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44 和解


急にセオドアが大きな声を出したのでびっくりする。

でもその前に、急にアルバート様に敬称をつけたことが気になる。

いつも「あんた」呼びだったのに。


「アルバート様、今までの不敬をお許し下さい!」

いつも不遜な態度だったセオドアが、深々と最敬礼までしている。


「え、セオドアったら、急にどうしたの?」

「いや、明日王都に帰るんだろ。だったらけじめつけとかなきゃな」

「そうかもしれないけど・・・」


今更謝って、許してくれるものだろうか。

散々「あんた」だの「あいつ」だの言いまくっていたような気がする。

その上「お父さん」とか「30歳に見える」とか、かなり失礼なことも言っていた。

そっとアルバート様の様子を窺うと、何故かアルバート様は鷹揚に笑っている。


「ああ、別にいいよ。君の言葉遣いは『番犬』として必要だったからだろう?」

「・・・あんた、さすがだな。ありがとう」


セオドアが顔を上げて、アルバート様に、にっと笑って見せる。


「いや、セオドア、折角だから、今から敬語に直してよ・・・」

本当に勘弁してほしい。

王都にいるオリバーが言うには、表向き学生は平等とされる学院でさえ、上位貴族の扱いは違うらしい。

(ヘンリー様だったら、怒鳴られるだけじゃ済まなかったわよ?)


だがセオドアは、気にする素振りも見せない。

多分、セオドアの心臓は鉄でできている。


「別にいいだろ。・・・アンナ、今から二人で書斎に行くんだろ?油断せずに、書斎の扉はちゃんと開けとけよ。『男は羊の皮をかぶった狼』っていうからな」


「・・・・・・君は私を認めたんじゃないのか?」

「いいや、それとこれとは別だ。『備えあれば憂いなし』って先生もよく言ってたしな。ま、注意することにこしたことはないってことだ」


揶揄うようなセオドアに、アルバート様は嫌そうに目を細めている。

スタンリー先生に同じ教えを受けたはずだが、セオドアに目上を敬う気はさらさらないようだ。


「でも、まあ、俺の『番犬』の役割も、あんたが王都に戻るまでだ。それ以降は、ちゃんと『アルバート様』で通してやるよ」

「・・・そうか」


本当に、セオドアのこの偉そうな態度をどうにかして欲しい。

今度は腰に手をあて、偉そうに人差し指をアルバート様に向けている。

そろそろセオドアの愚行を止めに入るべきか。


「あんたが王都に戻るまでは、だ。よく覚えとけ。旅先で手を出されて泣く女の話は、枚挙にいとまがないからな」

「結局私を信用していないということか?」

「いや。信用してるさ。言っただろ?あんたが王都に戻ったら、俺はもう口を出さないよ。正々堂々の勝負だ」


セオドアがアルバート様に向かって左手を出したが、アルバート様は左手を挙げて拒否している。


年下に、しかも身分の低いセオドアにここまで偉そうにされたら、それは嫌だろう。


「じゃあ、君も私が王都に戻ってから行動しろ」

「何でだよ!」

「だって、それでは私があまりに不利だろう?私が屋敷を出てすぐに君が行動するかもしれない。王都とは距離があるんだ。時間だってかかる」

「俺だって、春から騎士団に行くんだ。そんなの関係ねぇよ」


「・・・二人ともよくわからないこと言ってないで、とりあえず2階に上がりましょうか」


睨みあう二人の間に入って、仲裁をする。

仲良くなったり、喧嘩したりと本当に止めてほしい。


「・・・・・・王都に戻ったら、好きにしていいんだな」

「ああ、もちろんだ」


顔を顰めて、嫌そうに二人が左手で握手をしている。

セオドアたちのすることは、よくわからない。

(ホントにもう付き合ってられないわ)


「じゃあ、アルバート様、書斎に行きましょうか」

階段に足をかけながらアルバート様を促したところで、後ろから呼び止められた。


「あ、アンナ、俺、明日休ませてくれ」

「え、ええ?それはいいけど、急にどうしたの?」

セオドアが自分から休みが欲しいと言うなんて、初めてだ。


「明日、ちびちゃんたちを王都まで送っていくわ。さっきマシューと話してたんだけど、火事場泥棒みたいな奴がうろついてるって。護衛があった方がいいだろ」


不審者が領内をうろついているということか。

災害が起きると、混乱に乗じて泥棒や詐欺師がでてくる。勿論、強盗も。

うちの領は治安がいいが、道が開通したことで王都から流入しているのかもしれない。


「勿論よ。言ってくれてありがとう。そんなの私からお願いすることだわ。明日、ベスたちを頼むわね」

「・・・・・・私からもお礼を言うよ。ありがとう、セオドア」


剣の腕では誰にも負けないセオドアが護衛をするなら安心だ。

もう一声かけようとしたが、セオドアは思いがけないアルバート様の言葉に照れたのか、すでに目の前からいなくなっていた。



◇◇◇


「ただいま~」

書斎に入ろうとしたところ、うきうきと嬉しそうに帰ってきたのはベスだ。

手には沢山の蜂蜜の瓶を抱えている。

後ろにいるクララも、顔が見えないほど蜂蜜の瓶を重ねて持ってきている。


「ああ、ちょうど良かった。明日・・・」


帰れると言いかけて、慌てて口を閉じる。

昨日は夜の散歩をしたせいで興奮して眠れなかったベスだ。

ここで明日帰れるなんて言ったら、また夜更かししかねない。


アルバート様も同じことを思ったのだろう。


「・・・ベスには明日、話した方がいいだろうな」

アルバート様が小声で言ってくるのをベスに気付かれないように頷く。


「二人ともどうしたの?」

「ううん、何でもないのよ。それよりベス、そんなに沢山蜂蜜を持ってきてどうしたの?」

「それが探していたリンゴの蜂蜜がなかったのよ」


ベスが不満げに口を尖らす。

だが、それがどうしてこんなに蜂蜜を持ってくることになるのかがわからない。


「隅から隅まで探したんだけどなかったの。でも折角だから、家にある蜂蜜を全部調べようと思って」

「ベス、何をするつもりなんだ?」

「味とか、色とか、匂い?花の種類によって違うでしょう?だから全部調べて書きだすの」


ベスの横にいるクララを見れば、諦めたように首を振っている。

「オリバー様と同じでございます・・・。気になったら調べてみないと気が済まないようでして」


アルバート様と、どうしようかと顔を見合わせたが、今夜で最後だ。

ベスの好きにさせよう。


「わかったわ。じゃあ、大きな紙を持ってきてちょうだい。一緒に調べましょう」


表を書いて、蜂蜜の味や匂いを一つ一つ調べて書きだしていく。

クララがベスに味見をし過ぎだと注意し、タイラーが皮肉を言いながらも、表を作る手伝いをしている。

アルバート様は、楽しそうにベスたちの様子を見ていた。


(今日という日がずっと続けばいいのに・・・)

皆で過ごすのはとても楽しかったが、ベスとの別れが辛くて、途中何度も泣きそうになってしまった。



お読みいただきありがとうございます。

おかげさまで注目度でランキング入りしました。


ここまで読んでくださった皆様、そしてブックマークや評価をくださった方々、本当にありがうございます。

今後も楽しんでいただけるよう頑張りますので、引き続きよろしくお願いします。

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