41 拾ってよかった
「アルバート様を拾えました」
綺麗な、綺麗な、この世の者とは思えないほどの、アルバート様の顔を見る。
最初は美しすぎて、同じ人間とはとても思えなかった。
無表情で、冷たい人形のような人だと思った。
『貴女はとても素敵な女性だと思うよ』
こんなに綺麗な人なのに、慰め方が不器用すぎて笑った。
ベスに口うるさく注意するアルバート様。
関係ないのに、領地経営に口をだしてきた面倒なアルバート様。
注意。説教。不要なアドバイス。
しなくていいことまでするから、私たちから鬱陶しがられたりするのに、それでも止めない。
自分が嫌われようと、アルバート様は、いつも人のために行動する。
その根底にあるのは、少しでも私たちを助けたいという考えだ。
(本当に不器用よね・・・)
不器用で、真面目。融通もきかない。
自分が嫌われ役を買うから、損ばかり。
その華やかな容姿からは到底考えつかない、実直すぎるのがアルバート様だ。
(私には休めと言うくせに、自分は働いてばかりじゃないの)
自分のことは顧みずに、アルバート様の方こそ他人のためばかり働く。
きっと、私が寝ている間に、私の代わりに仕事をしたのだろう。
心なしか、疲れているように見える。
アルバート様には関係ないのに。腕だって骨折してるのに。
ふんぞり返って、ソファに座ってても誰も文句は言わないのに。
見返りも求めず、当たり前のように手助けしてくる。
なんて、なんて、面倒で、愛しい人なんだろう。
「アルバート様、私・・・・・・」
「アンナ~!!!」
急に部屋の扉が開いて、ベスが飛び込んできた。
「えっ、ああ、ベス!?」
「もう元気になったの?大丈夫!?」
突然ベスが来たことにびっくりしている私に、ベスはベッドまで勢いよく走ってきて、そのまま私に抱きついてきた。
「・・・ベス、部屋の扉を急に開けてはいけないよ。大事な話をしているかもしれないだろう?それに、扉の近くに人がいたらどうするんだ?怪我をするぞ。第一、部屋の中にいる人が驚くから、今後はそんな行動は慎むように」
アルバート様が、眉を顰めながらベスを嗜めているが、ベスは不満げに口を尖らして後ろを振り返った。
「でも、笑い声がするからもう入ってもいいですよ、ってタイラーが」
ベスの視線の先を辿ると、部屋の扉の前には、したり顔のタイラーが立っていた。
「あまり、長い時間になるといけませんからな」
タイラーは、自慢の口ひげを触りながら一人で頷いている。
「・・・・・・タイラー、君は私を信用してくれたのではなかったのか?」
「ええ、信用しております。ですから、こうしてお嬢様と二人きりにして差し上げました」
「ではなぜ・・・」
「私はお嬢様を我が子のように可愛いと思っておりますが、それと同時に、セオドアも可愛いのです」
「・・・・・・・・・」
アルバート様が、考え込むように額に手を当てている。
「タイラー、少しぐらい私の味方はできないのか?このまま孤立無援の状態では、あまりにも私の分が悪すぎる」
そんなアルバート様を見ながら、タイラーがほほっと楽しそうに笑う。
「それは貴方様の、今後の心がけ次第でございます」
(二人とも何を言ってるのかしら?)
天井を見上げるアルバート様に、嬉しそうにベスがぷっくりした両手を見せてきた。
「ねぇ、おじ様!見てみて!私の手、何もないでしょう?でもね、今からお花を出すわよ!よく見ていてね!!」
先ほどタイラーに教えて貰ったというマジックを披露するつもりなのだろう。
ベスは、ウキウキと楽しそうに用意をし始めた。
「ベス様。ベス様のレベルでは、注意して見られたらマジックの種がわかってしまいますよ。最初からマジックをすると宣言してはいけません」
「え~!!私、上手よ?」
「いえ、申し訳ございませんが、イマイチです」
だが、師匠であるタイラーは、なかなか厳しいようだ。
「むしろ、花を出すと言っている時点で、マジックとして成立しておりません。失礼ながら、ベス様は考えなしのようですな」
(・・・タイラーったら、ベスになかなか酷いことを言ってるわね)
まるで、昔の口うるさく注意するタイラーが甦ったようだ。
「そんなことないわよ!もうっ、私、すごいんだから!アンナも見てて!!」
ふんふんと鼻息荒くベスが手品を披露しようとした時に、私のお腹が再びぐぅ~と鳴った。
「まぁ、アンナ、お腹が空いてるのね?」
ベスが聞いちゃったと言わんばかりに、いたずらっぽく笑いかけてくる。
「心配しなくても大丈夫よ!さっき私がアンナのために、お粥を作ってきたからね!沢山食べてね!!」
ベスの横でタイラーは、下を向いて目を瞑りながら、何とも言えない表情をしている。
(これは私がいない間に、絶対何かあったわね・・・)
アルバート様は、ベスがお粥を作ったことを知らなかったのか、驚いて目を見開いている。
「・・・ベス様、せっかくですから、お粥は私がいただきましょう。お嬢様には栄養のあるものを」
「まあ、何を言っているの?病気の時にはお粥がいいって言ったのは、タイラーじゃないの!?私がアンナのために頑張って作ったのよ。タイラーにはあげないわよ!!」
クララは、その場にいなかったのだろうか。
このタイラーの様子からして、きっとベスのお粥はべちゃべちゃか、焦げているかのどちらかだろう。
・・・でも、いい。
今日一日、ベスに何もしてあげれなかった。
多少の不味いお粥ぐらい、美味しく食べれる。
「食堂に行きましょうか、私、お腹が空いたわ」
廊下に出れば、少し薄暗かった。
思ったより長い時間、アルバート様と話をしていたのかもしれない。
スキップするベスと手を繋ぐタイラーの後ろ姿を見ながら、アルバート様とゆっくり食堂に向かう。
二人の姿が遠ざかると、アルバート様が小声で聞いてきた。
「そういえばアンナ嬢、先ほどは何と言いかけたのだ?」
「え、ああ・・・」
自分でも何を言おうとしたのかわからなくて、ふんわりと微笑んだ。
「アルバート様に感謝を伝えたかったんです。本当にありがとうございます」
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本日夜8時に、もう一度投稿を予定しています。
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