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34 八つ当たり


眠い。

眠い眠い眠い。

どうしようもなく、眠い。


今日は3人で馬小屋の掃除だ

ベスは昨日、夜の散歩に興奮してしまい眠れなかったのだ。

絵本を読んだり、ホットミルクを飲ませたりと色々試したが、昼寝をしたこともあって目がらんらんと輝き夜遅くまで起きていた。

そのため今朝は起きれずにまだ寝ている。


(私もゆっくり眠りたい・・・)

私もベスを寝かしつけた後にすぐ寝れば良かったのだが、その後ついつい補助金申請書類の作成をしてしまった。


申請時期が早ければ、その分お金も早く貰える。

お金を貰ってすぐに返済すれば、その分支払う利息が減る。


どうせアスター商会との契約で王都に行くのだ。

役所も王都にあるのだから、この日に持っていければそれに越したことはない。

用事はいっぺんに済ませたい。


・・・・・・そう考えたら、手が止まらなくなって、気がついたら東の空がほんのり明るくなっていた。


今更寝ても仕方がないと台所へ行き、ベスのために貴族の屋敷で出てきそうな上品なコンソメスープを作った。栄養にうるさいクララのことも考え、手間だが小さく野菜も切って浮かべた。


そんなことをしていたせいで、今猛烈に眠いが仕事は待ってくれない。

生き物の世話は、尚更だ。


「おい、大丈夫か?なんかお前、顔白いぞ」

「そんなことないわ、大丈夫よ。それより掃除ができないから早く放牧場に馬を連れて行ってくれる?」


心配そうに何度も振り返るセオドアを手で追いやり、フォークに馬糞を乗せる。


(今日はやけに重く感じるわね)

それでもやらねば、生き物の世話は命に直結する。


「アンナ嬢、顔色が悪い。私が代わろう」

アルバート様がフォークを持とうとするが、それさえも煩わしい。


「大丈夫ですよ。申し訳ないんですけど、アルバート様は隣の馬房の掃除をお願いできますか」


あまり体調のことを言われたくなかったので、アルバート様を隣の馬房に押し込む。

これで私の顔が見えることはないだろう。



黙々と掃除を続けていると、アルバート様の遠慮がちな声が聞こえてきた。


「・・・・・・アンナ嬢、少しいいだろうか」


あまり聞きたくない声のトーンだ。

こんな時のアルバート様は説教モードということを私は知っている。

聞こえなかったふりをして掃除に集中する。


それでもめげずにアルバート様が私に話しかけてきた。


「余計なことかもしれないが、屋敷の規模に対して、使用人の数が少ないように思えるのだが」

「・・・ああ、父が亡くなったら、ほとんどの者が辞めたんですよ」


父も亡くなり、私が領主となったことで泥舟だと判じたに違いない。


「ほとんどの者が・・・」

「ええ」


残ってくれたのは、タイラーにクララ、それにセオドアだけだ。


「アンナ嬢、それはおかしいのではないか?」

「・・・・・・・・・・何がですか?」


「そんなに人が急に辞めるものかな?君は人を大切にするじゃないか」


アルバート様の方からは、掃除をしている音が聞こえない。

何だかそれが無性に苛々してしまう。

(無駄口を叩かずに、早く掃除を終わらせてほしいわ)

善意で掃除を手伝ってくれるのは助かるが、経営に口を出すなら屋敷に戻って欲しい。


「でも、実際辞めていきましたから。仕方がないじゃないですか」

苛々しながら汚れた麦わらを取り換える。

清潔な環境は、馬にとっても重要だ。


「・・・それなら君は理由を聞いたのか?」

「いいえ?だって理由なんてわかりきってるじゃないですか。頼りない領主を見限ったんですよ」


辞めていった一人一人の顔を思い浮かべる。

皆、私が生まれた時からうちに仕えていた。

私にとって、家族同然の者たちだった。

だから辞めると言われた時には、余計にこたえた。


私にできることは、辞める者に紹介状と退職金を積み増しして渡すことぐらいだった。


「・・・例えそうだとしても、君は理由を聞くべきだったと思うよ」

アルバート様の声は優しく穏やかだが、今日は無性に苛つく。


「・・・・・・何でですか」

「そうでないと、新しく人を雇い入れたとしても、同じ結果になるからね」


(・・・余計なお世話だわ。本当に面倒くさい)

アルバート様は、昨日他所の家の事情に口を挟むべきではないと学んだのではないのか。


でも答えないわけにはいかないだろう。

無視したら、また何か言ってくるのは目に見えている。


「もう辞めてしまいましたし、聞きようががありません」

「ではタイラーやクララに聞いてみたらどうだろう?上司には言えないことも、同僚には言ってるかもしれないよ」


思わずカッと頬が熱くなる。

クララやタイラーが、他の者から私の不満を聞いているかもしれないと思ったら堪らなかった。


「・・・・・申し訳ないのですが、うちの事情もありますので、これ以上は言わないでいただけますか」


私なりの精一杯の嫌味と牽制だ。

(アルバート様は、昨日何を学んだのかしら?あんなに反省してたのにもう忘れたの?)


「いや、そのことは私もわかっている。昨日のこともあるしな」


(じゃあ黙っていてください!)

思わず怒鳴ってしまいそうになる。


「だが、私はアンナ嬢のことが心配なんだ。どう見ても君は働きすぎだ。それでは倒れてしまう」


「・・・・・私のことは、私が一番よくわかっているので、お気になさらないで下さい。それに、仕事は待ってくれないんです」

「君の意見は尊重したいが、やはりこの状況はおかしいと思うよ。人事関係はタイラーの管轄だろう?一度タイラーに確認してはどうかな?」


(タイラーに?)

そういえば、タイラーが数日前に話があるから時間を取って欲しいと言っていた。

タイラーとは、時間がなくてまだ話が出来ていない。

新しい人が来るなら、すぐ伝えてくれるだろう。

言わないということは・・・。


(もしかして、タイラーまで辞めたいと言い出すのかしら?それとも、クララ・・・?)


あり得るかもしれない。

辞めた人の分の膨大な仕事をこなすために、タイラーやクララだって私と同じように忙しい。


タイラーの染めることもなくなった髪が頭に浮かんだ。

クララの疲れた顔が脳裏をかすめる。


(もし、タイラーやクララまで辞めたらどうなるの?)


嫌な考えが頭を巡り、ぐらりと目の前が揺れて思わず壁に手をついて座り込む。

不安が胸に押し寄せる。


壁に手をついた音に驚いたのか、アルバート様が飛び出してきた。


「大丈夫か!?アンナ嬢?」

「あ、いや、何でもないです。ちょっと眩暈がしただけで・・・」


アルバート様が片手で私の身体を抱え起こしてくれる。


「大丈夫なわけないだろう。屋敷まで送るよ。あとは私とセオドアに任せなさい」

「いいえ、そんなわけにはいかないので・・・」


「いい加減にしないか!」

アルバート様に急に怒鳴られてびっくりする。


「君はどう見ても体調が悪い。屋敷に戻るんだ。いいな?」


普段聞かないアルバート様の命令口調に思いっきり腹が立つ。


(誰のせいだと思っているのよ?)

アルバート様が屋敷の人事に口を出さなければ、私を動揺させなければ、具合が悪くなることもなかった。


「だから仕事があるんですってば。私がしないと誰がするんです?」


思わず私を支えるアルバート様の腕を乱暴に振り払ってしまった。


「タイラーたちもいるだろう。皆で分担しよう」

「もうっ、いい加減にしてください、仕事はできるから、大丈夫ですってば。それにタイラーたちも忙しいんです。これ以上負担はかけれません!」


そう、これ以上タイラーたちに負担はかけれない。

皆がパンクしてしまう。

いや、その前に見限られて出ていってしまうかもしれない。


(私が、私がやらないと。これからどうしよう・・・)

何とか考えをまとめようとしているのに、畳み掛けるようにアルバート様が口を出してくる。


「だからと言って、君は忙しすぎる!!」

「ああ、もう、少し黙っててください!」


耳を防ぎながら、思わず大声で叫んでしまう。


「もうっ、放っておいてください!私が忙しいのは、アルバート様たちのせいです!!」


タイラーたちまで辞めたらどうしてくれるのだ。

何もできない外野が口を出すのは勘弁してほしい。渦中にいるのは私なのだ。


「毎日栄養を考えて食事を用意したり、やらなくてもいい刺繍をしたり、ベスが退屈しないように遊んだり!アルバート様たちのせいで大変なんです!!普段だったらこんなに忙しくないんです!!!」


言ってしまってから、ハッとして口を手で覆う。

一瞬だけ、アルバート様が傷ついた顔をしたような気がした。

これではアルバート様たちを邪魔だと言っているようなものだ。


「あ、あの、すみません、私」


アルバート様は怒ったのか、無言だ。

無表情で近づいてくる。




「私は、君にそんなことは頼んでいない」


「!!!!!!!!!!!!」


怒らせた!

ベスが邪魔だなんて思っていないし、アルバート様のせいで忙しいとも思っていない。

つい口が滑っただけだが、一度口から出た言葉は取り消せない。


自分でも顔から血の気が引き、手先が冷えていくのがわかる。



「・・・・・・すみません!私、水を汲んできます!!」

手近にあった桶を掴み、その場から逃げ出すように馬小屋から飛び出る。



(どうしよう、どうしよう、どうしよう)

アルバート様を怒らせたに違いない。

私の体調を心配し、気遣ってくれたアルバート様に八つ当たりをしてしまった。

なんて酷いことを言ってしまったのだろう。ベスが聞いたら傷つくに決まっている。

私はなんてことを言ってしまったのか。


どうしていいかわからない。

今すぐ戻ってアルバート様に謝るべきなのだろうが、どう言えば、どう謝れば許してもらえるかがわからず、逃げたくて仕方がなかった。


アルバート様が追ってこられないように精一杯走る。

背中から嫌な汗が噴き出し、心臓の鼓動も耳元で爆発しているように聞こえる。

その内視界が揺れ、息も切れてきた。


走っているから苦しいのか、心が苦しいのか、もう、わからない。



誤字のご指摘、ありがとうございます。

誤字だらけでお恥ずかしい限りですが、ご報告いただけて本当に助かります。

今後はできる限り気をつけてまいりますので、どうか引き続きよろしくお願いいたします。

また、もしよろしければ、ブクマや評価をしていただけるととても励みになります。

明日も朝7時に更新予定ですので、そちらもぜひお楽しみにしていただけたら嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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