#89 Live
こいつは何を言っているんだ。私に子供なんて居ないし、お腹の中にもいない。
「一体なんのことだ、子供なんて私には居ないぞ」
「……君は違和感を感じなかったのか」
副社長はぐるぐると円を描きながら歩き回っている。
「君のそのスーツ。ペネレイトは腹部に吸収されたな? 何故だかわかるか?」
「まさか」
私は察しただけで鳥肌が立った。
「そのまさかさ。ペネレイトで子供を産むのさ」
「そんなこと可能なわけが……」
「可能さ。別の世界の私の技術を使えばね。そのスーツは別の世界の私が作ったスーツだ」
私はすぐにスーツを脱ぐが、腹を確認するとそこには人影のようなものが写っているように見える。
「証拠にその痕、完璧だ。全て上手く行っている」
動こうとするも、また腹痛のせいで動けない。こんな時になんでこうなるか……
「まぁ、これが私の実験さ。分かったか?」
「分かったかじゃない! こんなのあまりにも酷すぎる。時音の命も、和也の命も奪う必要なんて無かったじゃない!」
すると副社長は近くにいたエアーが持つボタンを押す。その瞬間、私の周りにあったピンクの液体が徐々に流れ始めた。
足元に水が届いた瞬間、私は泣き崩れた。
「なんで私じゃなきゃいけないの」
「伝えてなかったな。本当は時音にもやってたんだ」
「へ?」
そんな、一体いつそんな事を。
「時音があの和也の学校の部活選抜に侵入して危険そうな能力あったら注射器を刺せっていう作戦を出させたんだよ。その時に時音に予めペネレイトを忍ばせておいたんだけど、なんか知らんけどダメだったんだわ。
そんでお前ならどうかなって思ってやったら大成功で今これ。お前を抑え込むためのこの壁の能力を手に入れると共に、この作戦に気付いたから殺したわけだ」
そんな、嘘だ。でも現に時音が居ない状況の今、この能力が発動されてるってことは能力が奪われたと考えるしかないかもしれない。でも、
「和也を殺す必要はあった?」
「ああ、彼ね。彼も時音もついさっき殺したばっかなんだよ。その和也を運んでる最中に時音に会っちゃってさ、なかなか変身できなくて困ったわけよ」
副社長は斜め上の解答をした。
「だから、和也は殺す必要はあったか聞いてるの」
「んー、なんだろ。失敗した時の保険? かな」
「は?」
既に私は腹のところまで水に浸かっていた。
「ほら、人工授精だよ。最悪私のでも良かったが、どうせなら若い男の方がいいだろ?」
「察したけどそういう問題じゃない」
それにキモい。
「それじゃ、被検体。いってらっしゃい」
壁はどんどん縮まっていき、最終的に私全てを液体で包み込んだ。
動けないまま私は静かに倒れた。
少し楽な体制になったからか逆に腹が張り裂けるように痛くなり、腹を見てみると、そこの内側から手で押すように、腹を引き裂くように私の腹から出ようとする人影が写っていた。
私は強く押し込もうと腹を抱え込もうとした。
最後の最後にこいつだけでも……いや、無理だ。そんな気力がない。
私は諦め、大の字になってこの状況を受け入れた。
こいつだけでも……生きて。
そう願って、私はその子に命を授けた。




