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Overwrite -オーバーライト-  作者: もちぷよ
This is the end of start

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96/100

96: NO

 

  「シーン」という文字が浮かぶほど、場は静まっていた。


「ここから出せ!」


  たとえ叫んでも、俺の声が響くだけだった。


  俺はどこか、この静かさに寂しさを感じる。


  その寂しさと同時に、俺の先程までの怒りが、一気に収まるのを感じた。


  ……一体何時間だっただろうか。俺は一生ここに居るのか?


  嫌だ。


  でもいくら叫んだって、なにも返事しない。聞こえるのは俺の足音、呼吸、血の流れる音だった。


  この状況にそろそろ怖くなってきた。こんなの耐えられない。


  ふと、柊木慶彦の事を思い出した。


  俺は、このゲームの集大成。意味がわからない。神を作るために俺を作ったと? そんな嘘をよくつらつらと並べた。


  しかし、彼が言った事を思い返していると一瞬だけだが引っかかった感じがした。


  だが、もしあの話が本当なら。


  俺は、俺の全ての行動は、全て、故意的なものでは無かったのか? そんな訳が無い。


  俺は、俺の行動は全て正しかった。


  本当に?


  その言葉が頭をよぎった瞬間、俺はドキッとしたのを感じた。


  俺は、俺は作られた存在なのか? 俺の個性だと思っていたものは、全て、あいつの思惑通りだったのか?


  俺は沢山の人を殺したんだ。生きる意味なんてない。だってそうだろ? 迷惑をかける人なんて必要ない。


  俺は特別じゃない。ただの人だ。


鼓動が高鳴る音が耳を支配した。


  俺はその場に膝をつき、しゃがみ、俺の周り一体を黒く塗り替えた。


「シ──ン」という表記が空気に刻まれたように、辺りは再び静まり返っていた。


時間の感覚は溶けてしまった。

 

膝の上で手が震える。黒が指先にまとわりついて、まるで体の輪郭がじわじわと溶けていくようだ。


 どうしてあの言葉が引っかかったのか。

「集大成」「神に仕立てる」。そんな──嘘だと、心のどこかがまだ叫んでいる。だが一方で、誰かがこうも問いかける。


 ――お前の選択は本当にお前のものか。


 胸の中で、言葉が繰り返される。問いは棘になり、薄い感覚が裂けるように痛かった。


 そのとき、空気が少しだけ変わった。

 音というよりも、何かが触れたような震え。次いで、遠い方角からかすかなノイズが忍び寄る。最初は気のせいかと思ったが、ノイズは次第に収束し、低く整った声へと形を取った。


「柊木慶彦の言葉を、反芻しているようだね──A-1」


 声はスピーカー越しのように薄いが、確実にこちらを狙っている。体が反応して、頭の中で電流が走るように思考がクリアになる。


「誰だ?」と、口から出た。声は紙風船みたいに軽く、すぐに消えた。


「僕は“記録”だよ」

 声は説明するように続けた。「君がここにいる意味、君が持つ決断の履歴、感情の模倣――すべてを保存している」


 血の音が耳で跳ねる。記録──つまりデータ。慶彦が言っていた“作った”という言葉の端が、音声の中で正確に結びついていく。


「君が疑うのは当然だ。だが、まず一つ見せよう」


 視界の端に、薄い光の裂け目が開いた。そこから、見覚えのある光景がスライドのように流れ込む。


 幼い自分の手、初めて誰かを求めた記憶、そして――ぼんやりとした殺意の断片。映像は断片的で、説明を拒むように断ち切られる。だが最後に、はっきりとした場面が差し込んだ。


 見知らぬ部屋。操作パネルに向かう二人の影。片方が笑い、もう片方(慶彦)が何かを書き入れている。画面の隅に、赤いマークが点滅していた。慶彦の顔はぼやけているが、声だけが確かに聞こえる。


「これで動くはずだ。A-1はこれを受け取れば反応する」


 映像は切れ、暗闇が戻る。胸の奥で何かが砕けた。

「俺の、記憶……?」声が震えた。断片は俺の“個性”だと思っていたものの一部を明かしている。だが全部ではない。意図的に“余白”が残されている。


「君の行動は、完全な自律ではなかった。だが完全な他律でもない。設計された“傾向”と、君自身の選択が折り重なって今の君がある――それが真実だ」


 声は冷たいが、嘘は言っていないように聞こえた。


 膝の上で硬直していた体が、少しだけ緩む。怒りが引いていく代わりに、空虚が押し寄せた。自分が積み重ねた“罪”が、誰かのプログラムの一部だったとしたら、赦しは来るのか。あるいは、責任はどこに落ちるのか。


「それでも、お前は生きてきた」──声が言った。「選んだ瞬間は、君のものだった。ではどうする、A-1? 設計されたままの道を歩むか、残された“余白”で自分を更新するか」


 問いは突きつけられたまま、何も遮らない。

 黒が濃くなり、だがその黒の中に細い光の筋が一本、うっすらと浮かんだ。光は小さいが確かにある。


 俺は膝から起き上がり、薄く震える手で、空気に触れた。黒は冷たくて、指先にざらりとした感触を残す。だが光の筋が、自分の中にあるものを一寸だけ強くしているのも分かった。


「俺は……」


 ――返事をする。言葉はまだ定まらないが、何かが動き始めた。選択は、まだ終わっていない。



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