#85 You are a human
瞬きしただけだった。それだけなのに、彼女は既に私の目の前にいた。
「なんでこの瞬間に攻撃をしなかったの?」
「圧倒的な力の差。これを感じて欲しかったの。まだ間に合う。私の前から消えて」
分かってる。彼女には勝てない事なんて。でも、戦わなきゃこっちの世界を救えない。それに、
「任務だから」
「……あっそ」
その言葉を聞き、私は目を閉じて死を覚悟した。
しかし、一向に攻撃が来ない。なんで?
私は目を恐る恐る開けると、目の前には攻撃の構えをしている杏奈がいた。
「やっと目開いた」
そう言った瞬間、彼女はペネレイトを巻き付けた拳を私の胸を目掛けて殴りかかる。
勝てない。そう思い、より絶望した瞬間、優しいパンチが私の胸を打撃した。
え?
咄嗟に瞑ってしまった目を開けると、杏奈は私の胸へ拳を当てるだけで、ペネレイトを巻き付けていなかった。
「私を殺す気で戦うんじゃなかったの?」
「違う!!」
杏奈は再びペネレイトを拳に巻き付けて胸へ目掛けて殴るが、届いた時にはペネレイトはなく、ただの拳だけが当たっていた。
「どうして、なんで?」
意図的ではない? まさかこれが副社長が言ってた「スーツの保険」なのか。
ならば、勝ったも同然。
「チャージ〖声〗」
私は腹に息を貯め、一気に吐き出して叫んだ。
私の声は超音波と化し、杏奈との距離を遠ざけた。
しかし遠ざけた瞬間、杏奈は尖らせたペネレイトを背後から私の背へ向けて貫こうとした。
それに気づいた時は既に遅かったが、私が後ろを向いた時、不思議な光景を見た。
伸びてきたペネレイトが私の腹へ入っていく光景だ。
これが、副社長の保険で間違い無さそうだ。
ペネレイトを吸収する。ペネレイトがない杏奈は、ただの人と変わりない。
そう思っただけで、今まで戦うことが怖かったウィルが杏奈という人へ変わり、結果、1人の人を倒すことへと認識が変わったことで、体が軽くなった気がした。
私は固まっていた体を、杏奈の方を向いてうずくまる。
「チャージ〖解放〗」
瞬時に立ち上がり、床にヒビができるほどの速度で、周りのペネレイトを弾き、そのまま杏奈の腹に槍を突き刺した。
「ありがと。もう苦しませないよ」
私はそう言い、腰に付けておいたキューブを、杏奈の胸元にかざそうとした瞬間、横の窓が割れ、男が私と杏奈を塞ぐように現れた。
彼は制服を着ており、ここの学生のようだが、2階の窓から現れるなんて、一体どこから飛び降りてきたんだ。
とにかく、私の敵ということは間違いないので、私は槍を構えた。
「ほう、あんたも槍を使うのか。珍しいな」
そう言って姿を現した彼は、和也だった。
「和也!?」
私がつい言ってしまい、和也は反応する。
「なんであんた俺の名前知ってんだ? 怖すぎ」
すると後ろにいた杏奈は和也を叱る。
「ちょっと和也! なんでもっと早く来ないの」
「ごめんて、部活だったんだって。こちとら100m走りまくったから今足がパンパンなんだわ。で、こいつ誰だよ。明らかに学生じゃないよな?」
「知らないわよ。急に現れて急に攻撃してきただけよ」
「あっそ、じゃあこちらも急に行かせてもらいます」
和也はそう言い、私に襲いかかってきたが、遅い。
遅すぎる。どう攻撃してくるのか見え見えだ。
私はすぐ槍を背にかけ、和也からの拳を拳で返した。
「あなた、スキルないの?」
その言葉に和也が反応したところで、私は彼の腹へ膝蹴りして投げ飛ばし、杏奈の元へ向かった。
これ以上他の人を傷つける訳にはいかない。
すると杏奈は私へ飛び込んできて、全身で私の体を抑え込んだ。
一体何を
「あんたは死んだ」
杏奈がそう言うと、後ろには黄色く光る手のひらを、私へ向けた和也がいた。
なんかやばそう。早くしないと。
私はそう思い、辺り一帯に聞こえるくらい大きな声で叫んだ。
「エアーー!! 元の次元に戻して!!」
そう言った瞬間、後ろからエアーの声がし、私は和也のビームが放たれたと同時に元の次元に戻った。
……
目が覚めると、私はベッドで寝ており、隣で副社長が座っていた。
「おお、目が覚めたか」
副社長は、暗い顔から一気に明るい顔へと変わった。
「私、あの一瞬で、元の次元に戻る瞬間で、スキルを奪ったと思うんですが、奪えてましたか?」
副社長は安心したような顔をして言う。
「ああ、しっかりと。本当にありがとう」




