表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/136

18 帽子


約束の時間にはまだ早いが、先に行って待っておこうと部屋を出ると、もうアルバート様は玄関で待っていた。

扉に背を預け、腕組みしながら気持ちよさそうに目を閉じている。


(本当に綺麗ね)


遠くからみても、その美貌の凄さがわかる。

高い身長は勿論のこと、筋肉質で鍛え抜かれた身体。

白い透明感のある肌。

滑らかな弧を描く眉の下には、美しい切れ長の瞳。


(神様が作った芸術品って感じだわ)


それなのに着ている洋服は、明らかにサイズが合っていない。

袖は捲られているからまだいいが、ズボンの丈は誰がどう見てもおかしい短さだ。


屋敷内ならそうは思わなかったが、この格好で大勢の目に触れる視察に行かせると思うと、本当に申し訳なくなってくる。

(アルバート様が文句を言わないのをいいことに、本当にすみません!)


私の視線に気付いたのか、アルバート様がゆっくりと目を開けた。


「どうしたのだ?」

「あ、いえ、お待たせしました」


慌てて玄関にいるアルバート様の側まで駆け寄る。


「いや。まだ約束の時間には早い。私が早く来すぎただけだ」


そう言いながら、さりげなく私の鞄を持ってくれようとする。

だが怪我人には持たせられないので、慌てて自分で持ち直す。


「あ、いいですよ。軽いから自分で持てます。それからこれ、良かったら帽子です」


アルバート様に古びた帽子を手渡す。


頑張って探したが、アルバート様に合うような帽子はなかった。

仕方がないので、馬丁のジョージが置いていたハンチング帽だ。

何もないよりかはマシだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・多分。


「帽子?」

「昨日、随分と日焼けしてたでしょう?今日も長時間外にいることになると思いますので」

(せめてその美しい白い肌を守ります!)


「ああ、ありがとう。アンナ嬢は本当に気が利くな」

片手で帽子を被りながら、お礼を言ってくれる。


だが残念ながらサイズが合わなかった。


顔の小さいアルバート様には、ジョージの帽子は大きくて、顔の半分が隠れそうになっている。

寸足らずの服にぶかぶかの帽子。

余計にみっともないことになってしまった。


何も満足に用意できない自分が本当に嫌になる。

(本当に情けないわ。アルバート様ごめんなさい!)


慌ててアルバート様から帽子を取り返そうと、踵を上げて手を伸ばす。


「すみません、その帽子、アルバート様にはサイズが合っていませんでした」

(まさかこんなに顔が小さいとは!アルバート様は全て特注でないと無理じゃないのかしら?)


だがサッと避けられてしまった。


「いや、この方が深く被れるから日除けになって丁度いい」


そう言いながら、アルバート様は帽子を改めて深く被り直している。

おかげでアルバート様の顔のほとんどが見えない。


「いや、でも、それは・・・」


アルバート様の帽子を取ろうと周囲をぴょんぴょんと跳ぶが、アルバート様は帽子の鍔をしっかりと押さえたまま離さない。体の向きを変えて、私の手から逃れようとする。


「帽子はこれでいいから。それよりアンナ嬢、鞄を私に渡しなさい」


そう言いながらも、まだ手は鍔にかかっている。


「ほら、早く」

「・・・早くと言われても、アルバート様が帽子を押さえているから、渡せません」


「・・・・・・帽子を取らないか?」

「ええ、取りません」

「絶対にだな」

「ええ、絶対に」


(意外に疑り深い性格なのね)


仕方がないから、右手を上げて宣誓までしてやる。

そんなにこの帽子が気に入ったのなら、ジョージにどこで買ったのか聞いといてあげよう。


怪我人に鞄を持たせるのは気が引けたが、根負けして鞄を手渡すことにした。


「はい、じゃあ鞄です。持っていただいてすみません」

「いや、こちらこそ。いつもアンナ嬢にはよくしてもらっているからね。感謝しているよ」


(・・・満足できる品でもないだろうに、それでもお礼を言ってくれるのよね)

別に感謝されたくてやっているのではないが、アルバート様は必ずお礼を言ってくれるので、つい何でもしてあげたくなってしまう。

自然、顔がほころぶ。


「どういたしまして。ところでベスはどこに?」

周りを確認するが、いつも側にいるベスがいない。


「ああ。クララと屋敷に飾る花を摘みに行くそうだ。二人で随分前に出かけたよ」


ベスは今日の視察にはお留守番だ。

行きたそうにはしていたが、長時間馬に乗らねばならないので仕方がない。

行きたいとせがまれるかと思ったが、クララと遊びに行ったのなら問題はないだろう。


「そうですか。では私たちも行きましょうか。セオドアが馬小屋で準備を終えて待っているはずです」


玄関から外に出ると、秋の始まりを告げるような気持ちいい風が吹いてきていた。

天気もいいし、これならベスも、外で楽しく遊べることだろう。



・・・・・・だけど馬小屋には、セオドアの足に必死にしがみついているベスがいた。

お読みいただき、ありがとうございました。


イギリスの上流紳士が乗馬や狩猟といった激しい運動をする時のために作られたハンチング帽。

アルバート様はサイズが合いませんでしたが、最近では、内側にサイズ調整機能がついていることが多いそうです。


毎朝7時に更新しています。

よかったら、引き続きお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ