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24 セオドアの怒り


瞬間、セオドアが苛立つように後ろを向いて叫んだ。


「ああ、そうかい、立派な志だな!俺たちが金金言うのがそんなにおかしいかよ!金がなきゃ生活できないだろ、理想だけで工事代金、払えんのかよ?食えんのかよ?」


「それは・・・」


「あんたの言うことはわかるが、やりたくてもできねぇんだよ!金がないから工夫しろ?余裕のある奴のセリフだな!」


「では聞くが、大体何でそんなに財政に余裕がないんだ?」

怒鳴るセオドアにアルバート様は冷静に返すが、それがかえってセオドアの怒りに火をつけてしまった。


「何でか?うちは旦那様の方針で、子どもは無料で学校に通えるようにしてんだよ!旦那様が『人は宝だ』って言ってさ。それがどんだけ金がかかるかわかるか?」


「勿論、災害に備えて積立金だってしていたさ。でもな、金は無尽蔵にあるわけじゃないんだ。どこかに使ったら、どこかを削る。積立金が少なかったのはそういうことだ!」


学校の建設費に設備費、それに教材費。

そしてなにより先生たちのお給金。

決して安いものではない。

他領に比べれば、うちは突出して教育にかけているお金が多いだろう。


だが、その分領民たちの識字率は高い。


「ここまで金がないのは、4年前の嵐で大打撃くらったのに『人の学びをとめてはならない』って学校を閉鎖しなかったからだよ。だからその分金が無くて、旦那様は金策に走り回ったさ」

(知ってる・・・。あの時は何度もお父様が学校をどうするかで悩んでた)


セオドアがアルバート様に指を突きつける。


「あんたは金に困ったことがないだろうから、教えてやるさ。どんなにやりたくても、金がなければ何もできないんだ。でも金に余裕のある奴はこう言うんだろ!?『だったら借りればいい』ってさ」


ぐっと悔しそうにセオドアが歯を食いしばる。

「返すあてがないと判断されたら、誰も貸してはくれないんだよ。例え借りられても、馬鹿にされながらひたすら頭を下げてまわらなきゃいけないんだよ。でも旦那様は一言も愚痴なんてこぼさなかったさ。頭を下げて下げて下げて下げまくったよ」


「それだけ学びを大事にしていたのに、自分の娘は金がかかるから、って学院の試験さえ受けられなかったんだぜ。受かれば学費だけじゃない、王都での生活費もいるからな。でも領民のために、学校存続させるために、諦めたよ。旦那様の悔しい気持ちがわかるかよ!?」


怒りのためか、セオドアの拳が震えている。


「アンナだってそうさ。アンナが何でヘンリーと婚約していたと思う?結婚後に子どもを産んだら援助してもらえるからだ。ホランド伯爵の奴、アンナを見て何て言ったかわかるか?『丈夫でよく働きそうだから』だと。こいつはそこにいるラバと同じかよ。産む道具かよ?でもアンナだって、一言も文句も泣き言も言わなかったさ。旦那様には、ヘンリーを気に入ったふりをし続けたよ。これも立派な自己犠牲じゃないのかよ!?」


「セオドア、アルバート様はそんな事情知らないから・・・」


もうこれ以上言っても仕方がない。

アルバート様は事情を知らなかっただけだ。

セオドアがアルバート様を睨みつけながら、聞いたことがないような低い声を出した。


「・・・ああ。だから知らない奴は口を出すなよ」


「・・・・・・事情を知らなかったとはいえ、本当にすまない」

申し訳なさそうに謝るアルバート様をハッと鼻で笑い、セオドアが嘲るように言い捨てる。


「知らなくても、アンナを見ればわかるだろ?年頃の娘が、好き好んで昔の母親の服を着るかよ?金がないからだろ。一度でもアンナが綺麗に着飾っているのを見たか?指輪は?ネックレスは?髪留めひとつつけてないだろ?アンナは自分のものを始末して、俺たちの給料を捻出してんだよ」


アルバート様が弾かれたように私を見る。

新しい服を買う余裕のない私は、いつでも母の若い時の服だ。


「もういいでしょ、セオドア。アルバート様も悪気はなかったのよ」


大声で怒鳴るセオドアにベスが怯えているし、何とかこの場をおさめたい。

なのにそれでも言い足りないのか、セオドアは止まらなかった。


「あんた、ここに来る前にアンナに『令嬢らしくない』って、言ったよな?いいか。アンナは令嬢らしくないんじゃくて、俺たちの生活がかかってるから、令嬢らしく『できない』んだよ!!」


「もう、いい加減にしなさい。アルバート様に私たちの事情は関係ないでしょう!?」


私も大声で応酬する。

いくらアルバート様が寛容だからといって、これ以上は不敬すぎる。

ホランド伯爵を考えればわかるだろうに、高位貴族を怒らせたらどうなるかわかったものじゃない。


「アルバート様、失礼なことを言って申し訳ありません。アルバート様のおっしゃることはもっともです。ただ、言い訳に聞こえるかもしれませんが、私たちもただ手をこまねいて見ていただけはないのです」


「いや、私が悪い。本当にすまない」


頭を下げるアルバート様にセオドアが背をむけ、くるりと方向転換するなり無言で馬の腹を蹴ってスピードをあげた。急に蹴られたことにびっくりしたのか馬が大きく嘶く。


「セオドア!申し訳ありません!私、ちょっと後を追いかけてきます!!」



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