*19 I can win
私は、罪を犯していない。
目から涙を流した。しかしそれは黒く、まさに、ペネレイトだ。私はそれを隠すが、「もし本当にゲームの力があったのなら」と考えてしまった。
今までの恨みをぶつけるため、黒い涙を佐々木と神威に向かって勢いよく発射させた。
しかしあの時のように、時音の目の色が変わる。
「ほら、言ったじゃん。こうなるって」
ペネレイトは佐々木と神威の鼻先で止まり、また、赤、青、緑の3色がペネレイトの周りで歪んで見えている。
時音か
時音の方を見るが、「パン」と鳴り、その姿は見えず、代わりに最初にいた体育館に戻ってきた。
3人の姿は周りを見ても居ず、私1人がぽつんといた。
私はペネレイトを目の中にもどし、姿勢を低くして構え、次に起こる危機に備えた。
「パン」という手を叩く音がし、振り返るが誰も居ず、背中から重いパンチをくらい、少し遠くまで飛ばされた。
「ぐはっ」
こんな打撃は初めてだ。
私を殴ったと思われるやつ。佐々木が元の場所におり、「殴った」構えをしている。恐らく殴ったのは彼だろう。
「もし、これがゲームと同じなら」
私は手のひらを佐々木へ向け、一歩前に出てペネレイトを出そうとしたが、出てこない。
なんで? 私はゲームと同じ能力を手に入れたんじゃないの?
「パン」とまた鳴ると、後から刃物で背を切られた。
後ろをチラッと見ると、神威が刀を持っていた。
紙で切ったときの痛みが全身にあるみたいで、痛すぎる。
切られた刹那、私の背中は冷たくなり、傷口が塞がった感覚があった。
驚き、背中を触るが、本当に傷口が無くなっている。後ろを見ると、神威も驚いており、私はすぐ彼へ1発殴った。苦しそうな彼を見て、少し快感を得た。
「パン」となると、彼はいなくなっていた。その代わり真後ろに時音がおり、私の肩を掴んだ。
「じゃあな」
目の前が歪んで見える。気持ち悪い。どこかがおかしい。視点が回転する。体の感覚がない。
歪みが無くなると、視点は一気に下へ落ち、時音と神威を下から見上げた。神威の刀には血が付いており、私の顔にも血が流れてきた。
流れてきた方を見ると、そこには私の体があった。
「あ、ああ、なんで、なんでぇ」
私、死ぬの?
「うわ、こいつ、意識あるぞ!」
神威が焦っているのに対し、時音は冷静だ。人が死ぬのに慣れているのか。
「そりゃそうよ。首を切ってもさっきまで通ってた血は頭に残っているんだから」
早く、死にたい。
まって、そもそも私がこんなになったのは、彼らのせい。
私のせいじゃない。
私に罪は無い。
私は罪を犯していない。
どうせ死ぬなら、彼らも道連れに。
私は頭の切断部分からペネレイトを出し、勢いよく上へ飛び出した。佐々木がそれに反応し、ジャンプして私を殴ろうとするが、瞬時に横へ避ける。
同時に、体の切断部分から目くらましとしてペネレイトを出し、直ぐに走って私の頭へ向かうよう、とにかく意識した。頭の中で、走るのをイメージして。
回転する視点の中、下を意識して見ると走ってくる自分の体があった。
その切断部分どうしからペネレイトを出し、結びつけて勢いよく頭の方へ向かって切断部分同士をくっ付け、2階の柵がある道に足をつけた。
「おい、あいつ不死身かよ」
神威がなんか言っている。
「私は、あんたらを許さない。あんたらのせいで私の人生はめちゃくちゃになった。だから、責任を取って死んでもらう。拒否権は無い」
ペネレイトを出す条件が分かった。だが現実とゲームの条件は違う。これを理解した私は、負けない。
あんな奴らはゴーレムと比べたら、弱い。
「お前、俺らのこと舐めてるだろ? 俺らはあんたを死なせたくないんだ。か弱い中学3年生だからな」
佐々木は煽っているのだろうか? よく分からない。
「パン」という音が鳴る前に、私は自分の両手と頭を、何度も何度も壁に打ち付けた。
私はただ、勝利を確信し、手で口を抑えたが、笑いを抑えられなかった。
「ああああ、楽しみだぁお前らを、殺せる。呪縛の根源を、殺せる。これで私はぁ解放される くはははははははははははははははははははははは」
何か分からない。ただ開放感だけが感じられた。さっきまでの絶望はなかったかのように。その事に何故か私は、喜びを感じた。
そして私は柵に背を向け、準備した。
「パン」という音が鳴った。
その瞬間、私の周りには佐々木、時音、神威が、構えた状態で右、左、目の前にそれぞれ現れた。
私は笑みを隠しきれず、笑う。
「待ってましたぁ!」
手から、頭から、首から、「血」が出ている所から鋭くしたペネレイトを勢い良く出し、彼らの胸に突き刺した。
彼らの動きは死んだように固まり、ただその事に喜びを感じた。
「佐々木、神威、時音ぇ、ずいぶんと、弱かったな? こんな弱いと思わなかったよ!!」
彼らは苦い顔をしており、私を憎んでいることがよく分かる。
神威が手をたたこうとするが、私は彼の手をペネレイトで抑え、体に巻き付けた。
時音の顔は、今にも私を殺しそうな顔をしている。珍しい。あの冷静さはどこへいったのだろうか。
「我々は、君を助けようとしたんだぞ!」
「じゃあ言うのが遅かったね。もっと早くその事を言うべきだった。そしたらこんな事にはなってなかった。ね」
佐々木の自分の罪を受け入れない言動に、怒りを感じた。
すると3人が急に居なくなり、無傷の姿で下に現れた。佐々木と神威の顔には笑みが、時音はいつも通りの冷静な顔をしている。
「なんで、なんで無傷な、それにさっきまでここに……」
自分で驚いた。私の声は震えている。彼らが恐ろしい? まさか。1回殺したも同然なのに。なぜこんなにも、震えが止まらない。
「あんなぁ、俺が手じゃないと瞬間移動出来ないとでも思ってんのか? 俺はな、太ももでも瞬間移動出来るんだわ。どっかのアニメを見すぎだ」
私は下へ飛び降り、彼らと向き合った。
「再戦といこうか」