いつものメンバー=いつメン!
ある日の夜22:15、メッセージグループ。
ミナト:
《なぁみんなー。今日ちょっとだけ真剣な話していい?》
カナデ:
《珍しい……天変地異の予兆?》
ツバサ:
《前置きが気になる。話してみて。論理的に整理してあげる》
サクラ:
《えっ、占いの話!? 今日私、うさぎのぬいぐるみと目が合ったんだよね》
ミコト:
《違う。たぶん恋愛の話》
ミナト:
《ミコト、さすがだな~。……そう、ちょっと恋愛っぽいというか……なんかこう、真面目に考えちゃって》
カナデ:
《前振り長い! 本題にどうぞ》
ミナト:
《あのさ、高校のときにさ、ミコトって二回告白してくれたよな?で、この前ツバサも一回》
サクラ:
《ええええ!?なになに!?そうだったの!?》
ツバサ:
《……ミナト、それを話すの今か》
ミナト:
《ごめんごめん!なんかさ、ふと考えてて。「前向きに向き合う」って言ってたよね、僕。でも、それって……ちゃんと向き合ってない気がしてさ》
ミコト:
《ほう。やっと考えたか》
カナデ:
《一周回って成長したってこと?》
ミナト:
《そもそも「前向きに向き合う」って、どういう意味なんだろって思って。僕、ちゃんと好きとか嫌いとか、言ってなかった気がするんだよね……》
サクラ:
《なるほど~。じゃあ、どっちが本命なの!?》
ミナト:
《いや、そういう決めつける話じゃなくて!まだ答えが出てないって感じ》
ツバサ:
《ミナト。私はあの時、期限のない宿題を出したわけじゃない》
ミコト:
《……そうですよね。私も二回も告白するなんて、我ながら驚いた。でも、返事が曖昧だと、思考が宙ぶらりんになる》
ミナト:
《うわぁ、やっぱ2人とも真面目だな……俺がちゃらんぽらんだっただけか……》
カナデ:
《うん、それは事実だね》
サクラ:
《でもミナトってそういうとこも良いとこだと思うよ~。カオスをカオスのまま受け入れるっていうか!》
ツバサ:
《サクラ、それは褒めてるのか?》
サクラ:
《うーんとねぇ、私の中では最高級の褒め言葉!》
ミナト:
《ありがとサクラ……なんか泣きそう。いや泣かないけど》
ミコト:
《で、結局のところ、今はどう思ってるの?私たちのこと》
ミナト:
《……正直、どっちもめっちゃ大事なんだよ。ずっと友達でいたし、支えられてきたし。でも、それ以上の気持ちがあるかって言われると、正直に言えば「ある」とも「ない」とも断言できないんだ》
カナデ:
《それって最悪のパターンじゃない?》
ツバサ:
《でも、偽りで「好きだ」って言われるよりは誠実》
ミコト:
《まぁ、ミナトらしい。……でも、私もそろそろ前に進まないと》
サクラ:
《それって、もしかして……》
ミナト:
《ミコト、ごめん。そんなつもりで話したわけじゃ……》
ミコト:
《わかってる。ただ、伝えておこうと思って。ミナトがどっちか選ぶ時が来たら、それが私じゃなくても、もう大丈夫。だから気にしないで、ちゃんと自分の心に従って》
カナデ:
《……かっこよすぎて泣きそうなんだけど》
サクラ:
《ねえ!この空気、なんか映画っぽくない!?ミコト主役の青春映画!!》
ツバサ:
《私も……そういう風に言える日が来るのかな》
ミナト:
《ツバサ……。ツバサも、本当はずっと考えてくれてたよな。僕なんかのために》
ツバサ:
《なんかのためじゃない。『あなた』だから考えたんだよ》
ミナト:
《……ありがとう。ほんとに、ありがとう。なんかさ、こういうのって、答え出すの怖かったんだ。変わるのが怖くて》
ミコト:
《変わらない関係なんてない。むしろ、変わらないでいようとするのが一番不自然》
カナデ:
《まるで哲学者》
サクラ:
《じゃあさ、じゃあさ!私がミナトに告白したらどうなるの!?》
全員:
《!?!?!?》
サクラ:
《あ、うそうそ!言ってみたかっただけ~!てへへ~》
ミナト:
《心臓止まるかと思った……》
ミコト:
《ほんと、サクラは天然で核爆弾》
ツバサ:
《でも、救われたかも。ちょっと緊張が緩んだ》
カナデ:
《やっぱりこの5人って、どうあってもカオスになる運命なんだよ》
ミナト:
《……うん。俺、この5人のこと、めちゃくちゃ好きだ。そういう意味じゃなくて、みんなが大事なんだ》
ミコト:
《知ってる》
ツバサ:
《でも、そこに特別があるかは、これからの話ね》
サクラ:
《ねー、次みんなで会えるのいつー?私は明日でもいい!》
カナデ:
《明日はさすがに無理。私、朝からクライアント先……》
ミナト:
《土曜どう!?家来る?たこ焼き機出す!》
ミコト:
《またカオスの予感》
ツバサ:
《でも、断らないあたり、私たちも結局……好きなんだろうね、この空気》
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深夜0:03。
みんなとのグループチャットが静まって、ミナトはスマホを置いた。
胸の奥が、少しだけ軽くなっていた。
でも同時に、背負ったものも増えた気がする。
でも、それでいい。
「これが、俺なりの“前向きに向き合う”ってことかもな」
夜の静けさに呟いた言葉は、誰にも届かない。
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土曜日 17:42のミナトの部屋。
六畳の部屋に、たこ焼きの香ばしい匂いが広がる中、油が弾ける音と、笑い声が交互に響く。
サクラ:
「ほらほらほら!このたこ焼き、絶対うまい自信あるんだけど!見て見て!まんまる!」
カナデ:
「いや、それ半分ソースの塊なんだけど」
ツバサ:
「それにしても、こうしてみんなで集まるの、久しぶりな気がするね」
ミナト:
「……うん、なんか日常って感じする。安心する」
ミコト:
「まあ、この間のあれを日常って言えるなら、相当な胆力ですね」
ミナト:
「はは、確かに。……でもさ、この間ちゃんと話してよかった。まだ全部答えが出たわけじゃないけど、ちゃんとみんなの想いに向き合いたいって、心から思ってる」
ツバサ:
「うん。私も、言えてよかった。止まってた時計が、やっと少し動き出した気がする」
ミコト:
「……正直、少し寂しくもあるけどね。でも、進まなきゃ」
カナデ:
「なんかさ、みんなめちゃくちゃ成長してない?なにこれ、青春の最終章?」
サクラ:
「えー!やだー!私まだ青春したい!!今から始まるんだよ!いつメンは永遠に不滅です!」
全員:
「……ぷっ(笑)」
笑いの渦が再び広がる。
その中心で、ミナトはふと、みんなの顔を見渡した。
たこ焼きの熱気。笑顔。ちょっとだけ切ない目線。
全部が、全部、愛おしかった。
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今はまだ、特別を選ぶ勇気はない。
でも、ここにあるこの空気を、大切に守りたいと思った。
それが、今のミナトの「前向きに向き合う」のかたちだった。
そして、未来はきっとまた、誰かの心を動かす瞬間に繋がっていくのだろう。