/7×2²+1/ Winner is me
やはり、彼女の”痛み”は演技だった。
彼女は痛くて苦しい。というよりも、自ら彼の手を抑え、柊木が動けないようにしていた。
「な、まじかよ」
柊木も自分が騙されたことに驚いている。
杏奈はにやけが止まらず、ずっと笑顔だ。まるで、あの黒い人のように。
「私の勝ちよ。柊木くん」
幽霊だから、第三者から見るからわかる。柊木の後ろから、音を立てないように奴が現れた。
「柊木! 後ろだ!」
声が聞こえずとも、声を出した。頼むから気づいてくれ!
しかし彼は気づけず、俺とはまた違った倒し方。上半身と下半身を切断するように鎌を振った。
彼の上半身は杏奈の力によって宙に浮き、下半身は無惨に床へと崩れ落ちた。
奴は黒い液体の中に溶け、また姿を消した。
「なんで上半身だけ残した」
杏奈は答える。
「私はあなたに無力さを感じて欲しかった。『プロゲーマーになる』っていう夢は良いと思う。でも、現実を見て欲しかった」
ああ、良かった。そう思ってるのは俺だけじゃなかった。
すると柊木はニヤけ、杏奈に言う。
「お前、俺らの戦い観戦してたんだよな? あいつにも言ったが、勝利を確信するのは良くない」
杏奈は後ろを振り向くが、何も無い。しかし横から彼の銃、そして上から複数の武器が重なった大砲のようなもの全てが、彼女に銃口を向けており、彼女が反応する前に放つ。
「ドドド」という激しい音が彼女を襲い、柊木は彼女を穴だらけにした。しかしおかしい。”穴だらけ”までなったら流石に死ぬはずだ。
柊木は打つのをやめ、彼女が倒れると共に柊木も同時に倒れた。
「やったか」
そう言うと、彼女の体は全て黒くなり、床の液体と同化した。
まさか、これはダミー? てことは本体はどこに。
すると「コツコツ」と足音を立てながら、こちらに向かってくる音がする。
まさか
「嘘だろ」
柊木の感情は、考えなくても分かる。
絶望だ。
その我々の方に向かってくる姿は、最初に見た時の禍々しさはなく、なぜか安定感があった。しかし彼女の姿は先程とは違く、赤と黒の髪、黒とオレンジ色の服に変わっており、よりかっこいい。
まさか、痛い演技をしている理由がわかった。再生する時に見える黒い液体を隠し、自分自身がそれで作られていることを隠すためだ。
「これが、現実を見るということだ。分かったな?」
杏奈は倒れる柊木の元で、言った。
俺らは完全に騙されていた。実力を見誤っていた。彼女は俺らとは次元が違う。
彼女は床から黒い液体を無数にのばし、彼の体を突き刺した。
柊木は何も言わず、目を閉じた。
〖Game set winner ウィル〗
俺らは立ち上がり、柊木と並んで杏奈と向き合った。
気まづい空気。なんか、この空気嫌だ。
俺はこの空気を壊すために、伝えた。
「これからも、杏奈を越すために、頑張る」
俺は彼女へ手を伸ばすと、手を握ってくれた。彼女の手は冷たく、しかし力強さを感じた。
柊木はそれを見るだけで、彼女へは何も言わなかった。
〖ログアウト〗
俺らは「もう遅いから」と言い、ログアウトをした。
ログアウトをすると、いつもの静まり返った地下室に戻ってきた。たった2回の戦いが、とても長い時間の戦いだった気がする。
カプセル内の水が引き、自動で扉が開いた。
俺はすぐに密室から出て、リュックの前で着替えを始める。胸下のボタンを押し、箱に戻した。
すると「シュー」という音がし、カプセルが開く音がした。
まさかと思い、後ろを振り向くと、そこにはスーツとマスクを身につけた女性が立っていた。




