*15 Sorry to you
「今なんて?」
「これは、全て現実だ。これはゲームではない。そう言ったんだ」
え? そんな、嘘でしょ。彼は、本当に。本当に死んでしまったの? そんな、人はそんな簡単に死ぬものだろうか。
心臓が激しく鼓動する。信じたくない、嘘だ。焦らせるための嘘に違いない。
きっと、そうだ。うん……私を信じよう。
ウインドブレーカーをかごに置いてあったので取り、身につけ、私は崩れた結の横を通って部屋を出た。
そこには、沢山の無機質な黒いスーツを着た人たち。どのスーツも「一般的な社会人の背中」などではなく、同じ形のはずなのにどこか威圧感を持っている。
彼らからは冷たく、鋭い視線が私の背を凍らせた。
私は彼らを避けながらも、非常階段へ向かった。
すると横から女性が飛び出し、私とぶつかり倒れてしまった。
「あ、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
あ、この人どこかで見た覚えがある。彼女は私を見ると、「あ!」と言うように驚いた。
思い出した。彼女は、あの時の警備員。見回りだ。
「やはり、君はそちら側か」
「え?」
見回りはすぐに立ち上がり、一緒にいた人と私の横を通り過ぎて行った。彼女はどうも落ち込んでいるように見えた。
非常階段を見つけ、あの時と同じように。ではなく、ゆっくり登った。長く感じるが、それで良い。
私の階段を上る音。息。頭の中の考える声しか聞こえなかった。
帰ったら何しよう。家に何日帰っていない? 2日? もしそうだとしたら心配をかけてる。まず、謝ろう。
1階の扉を開き、ゲームセンターを通って外へ出た。今回は太陽の光ではなく、星の輝きが目立った。
さらに、ここが現実ということを、教えてくれた。
また、前と同じように帰ろうと、駐輪場に向かった時、気づいた。真由美!
そうだ、真由美のことをすっかり忘れていた。彼女は一体今どこに……
私はすぐ受付に行き、あの時の優しい店員に会った。
店員は、私に気づいたらしく「お久しぶりです」と言った。私はそれにすぐ「久しぶりです」と笑顔で返した。彼女に会えて嬉しかったが、ふと我に返り、真由美を思い出した。
私はとりあえず、その店員に聞いた。
「すみません、桜井真由美っていう人。知ってますか? どこにいるか知ってますか?」
「桜井様ですね。少々お待ちを」
そう言い、パソコンをカチカチし始めた。
するとこちらを見て、彼女は微笑んだ。私は疑問に思い、聞いた。
「どうしました?」
「後ろです」
そこには、真由美が居た。傷も、汚れも、何も汚れて無い。真由美だった。
真由美は、飲んでいた紙パックのジュースのストローから口を外し、私の方を見た。
「杏奈」
少し、いや、だいぶ怒っている。彼女の声は低く、歯ぎしりをして、顔を真っ赤にしながら沢山の言葉を並べた。私は彼女の額を見ながら説教を聞いた。
話が頭に入ってこないが、簡潔にいえば「どこに行ってたの」という事だ。
私は数えきれないほど謝った。
「ほれ」
「あ、ありがとう」
私の荷物だ。ずっと持っていてくれたのだろう。感謝してる。急にいなくなってしまったのが本当に申し訳ない。
私は真由美と二人で帰った。彼女との帰り道の時間は、今の私を最も癒してくれた時間だった。
夜の街に店の光が放たれ、こんな田舎でも、綺麗な場所、居場所があると、感じさせてくれた。
「気をつけてねー」
「うん、じゃあねー」
私は真由美の返事に返し、街灯だけが光る道を歩く、一人の時間が訪れた。
私は母親になんと言おうか必死に考えた。
まず、真由美と話し合って「真由美の家に泊まっていた」というように話を合わせた。その後は……
そんなことを考えていると、いつの間にか家の前に着いていた。
2日ぶりの帰宅。どんな反応をするだろうか。
いつもの家のはずなのにどこか大きな存在に感じる。ただ帰宅するだけ。それだけで私の鼓動は波を打っていた。
私は母の車の横を通り、コンクリートの地面の音を聞きながら玄関の扉の前にたどり着いた。
きっと、大丈夫。きっと、怒らない。きっと……
私は決心し、扉を開けようとするが、鍵が閉まっていて開かない。
嘘……
私はすぐにインターホンを鳴らして、後ろに下がった。
すると急ぐ足音が聞こえ、玄関の灯りがつき、扉が開かれた。その先には母がいた。
「杏奈!」
母は私の体を抱きしめた。母の髪からはシャンプーの匂いが感じられ、さらに所々濡れていた。私は強く抱きしめ返し、その嬉しさに涙をこぼした。
「遅くなってごめんなさい」
母は、それに対し、私の肩を握って言った。
「おかえり」
私は、母の目を見て無理やり笑顔を作り、口角がビクビクして、酷い顔になっていることが分かっていながらも、伝えた。
「ただいま」
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