表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/136

12 ホランド伯爵家


「ヘンリー!!!この、大馬鹿者がっ!!!」


ルナと結婚をすると告げた途端、親父に吹っ飛ばされた。

左頬がじんじんと痛む。親父に殴られるなんて、何年振りだろう。

頬を手で押さえ、親父を睨む。


「痛ってぇなぁ!何すんだよ!!」

「お前が大馬鹿者だからだ!何だぁ、誰と結婚するだと!もう一回言ってみろ!!!」

口から唾を飛ばして喚き、親父がはぁはぁと肩を怒らせている。


「だから!ルナだよ。ルナ・ぺラム!!男爵家の一人娘さ!!」

「俺が用意してやったアンナを捨てて、そんな馬の骨と結婚するのか!?」

「馬の骨じゃねぇよ!貴族だよ!男爵家って言ってるだろ!?」


襟首を掴まれ、もう一度左頬を殴られる。

「ぺラム!?貧乏な一代男爵じゃないか!?そんなの平民と変わらんぞ!!」

もう一度に殴ろうとする親父の手を押さえる。

子どもの時みたいにやられっぱなしじゃない。今や体格だって親父に勝る。


「何言ってんだよ!アンナの実家だってしみったれた貧乏子爵家じゃねぇか!!」

「建国以来の歴史あるサウスビー家と新興貴族じゃ重みが違うわ、この馬鹿たれが!!!」

「そんなこと知らねぇよ!教えてもらってねぇからな!」


襟首を放され、自由になった左手で親父がまた殴ってきた。

避けきれなくて床に倒れる。拳が耳に当たったため、頭がキーンと鳴る。

お袋が慌てて俺に駆け寄る。


「常識だ!馬鹿者め!!!」


すぐこれだ。

常識、常識、常識、常識!

親父の中の常識が通じるのは、親父の頭の中だけだ。


「すぐにそのルナとかいう馬の骨とは別れろ!別れてアンナと結婚するんだ!!」

「絶対に別れねぇよ!」

「何だと?俺の言うことが聞けないのかぁ!?」


親父の血管は、いかにも切れそうなばかりに膨れ上がっている。


「俺は『真実の愛』を見つけたんだ!」

「何だ、それは!?」

「知らねぇのかよ!今、街中で流行ってる舞台だ。王子と美しい町娘のロマンスだ!!」


ルナと二人で観に行った。

ルナは俺と王子を重ね合わせたのか、感動して泣いていた。


「そんな浮ついたもんに影響されてどうする!?アンナと結婚しろ!家柄、教養、性格、あんなにできた娘はおらんぞ!!!」

「でもアンナに学歴はないよなぁ?あいつも金なくて、学院に通ってないぜ。だけどルナは学院卒業だ」

「御託を抜かすな!!アンナは学院なんぞ出ていなくても、立派に領地を切り盛りすることができるんだぞ!!」


「はっ、それこそ親父の独断と偏見だろ。一度ルナに会ってくれよ。絶対気に入るぜ」

「そんな娘、見たくもないわ!お前は俺の言うことを聞いていればいいんだ!アンナと結婚しろ!!」

「いや、聞けないね。もうアンナとの結婚は無理だぜ。役所に婚約破棄の書類を提出したからな」


どうだと笑ってみせる。いくら親父でも役所に出した書類を無効にするのは無理だ。


「お前という奴はぁ~!!!」

「あなた、やめて、やめて下さい!」

再び俺に殴りかかろうとする親父をお袋が必死に身を挺して止める。


「親父が何と言おうと俺は結婚するぜ。なんせルナの腹の中には、俺の赤ん坊がいるからな」

とっておきの切り札だ。


案の定、親父は動きを止めた。

「あ、赤ん坊だと・・・!?」

親父はワナワナと震えている。お袋は口を手で押さえて真っ青になっている。

「ああ、赤ん坊さ。ルナは今、妊娠してるんだ」


どさりと親父が椅子に座り込む。

そのまま動かない。


「・・・・・・・・・何週だ?」

俯きながら、親父が小声で呟く。


「えっ、何か言ったか?」

「何週目かときいてるんだよ!腹の子は何か月になるんだ?」

「そんなの、知らねぇよ。ルナが妊娠したと言ったから、妊娠してるんだろ」


再び親父が激高する。椅子が勢いよく倒れる。


「そんなこともわからなくて結婚するのか!?おい、言え!いつから付き合ってたんだ!?週数はあってるんだろうな!?」

「どういう意味だよ!?もしかして、ルナのお腹の子が俺の子じゃないとでも言いたいのかよ!?言っていいことと悪いことがあるぞ!!」

「女はわからんからな。おい、言え!俺が計算してやる!!!」

「ふっざけんなよ!気持ちわりぃ。じゃあ、何か?先に子どもができたら、自分の子じゃないって言うのか!?じゃあ聞くが、ボビーは俺の本当の兄貴なんだろうな。親父、ボビーのことも疑ってんのかよ!?」


親父は隠しているが、でき婚というのは皆知ってるんだ。

この貴族社会舐めんなよ。噂陰口大好き、人の足を引っ張る伏魔殿だ。

お袋がショックを受けたように座り込む。


「・・・ボビー兄さん、だろ。言葉が悪いぞ」

親父が拳を握りながらもう一度座る。

(親父の奴、分が悪いとみたのか、論点をすり替えやがった)


親父の前に立って、見下ろす。


「ルナとの結婚、認めてくれるんだな」

「・・・・・・・・・・・・腹の子は、本当にお前の子なんだな」

親父が念押ししてくる。


「当たり前さ」


自信を持って言える。

あの純粋なルナが、他の男とどうこうするなんて考えられない。


沈黙が落ちる。

親父は額に手を当て、考え込んでいる。


「・・・・・・今月の12日だ」

「えっ?」

「今月12日に式を挙げるぞ」


「何だよ、急に。早すぎるだろ、そんなのあと2週間もないじゃないか。あり得ないだろ」

「早いに越したことはない。腹が目立ってきたらどうするんだ。丁度12日に俺たちの金婚式を祝おうと親戚一同すでに招待してある。それを結婚披露宴に変える」

「いや、待てよ。俺だって結婚式は華々しくやりたいさ、兄貴たちみたいに」


そうさ、兄貴たちみたいに豪勢な披露宴でルナに花嫁衣装を着せてやりたい。


「馬鹿が。腹ぼての花嫁を披露してどうするんだ。内輪でやるんだ。披露宴をする金だってお前ないんだろ。いいな、全て親頼みのくせに、一丁前の口を聞くな。でないと俺はこの結婚を認めんからな」


(・・・・・・・この場にルナを連れてこなくて本当に良かった)

ルナには到底聞かせられない。

怒りで体が震えそうになるが、ルナを思い、我慢する。


「ああ、そうか、わかったよ。じゃあ、明日にでもルナを連れてくるわ」

踵を返そうとすると、親父が呼び止める。


「・・・そう言えば、お前、騎士団に入団して何年だ?」

「あぁ?5年だよ。息子の齢ぐらい覚えとけよ」

学院に入れなかったから、15歳の最年少で入団した。


「オズボーン侯爵家のフランシスは、入団5年で隊長になったが、お前はまだなのか?」

・・・親父のこういうところに心底イラッとくる。

昔から優秀な他人を持ち出しては、俺と比較する。


「フランシス隊長は実家が侯爵家だろ。おまけに親戚一同、高官だ。忖度だよ、忖度」


「じゃあ、ギネス家のトムは?あそこは子爵だろ」

本当にムカつく。


「トムは隊長じゃねぇよ、副隊長だ。あいつは学院を卒業してから騎士団に入団したんだ。俺とは違う、エリートコースだからだ」

学院に行かせてもらえなかった親父への当てつけのつもりで言ってやったが、親父はどこ吹く風だ。


親父が、やれやれとため息をついた。

「お前ももう少し頑張れ。努力が足りん。早く出世しろ」


ついに俺の堪忍袋の緒が切れる。


「頑張ってるよ、ああ、頑張ってるよ。俺が頑張っていないとでも思ってるのか!?そんなに俺のことばかり言うけどな、うちの中で誰か出世している奴はいるかぁ?学生時代、散々賢いと親父が自慢していたボビーはどうだ?末は大臣かなんて言ってたくせに、ただの王立図書館の職員じゃねぇか。しかも役職だってない。日がな一日、カビ臭い本と睨めっこだよなぁ!?」


「・・・王立図書館の職員は、誰もがなれるものじゃない」

親父が苦虫を噛み潰した顔で答える。


「じゃあ、ヒューゴはどうだ?嫁の尻にひかれて、嫁の実家の商売の手伝いだろ!?貴族どころか、平民にまでへいこら頭を下げて物売ってるだけじゃないか!?」

「・・・モイン商会は立派な商会だ。ヒューゴはそれを手伝える優秀な頭脳があったってことだ」

ああ言えば、こう言う。


親父にとって大事なのは、この二人だけかよ。


お袋に似て賢く、すらりとした体躯のボビーを嫡男として可愛がり、自分と瓜二つのヒューゴを見所がある奴だと褒めた。

いつもいつも俺はオマケ扱いだ。


「ああ、そうか。でも女を孕ませることができたのは俺だけだな。兄貴たちには子どもがいないからな。所詮、種無しさ」


親父は黙ったまま何も言い返してこない。

お袋は顔を覆ったままだ。


泣いているお袋には悪いと思ったが、少し胸がスッとする。

ついでに金の請求もしておく。


「そうだ、アンナに慰謝料として1千万ゴールディ支払ったから。あとで金くれよな」


「・・・何だと?」


「だから、別れるために払ったんだ。孫のためだ。払ってくれよ」


もう萎れて何も言い返せなくなったと思った親父が、途端に怒鳴りだした。


「金か!!お前、あの娘に金を渡したのか!?」

「あ、ああ。だって別れるためにいるだろ?」

「馬鹿め!そんなもの渡さなくても別れられるものを!!だからお前は馬鹿だと言うんだ!!」

「そんなこと言っても、もう渡したもんは仕方ないだろ?」


再び親父が頭を抱え込む。


「・・・・・・・・・お前、アンナに披露宴の招待状をだせ」

地獄の底から這い出たような低い声だ。


「え、あ、ああ。でも、何でだ?」

「いいから、出せ。俺の方からも出席するよう念押ししとく」

「あ、ああ、わかったよ」


元々招待するとアンナには言ってたし、義理堅いアンナのことだから来てくれるだろう。


「もし、アンナが来なくて慰謝料も返さないようなら、その時は慰謝料はお前が払うんだ。いいな」


・・・・・・それだけは困る!


「アンナには必ず来るよう、伝えるさ」

「そうしろ」


アンナには悪いが、親父には逆らえない。

金のことは、親父が何とかしてくれるのだろう。


俺は、ルナと結婚するだけでいい。

早く戻って、結婚の許しがでたことを伝えよう。

今夜は二人で祝杯をあげるんだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

また、ブクマ、評価してくださった方々、本当にありがとうございます。


補足ですが、作中の「一代男爵」は、世襲貴族とは異なり、爵位を子孫に引き継ぐことができません。

ホランド伯爵が「平民と変わらない」と言ったことは、ある意味正解です。


毎朝7時に更新中ですので、引き続き応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ