持たせたでしょう?」

「あれはご家族で食べる用。これは道中、馬車で食べる用です」


口うるさいアルバート様は、このシュークリームを見たら何と言うだろう。

でも最後と思えば、許してくれるかもしれない。


「ベス様がいらっしゃらないんですか?先ほどまでは、食堂にいましたよ」

「それがいなかったのよ。おかしいわね。部屋に戻ったのかしら。ちょっと見てくるわ」


廊下には、明るい光が差し込んできていた。

空が晴れていると思うと、ホッとする。

これならベスたちを安心して送り出せると思いながら階段を上がり、アルバート様たちの部屋の扉をノックして開ける。


「失礼します」

「ああ、アンナ嬢。どうしたのだ?」


アルバート様は、もうすぐ出発だというのに、机で書き物をしている。


「ベスが食堂にいなくて。ここにも戻ってきていませんか?」

「ああ。君が食堂で待つようにと先ほど言っていたな。この部屋には来ていないが、いないのか?」


「そうなんですよ。どこにもいなくて、探しているんです」

「貯蔵庫ではないか?昨日お目当ての蜂蜜を見つけれなかったようだし」

「ああ、そういえばそうですね。貯蔵庫を見てきます」

「待ちなさい。私も行こう」


アルバート様が、机の上を片付けて立ち上がりながら、私に書いた紙を渡してくる。


「これは何ですか?」

「ああ、領地経営の今後の改善点を書いておいた。良かったら参考にするといい」

「・・・・・・ありがとうございます」


最後のお別れの時まで、アルバート様は仕事のことばかり。

思わずため息が出そうになって、慌てて飲み込む。

仕事人間のアルバート様らしいといえば、アルバート様らしいが、少しだけそのことが寂しいような気がした。


だが、今はそれよりベスのことだ。

ベスは屋敷に慣れてきたのはいいが、あちこち一人で自由に動き回るから、すぐにどこに行ったのかわからなくなる。

もうすぐ出発の時間だから、早く見つかって欲しい。


◇◇◇


「貯蔵庫にいるといいんですけど」


不安な気持ちを隠して、アルバート様と二人で貯蔵庫の扉を開けてみたが、誰もいる様子がない。

ベスのお土産用に蜂蜜を沢山持ち出したたため、棚ががらんと空いている以外は、いつもと同じだ。


「ベス、ベス、どこにいるの?かくれんぼしているなら、出てきてね」

「ベス。もうすぐ出発だ。出てきなさい」


貯蔵庫内を二人で呼びかけながら、ベスが隠れそうな場所を探してみるが、ベスの姿はどこにもない。


「・・・・・・・・・・・・」


嫌な予感がして、アルバート様と顔を見合わせる。


「食堂にはいなかったんだよな」

「はい」

「台所にも」

「ええ」


アルバート様が、難しい顔で考えている。

私も嫌な予感がしたためか、自分の心臓の音がやけに耳に響く。


「先ほどベスは、キノコ狩りと養蜂場に行きたいと言っていたな」


「・・・・・・まさか」

「もう一度屋敷内を探してみよう。アンナ嬢、クララとタイラーにも知らせてくれ」


慌ててクララたちにもベスがいないことを伝え、屋敷中を探したが、やはりどこにもない。

クララもタイラーも、顔が真っ青だ。


「アルバート様!!どうしましょう!!!」


口の中が乾き、嫌な汗が背中を流れていく。

血の気が引き、手足が冷たくなって震えてしまう私を、アルバート様が落ち着かせるように肩を叩くが、震えが止まらない。


「大丈夫だ。落ち着くんだ。クララはもう一度屋敷内を。タイラーは庭をあたってくれ。セオドアは、まだ馬小屋にいるな」

「え、ええ、多分。でも、もう帰ってきてるかもしれません」

「じゃあ、まずセオドアを見つけよう。それからセオドアはキノコを見に行った森へ。私たちは養蜂場へ向かおう」


ベスは一人で、どこに行ったのだろう。

心臓が、うるさいほど嫌な音を立て始めたのが自分でもわかる。

外に向かって走り出すアルバート様の後をついて行くのが精一杯だった。



お読みいただき、ありがとうございました。

面白かったら、ブクマや評価をいただけると励みになります。

また、ご感想や気になった点がございましたら、気軽に教えてください。

今夜8時に再度更新いたしますので、お時間ありましたら、ご覧いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ