脳天気ミナトと貯金事情調査団!
春の柔らかい陽射しが差し込む土曜日の昼下がり。
5人の高校時代の友人たちが、都内のちょっとオシャレなカフェに集まっていた。
「で、ミナト。貯金してる?」
冷たいアイスコーヒーを一口飲んで、ミコトがふいに口を開いた。
「ん? 貯金?」
ミナトは一瞬きょとんとした後、明るい笑顔で言った。
「え〜っと、たまに、かな? ほら、気が向いたら!」
「……それ、してないってことね」
ミコトは静かに突っ込む。表情は変わらない。
「まあまあ、毎日がエンジョイできたらそれでよくない?」
ミナトは満面の笑顔でピースサイン。脳天気にもほどがある。
「ミナト、それってつまり『財布の中身=貯金』みたいな発想じゃない?」
眼鏡をクイッと上げながらカナデが指摘する。冷静な観察眼はさすがビジネスアナリスト。
「貯金って、難しいよね〜。私は毎月残ったぶんが貯金になるって思ってるけど、残らないからゼロだよ?」
サクラが、パンケーキをフォークでつつきながら、のんびり言った。もちろん真顔。
「いや、それ難しいっていうか、ただの自然消滅じゃん」
ミコトがすかさず突っ込む。
「なにそれ、ロマンスみたいでかっこいい!」
サクラはキラキラと目を輝かせた。意味はわかっていない。
「ミナト、お金の管理ちゃんとした方がいいよ。今は独り身でアパート暮らしでも、将来を考えたらさ」
ツバサが真剣な口調で言う。ロングの黒髪を耳にかけながら、理路整然とミナトを見つめる。
「えー、でもオレってそんな将来設計できるタイプじゃないし…」
ミナトが肩をすくめたその瞬間。
「だから問題なのよ」
ミコトとツバサの声がシンクロした。
「え、なにこのダブルツッコミ。こわっ!」
ミナトは思わず椅子からのけぞる。
「ちょっと気になったんだけど、みんなって月どれくらい貯金してるの?」
ミナトは話をそらすように問いかけた。
「5万。固定費差し引いて、使えるお金の中から毎月自動振替してる」
即答したのはツバサ。答えも完璧。
「私は……月によってバラバラ。だけど、できれば月3万くらいは貯金してるかな」
カナデがノートアプリを開きながら答える。
「私はね〜、たぶん……5千円くらいかな?」
サクラはどこか誇らしげ。でもミナトはそれ以上突っ込まなかった。たぶん本人は本気だから。
「私は8万。仕事が探偵って言っても、フリーランスの契約で報酬は安定しない。でも出費も無駄がないから」
ミコトが淡々と答えた。
「え、8万!? 探偵って儲かるんだ……」
ミナトが驚きの声を上げる。
「儲かるんじゃなくて、使わないの」
即答だった。無駄がない生き方、さすがである。
「よーし、オレもちゃんと貯金考えよっと! ちょっと計算してみるか〜」
そう言って、ミナトはスマホを取り出し、何やら計算を始めた。
ーーーー
数時間後。グループメッセージにて。
ミナト:
みんなの意見を参考に、毎月1万円貯金することにしたぜ!
年間12万! 10年で120万!
老後まで生きたら300万以上いけるかも!? 最強か!!
ミコト:
……そのペースだと老後資金としては絶望的ね。
ツバサ:
ちょっと待って、計算甘すぎない? 物価上昇率と税金とか考えてないよね?
カナデ:
複利もないし、インフレ考慮してないし、生活費の見直しもしてない。まさに脳天気モデルケース。
サクラ:
300万あったら、動物の保護施設つくれないかな〜。
ミナト:
いやいや、なんで全員そんな冷たいの!? 俺、ちゃんとやろうとしてるのに!?
ミコト:
(……かわいいからって全部許されると思うなよ)
ーーーー
日曜の夜、ミナトはカフェでの会話とメッセージの応酬を思い出しながら、布団にくるまっていた。
その隣、ミコトからの個別メッセージが届いた。
ミコト:
本気で貯金考えるなら、手伝ってあげる。
データまとめて、家計のアプリでも使ってみたら?
ミナトは笑った。ミコトの文字はどこか冷たく見えるけど、誰よりも気にかけてくれてるって、知ってるから。
ミナト:
頼りにしてるぜ! 貯金王に、俺はなる!!
ミコト:
そのフラグ、折れる前にちゃんとやれ。
まったく、にぎやかな仲間たちである。
そしてきっと、これからもずっと、こんなカオスな会話が続いていくのだろう。
それが、ミナトたち5人の「日常」だから。