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23 不機嫌な正論


『うぉぉぉぉ、お嬢ちゃんたち、また来てな~!!!』

『気をつけて帰れよぉぉぉ!!!』


マシューたちの大歓声に背中を押されてながら帰路につく。


「アンナ、楽しかったね」

ベスがにこにこ顔でセオドアの腕の中から顔を出す。


「そう?良かったわ。ベスが来てくれたおかげでマシューたちも大喜びだったわね」

「うん、私の作ったクッキー、美味しいって沢山食べてくれたわ」

「ええ、そうね」

「また作って持って行きたいわ」

マシューたちに可愛がられたベスは、ご機嫌だ。


それに対して、アルバート様は疲れたのか、土砂崩れの工事現場を出てからずっと無言である。

(でも私もさすがに疲れたわ。睡眠不足で頭が重い)


朝は気力もあり大丈夫だと思っていたが、まだ日差しの残る暑さの中、長時間の移動はさすがに身体に堪えた。


熱中症にでもなったらいけないので、さすがに喉を潤した方がいいかもしれない。


だがラバにくくりつけてある容器を見れば空だった。

仕方なくセオドアに聞いてみる。


「セオドア、レモネードってまだ残っていたかしら?」

「いや?全部ないよ。みんなにすごい勢いで飲まれたからな」


ベスの人気もあったのだろうが、差し入れの周囲は確かにすごい人だった。


「ああ、そうなのね」

「どうした?」

「ううん、味見してなかったから、美味しかったかなと思って」


セオドアも私の体調管理にうるさいので、とりあえず誤魔化す。


「レモネード、とても美味しかったわよ。私、初めて飲んだわ」

どうやらベスは、あの争奪戦の中でも飲めたらしい。


「そう?良かったわ」

「ねぇねぇ、何が入ってるの?私、お母さまたちに作ってあげたい!」

ベスは何かの拍子にすぐ家族のことが話題に出る。

私たちに直接は言わないだけで、本当は会えなくて寂しいのだろうと思うと胸が痛む。


「ああ、簡単よ。レモンと蜂蜜とお水」

「それだけ?」

「ええ、それだけよ。蜂蜜をお砂糖に替える人もいるけどね。うちは養蜂を営んでるから、基本蜂蜜で作ってるわね」

「よーほー?」

「養蜂、ね。蜂蜜をとるためにミツバチを飼育してるのよ」


最近忙しくて、養蜂場へ行っていない。

職員に任せているが、そろそろ様子も見に行かないといけないだろう。

(時間が欲しいわ・・・。でも、今はせめて一時間でも仮眠を取りたい)


「ふぅ~ん、じゃあ、沢山ミツバチがいるの?」

「そうそう」

「蜂蜜も沢山?」

「ええ、そうよ。他にも蜜ろうとかもとっているわ。蝋燭とかが作れるのよ。それにミツバチがいると、花粉も運んでくれるから、野菜や果物の実の付きもよくなるのよ」

まさしく一石二鳥だ。


「ああ、あの黄色の!」

「そうそう。よく覚えていたわね」

ベスは疲れも知らず、元気にしゃべる。

さすが子どもだ。


ベスとのおしゃべりにも疲れてきた私は、ポケットから飴を取り出す。

(持ってきてて良かった)

これで少しは私も、元気になるかもしれない。


「あ、蜂蜜飴!」

「ええ。長いこと馬に乗って疲れたでしょう?良かったら食べる?今日のはスペシャルバージョンよ」


『食べる!』


二人が元気よく返事をしたので、飴を渡してやろうとセオドアの馬に近づく。

するとベスが小鳥のように口を開けて待っていた。

うふふ、と悪戯っぽく笑ってる。


「もうベスったら可愛い!わざとしてるでしょ?」

「えへへ〜」


「はい、あ〜ん」


ベスの口に飴を入れてやる。

ふと思いついて、セオドアにも飴を剥いてやる。


「はい、セオドアも、あ〜ん」


ついでにセオドアの口にも入れようとしたら

 

「アホ!そんなことするな!」


人間、背中をそんなに反らせることができるのかと思うほど、背中を反らされて見事に拒否されてしまった。

(そんなに拒否しなくても良くない?腹が立つわね)


「小さい頃は、こうやって私が食べさせてあげてたのに」

セオドアに反省を促そうと「寂しいわ」とションボリして見せるが、どうやらセオドアには通じなかったらしい。


「いつの話してんだよ!もう俺は大人だ!」


真っ赤な顔で、さらに怒られる。

(そんなに怒らなくてもいいのに。しかもセオドアはまだ未成年だし)


「もうっ、昔は可愛かったのになぁ」


オリバーと二人、いつも私の後をアヒルのようについてきて可愛かった。

だけどこんなに拒否されては仕方がないので、自分の口にしぶしぶ飴を入れる。


「あ、おい、おい!俺の飴は?」


急に目の前から飴が消えて、自分の分が食べられたと慌てるセオドアに


「心配しなくてもあるわよ、ほら」


包み紙ごと投げて渡してやった。

(食い意地の張ってる奴め)


アルバート様にも渡してあげようと、後ろを振り返る。


「アルバート様も良かったら飴を食べませんか?」

「いや、いい」


「・・・アルバート様、どうかされました?ご気分でも悪いですか?」

ラバを寄せて顔を覗き込むと、下を向いて何か考え込んでいる。


「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。それより君に質問なんだが、どうして今まで道の整備をしなかったのか?」


厳しい声だった。

多分現場を出てから、ずっと考えていたのだろう。

眉間に皺が寄っている。


こんな時のアルバート様は、お説教モードで面倒くさい。

正直体調の悪い時に相手をしたくないので、首をすくめてやり過ごそうとした。


「したくても、お金がなかったんですよ。4年前の嵐、王都も随分被害がでたと聞きましたが、覚えていますか?」

「ああ、知っている」

「うちも随分被害が出て。堤防の修復や領民たちの被害補償金、とりあえず目の前のことに精一杯で」


「だから山の斜面の補強工事を怠ったということか」

アルバート様は渋面だ。

「先ほど職人たちに聞いたが、あの斜面は前から危ないという話もあったそうだな」


・・・そんなことは聞いていない。

何かが起こると「実は前からそう思っていた」としたり顔で出てくる輩もいる。

ただ私もお金がなくて予防調査自体はしていないので、反論の仕様がない。


セオドアが不穏な気配を感じたのか、加勢に来てくれた。


「崖も崩れたし、堤防も決壊した。うちは大きな産業があるわけでもない、ちっぽけな領地だ。壊れた堤防の修理、家や畑の補償金だけで精一杯さ。崩れるかどうかもわからないとこに補強工事代を出す金はなかったんだよ」


あの嵐の被害で、何かあった時のためにと積立てていたお金を全て使い切った。

しかもそれだけでは到底足りず、不足分は借金で補った。


「それを工夫するのが領主だろう」

カチンときたが、アルバート様に言っても始まらない。


セオドアが庇ってくれる。

「おい、アンナは半年前に領主になったんだ。アンナには関係ないだろ」

「いや、それは言い訳だろう。人が死んでいたらどうするつもりだったんだ。領主になって日が浅いからというが、君はお父上の補助をしていたから、道の整備の重要性をわかっていただろう?」


「ええ、重々わかっていますよ」

頭が痛いのもあり、つい苛々した声で返事してしまった。


「起きてしまったことは仕方がない。だから今回君は、被害状況を確認すると同時に、今後危ないと思われる場所も同時に調べて補強工事をしなければならない。そうすれば今回のような土砂崩れは防げるはずだ」


「ええ、そうするつもりです」


だからさっきノアに頼んだ。

そんなこと、言われなくてもわかっている。

これ以上言われたくないからラバの腹を蹴り、アルバート様と距離を取ることにした。


素っ気ない私の返事にやる気がないかと感じたのか、アルバート様も苛々した声で後ろから呼びかける。


「本当にわかっているのか。金がないなら工面しないと今回の二の舞になってしまうぞ」


私たちの様子に拙いと思ったのか、セオドアが仲裁に入ってきた。


「道の整備の重要性だろ。そんなのわかってるよ。積立金も全部使ったし、限度額いっぱいまで借りてこれでも整備したんだ。うちの財政は、4年前の嵐で火の車なんだよ」

「だからと言って、危険な個所を放置していたら、またこうなる可能性があるだろう」


「・・・・・・そうだな。金があったらな。できるだろうよ」


これでは堂々巡りだ。

予防政策に力を入れるべきだと主張するアルバート様。

したくてもお金のない私たち。


多分アルバート様にお金がないという感覚はわからないだろう。

アルバート様の目には、私たちは場当たり的な施策しかできていないように見えているのだと思う。


セオドアも腹が立ってきたのか、話を切り上げようと私と轡を並べるように馬を前に進めてきた。



そんなセオドアの背に、アルバート様がため息をついた。

「君たちは全て金、金、金だな。上に立つ者は、自分を犠牲にしてでも民を守らねばならない。もう少し考えて工夫をする必要があるのではないか」


瞬間、セオドアが苛立つように後ろを向いて叫んだ。


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