初出勤
私は白井音色
2年間、超絶ブラック企業に勤めてきた。
しかし、心身共に不調をきたしたため、退職を決意した。
約1年間の療養期間を経て、私は1件の求人に応募し、「真っ白カンパニー」に採用された。
そして、今日が初出勤の日だった。
雇用契約書には、勤務時間が7時間、午前9時~午後5時となっていた。
(出勤時間が9時だから、8時には会社に着いていなくちゃね……)
「ブラック企業魂」が身に付いていた私は、始業時間の1時間前に出社するのが当たり前だと思っていた。
以前の会社で、始業時間の10分前に出社したことがあった……。そのときは、既に全員が出社していた。
(ほとんどが会社に泊まっていたらしいが……)
『おい、新人のクセに最後に出社するとはいい度胸しているな!』
と、当時の先輩社員に叱られたものだった。
そして、社長は最後に出社。ちゃんと清掃が隅々まで行き届いているかをチェックする。埃でも落ちていようものなら、長い説教が始まり業務を圧迫する。
(あれ? 開いてない……)
私が、会社に着くとエントランスの扉に鍵がかかっていた。
(きっと、皆さん……日々の激務に疲れきっているのね。1時間前には来れないほどに……)
私は、暫く会社の周りを散策することにした。
午前8時15分
(あれ? まだ開かない…… いやいや、音色、騙されては駄目! 私がどこか行っている間に、誰かが来る計画よ。仕方がない……、ここで待っていよう)
午前8時30分
まだ、誰も来ない……
午前8時45分
まだ、誰も来ない……
午前8時50分
やっと、出勤してきた。それは、社長だった。
(え、社長が来たということは、他の人達は既に出社していた…… 1時間前では、遅かったの……? それとも、ここじゃない入り口があった……?)
「あれ? 白井さん、何でこんなところに……?」
社長が強張った表情で私を見た。
(や、ヤバい…… 怒られる……)
「9時出社なのに早いですね。皆さんも、もうすぐ来ると思いますよ」
社長がニッコリ笑いながら言った。
(え? ほ、本当に9時出社なの……?
ま、まさにホワイト!
いやいや、ダメダメ!! 音色、騙されてはダメよ。会社って、そんなに甘いものではない)
「春とは言え、寒かったでしょう。待たせてしまったようで、スミマセン。温かい飲み物でも買って来ましょう」
社長が申し訳なさそうに言い、入り口の鍵を開けてから社内の自動販売機に向かった。
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