退勤
私は白井音色
2年間、超絶ブラック企業に勤めてきた。
しかし、心身共に不調をきたしたため、退職を決意した。
私は、約1年間の療養期間を経て、ホワイト企業で有名な「真っ白カンパニー」に転職した。
(ふぅ~、もうすぐ17時だ…… 退勤時間になる)
私は以前の職場のことを思い出していた。
……
……
……
『はい、17時なので皆さん、タイムカードを押してください』
課長が言った。
(よし、今日の仕事は終わり……)
私が帰る支度をしていると、先輩社員が声をかけてきた。
『お前、何? 帰るつもり……?』
『え、だって定時になったので……』
『帰れるわけないでしょ!! 今日、やるべき仕事が終わってないのに……。仕事が終わらないのは、あなたの能力が低いから! タダ働きしてでも、やるべきことを今日中に終わらせなさい』
『は、はい……』
(仕方がないのか…… 私、まだ入ったばかりだし…… 1人前になるためには、タダ働きしてでも終らせなきゃね。みんなに迷惑をかけたくないし、『給料泥棒』なんて言われたくないし……)
私は、その後、終電の時間まで仕事をした。
(帰れるだけ、ましか……。何人かは、1週間以上家に帰ってないらしいし……)
……
……
……
(以前の職場は、退勤のタイムカードを押してからが仕事の本番だったなぁ。)
そう思っていると、明日の会議資料の作成が終わってないことに気づいた……。
(あ、ヤバい。数値を打ち込むだけだから、簡単だと思って後回しにしてたんだ。この量だと2時間くらいかかるかな)
17時になり、私は退勤のタイムカードを押した。
私が仕事を続けようとすると、私の教育担当の渡辺さんが声をかけてきた。
「ちょ、ちょっと! 白井さん、何しているの!?」
「すみません。明日の会議資料の作成が終わってないので……。午前9時30分から会議だったので、今日中に終らせたいんです」
「え? どのくらい時間がかかりそうなの?」
渡辺さんが尋ねた。
「2時間くらいです」
私がそう答えると、渡辺さんは険しい顔をした。
(ヤバい……、怒られる。こんな簡単な資料作成も出来ないなんて…… 『駄目なやつだ』って、怒られる……)
渡辺さんは何も言わず、帰り支度をしていた課長の元に走って行った。
そして、課長は慌ててどこかに電話をかけた。
(え? え? 資料が作成出来なかったのが、そんなに駄目だったの?)
渡辺さんが、私の元に戻ってきてこう言った。
「明日の会議、午後に変更してもらったから……、だから、明日の午前中に資料を作成しましょう。今日は、もう帰るわよ」
(え? え? 17時退勤は本当だった…… 都市伝説だと思っていたのに……
ま、まさに、ホワイト!
いやいや、ダメダメ!! 音色、騙されてはダメ。仕事って、そんなに甘いものではない!)
次の日の午前中、私は無事に資料の作成を終えた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
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