/56÷2/ Who is the man?
何のためにコロッセオのステージを選んだのか、正直分からなかった。
杏奈は俺らの方に手を伸ばし、言う。
「出てこい。私の亡霊たち」
すると杏奈の周りからボコボコと泡がたち、黒い液体から形作られた、不気味な黒い手、顔、体を持つ人影が現れた。
「なんだありゃ」
柊木も初めて見るのか。
「細胞の具現化というスキルよ」
杏奈が説明してくれたが、そんなスキル聞いたことがない。
するとその黒い人の手は鎌のような形に変わり、しゃがんで構えた。まるで指示を待つかのように、その状態をキープしている。
「行け」
杏奈の言葉に反応し、そいつは俺に向かって鎌を振りかざしてきた。
俺はすぐ後ろに下がり、避けるが、地面から黒い液体が伸び、俺の足に絡まり着いた。
まずい
黒い人はのっぺらぼうの顔から口を現し、奇声を上げながらジャンプし、俺へ向かって鎌を振り下ろす。
「パン!」
柊木の銃が、奴の頭を撃ち抜いた。よく見るとそれは赤いオーラを纏っており、柊木が第2形態になって武器を外していることが分かる。
「その銃は腕に着けて好きに使え。装着すればシステムが反応するはずだ」
柊木がそう言った瞬間、杏奈が彼の元へ飛びつき、黒く染った手で彼を殴る。
俺は言われた通り腕に銃をかざす。すると長方形の銃は腕に巻き付いた。
〖このデバイスを登録しますか?〗
システムが反応した。もちろん「はい」だ。
登録が完了すると、巻きついていたベルトのような部分から金属が広がり、手首から肘までの部分の周り全てが、銃口のような筒で一周した。
俺は驚き、感動するが、すぐに我に返り、槍で巻きついた液体を、足を切らないように正確に切ってちぎった。
するとちぎった液体が倒れた黒い人と同化し、奴は起きた。
奴は溶け、床に沈んでいく。奴は沈んでいくと同時にドロっとした口を開き、奇妙な声を出した。
『バアァアカァア』
すぐに奴に、床に槍を突き刺すが、なんの手応えもない。一体どこへ。
するとドーム状になっていた黒い液体から鋭いビームのように俺の元まで伸びる。俺は槍で突き刺して、水しぶきのように床へ飛び散らせた。
しかし飛び散った液体も空中で鋭く伸び、俺の体を突き刺した。
そこから俺は動けず、ただ束縛された。もがいても動けない。手足が動いても、体が動かなければ意味が無い。
いや、大丈夫だ。俺なら、出来る。
「俺を原点とし、縦をy、横をxとする。その時……」
俺は柊木を見習ってタイミングを見計らい、ただ相手が打ってくるのを待っていた。
するとトドメに、360°全ての場所から液体が、俺を目掛けて様々な方向から伸びてきた。
きた!
「ビームの座標はx²+y²=1」
ドーム状にしたのはこのためだったのか。しかし、俺とは相性が悪かったな。
俺のビームは周りから伸びる黒い液体の全てに当たり、液体全てを切り裂いた。
俺は上手くいったことに気分が良くなっていると、下から伸びる手に気付かなかった。
奴だ。
奴は顔を見せ、顔がなくとも口だけで、不気味な笑顔を見せた。
奴はビームの円の中に、俺の目の前に現れた。
下からは無理だって。
俺は諦めず、数式を詠唱した。「俺を原点とし、縦を……」詠唱している時に、奴は俺の口を抑え、片手を鎌へと変形させ、俺を斜めに切り裂いた。
最後まで奴は、笑顔だった。
せっかく柊木から武器を貰ったのに、申し訳ない。
それに、杏奈に負けたということが、最も悔しい。俺のが強いってこと、証明したかった。
ただやられた自分の無力さに苛立ちを感じ、深い悔しさが胸を引き締めた。
気がつくと観戦者モードへ変わり、幽霊の姿となって柊木と杏奈との戦いを眺める。
彼らの戦いは目で追える代わりに、様々な技術が活用されていた。
さらに、彼らの戦いは互角に見えるが、杏奈に余裕が見える。
柊木は武器を浮かせ、肉弾戦を仕掛けながらスキルで杏奈へ銃を放つ。
対して杏奈は無駄の無い動きで柊木の攻撃を受け流し、かつ、銃弾はスキルで壁を作り、防御している。
「オラ!」
今まで規則的に動いていた柊木は、急に流れを変え、杏奈の腹へと打撃を当てた。
柊木は「やっちまった」という顔をしている。彼女はなぜか痛みを感じるからだろう。とてもプロゲーマー
になろうとしているやつの行動とは思えない。
彼はすぐに動きを止め、彼女の様子を伺う。すると杏奈はすぐに顔を上げ、言う。
「バアァアカァア」




