*8 Change my wear
「は!」
私はビクッとして目を覚ました。目覚めた場所はベッドの上。横はカーテンで仕切られていて、その奥は分からない。さらに、目の前には水道が見える。この風景に、どこか懐かしさを感じる。
あの後、私は何をした? たしか、ゴーレムに吹き飛ばされたはず……そうだ、ラーが目の前に来て、何か持っていたはず。
「お、目覚めた」
「愛菜!」
私は目の前にラーが現れ、つい驚き、愛菜の名前を叫んだ。
「なんだ、そんなにその人が恋しかったか」
え? その人ってことはまさかラー=愛菜ではない? そんなことを考えても、どこか憎めないのが腹立たしい。
「違うし」
ここは一体どこだろうか。ラーがいるからゲームの中というのは間違えない。しかしここは、なんというか懐かしい匂いと、懐かしい雰囲気がする。
「ここはどこ?」
「保健室だ」
なるほど、だからか。
小学生の頃、よく鬼ごっこして転び、保健室に通っていた。その懐かしさがゲームでまた味わえるとは思いもしなかった。
そういえば、ラーはなぜ直ぐに助けに来なかったのだろうか。流石にゴーレムが叫んだくらいのところで気づいて欲しかった。彼なら一発だからな。
流石に自分勝手すぎるので、問わないようにした。
「君にはこれをあげよう」
彼の手にあったのは、キーホルダーくらいの白く光る小さな剣だった。その剣は彼の使っていた槍とよく似ている。
「なんで?」
単純な疑問。確かに武器は持っておいた方がいい。しかしなぜくれるのかが分からない。さらに小さ過ぎて使い物になるかどうか……
「可能性を感じたから。それだけだ」
私は手のひらを差し出すと、その上にキーホルダーを置いた。見た目以上に重い。
「それはちゃんと使えるから、これから使っていきなよ。そんじゃ」
「う、うん。ありがとうございます」
そう言って彼は保健室を出ていった。その背中に、少し寂しさを感じた。すると、小さくなっていた足音が大きくなり、再びラーが姿を現す。
「俺を探せ。そしたらもうひとつ何かを授けよう。」
気まずい沈黙。彼は耐えきれなかったのか、保健室のカーテンを閉め、去っていった。
うん。気持ちは分かる。
「そうだ!2人を見つけなきゃ!」
いや、今日は疲れた。ゲームをやめて家に帰ろう。
結局ラーは愛菜じゃ無さそうだし、2人は一体どこにいるんだろうか。
〖ログアウトしますか?〗
「ログアウト」
「ガタン!」「ピシャ!」と大きな音がした。それと共に視界が水中から出てきた時のようにモヤがかかって見える。
目をぱちぱちさせると、現実世界に戻ってきたということが分かる。匂い、視界、場所、空気、全てが変わったからだ。
私はゲームを始めた場所。小さなテレビが置いてあるところに戻ってきたのだ。私は安心とともに疲れてしゃがんだ。平和が1番とこれまでにないほどに思った。
回りを見ると、自分を囲っていたガラスが無くなっていることに気づいた。さらに床と自分がびしょ濡れになっている。「水中であのゲームをしている」と思うと凄いな最新技術は。
私はつけていたマスクを外し、腰に戻す。
私はカードをかざし、部屋を出るとやはりカラオケルームだった。
「あれ?まじ?」
隣を見ると〖ログアウト済み〗と書かれていた。
他にも見ると〖ログアウト済み〗の文字が扉の横に書かれている。回り10部屋ぐらい見回ったが、全部〖ログアウト済み〗だった。
やはりラー=愛菜ではなかったのだ。
私はそのことに怖がることもなく、冷や汗をかくこともなく、ただ何も感じなかった。
「パチッ」
電気が消えた。つまり、営業終了したということだ。
こんなこと初めてだ。なぜ店員は私がやってるって気づかなかったのだろうか。とりあえず、着替えよう。寒い。
私はエレベーターで上り、更衣室へ向かう。誰も居ないことに背徳感と絶望を感じた。
問題はこれだけでは無かった。
脱ぎ方が分からない。こんな全身タイツ。チャックもないし脱ぎ方全く分からないって。私はいつもと違った焦りがあった。
身体中触る。背中、胸、腕、首、足、手、腹、どこも反応しない。取扱説明書でもないかと探すが、ない。
どうしようかと考えて歩いていると、腰に戻したマスクを思い出した。
私は直ぐにマスクの箱を取り、胸下にくっつけてボタンを押すと見事に「カチカチ」と音を立てながら逆再生するかのように箱に集まり、元の箱に戻った。
「しゃ!」
私は思わずガッツポーズをしてしまった。
しかし、そんな喜んでいるのも束の間。
「ガチャ」
扉が開く音がした。
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