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フォニィ 9話


PHONY 南の山の麓の廃墟近くの公園


不良少年たちが後ろからついて来る。

薬物を混ぜた煙草の香がこちらまで届く。

ちょっと怖いな…


気にしない様に歩き続ける。公園の出口から出れば住宅街。

すぐ行ったところ廃墟があるけれど。

後ろからついて来る不良が気になる。


廃墟に向かわずもう少し人気のある住宅地の通りを

歩き続けたほうが安全な気がする。

そっちの咆哮へ進み続けよう。


もう公園の出口から30mほど。公園の外までついて来ないといいけど。

そう思った時。


ーおい、ちょっと話そうぜ。


声をかけられた。ギクッとした。嫌な予感。


振り返るとニヤケ面の少年1人と無表情の少年2人。

そのうちのニヤケ面の方が早足で

近づいて来て首に腕を回し肩を組んで来た。****

身体が硬直する。怖い。


「やめろ!」


身を引きながら相手を腕で押しのけると案外あっさりと相手は下がった。

逃がさない気というよりは必死に捕まえていなくとも捕まえる

自信があるからのように見えた。


夕焼けの公園の出口の近く。戦闘が始まった。


辺りは黄金と茜色が混ざったような色に包まれていて

お互いが逆光の中に存在しているかのように目を眩しさに細めながら

くるくると回るように相手を押しのけては駆け出し

服を掴まれては振りほどき。

捕まえられれば手に噛みついて、殴られて転んでは何度も立ち上がった。


西日で相手の表情も良く見えない中。

ぜぇぜぇと呼吸をしながら夕日を背にした不良を見ると

少年の一人が刃渡り30センチ以上もある

ハンティングナイフを取り出し振り上げて向かって来た。


もう相手の命はフォニィにとってはどうでも良かった。

西日で敵の表情すら何も見えない。

それが威嚇や脅し程度の意図だったとしても。

どうでもいい。


「見えない手」が凶器を握った少年の手首を握る。

()が掴んだ手を引っ張ると少年の身体がぶぅん!

と一回転し地面に叩きつけられた。

ナイフを持った不良の首が直角に折れ動かなくなった。


仲間の一人が動かなくなった仲間を見て立ち尽くした。

何が起きたのかまるで理解が追い付いていないようだった。


ニヤケ面だった奴は必死の表情になっていた。

駆けて来てフォニィに体当たりをした。

服を掴まれながら互いに転がる。


振りほどき、相手の顔面にパンチをお見舞いする。

かなりまともに拳が入った。

シャドウボクシングの成果が少し出たのかも知れなかった。


そのまま逃げだす。

公園から出て住宅地で誰か助けて! 叫ぶ。

何度か叫んだところで。後ろから


ーアイツ殺しやがった! 殺しやがった!


あの二人が追いかけてきていた。

自分が助けを求める声など全く気にしていない。

近くの住宅からも人が出てくる気配は無かった。


夕焼けの赤と金色の光の道を曲がる。

廃墟に向かう。隠れられるかもと思った。

路上を駆けて行き廃墟の中に飛び込んでいく。


タタタと足音が二人分して大して振り切れていなかったのを知る。

廃墟と化したビルは壁事穴が空いている部屋もあり、捨てられた

カップラーメンやゴミがチラホラ。


階段を駆けながら上り下りする音でアイツらが自分を探しているのが分かる。

音を立てないように慎重に移動する。


今は廃ビルの3階。アイツらは2階にいると思うが。

直ぐにこちらに上がってきそうだ。


が、予想に反して一人は既に3階にいた。


見つかった! アイツだ。ニヤケ面だった奴。

鼻が折れ曲がって血が固まっている。


タックルして来て捕まえられ地面に押し倒される。

元ニヤケ面は片手で首を締めながらフォニィの顔を殴る。

取っ組み合いも他の一人より遥かに強い。


自分もいつも鍛錬してたんだ。

こいつは歴戦の不良少年なのかも知れなかった。


フォニィのガードの上からお構いなしに一発殴りつけ、更にもう一発。


いい加減やめろ! こいつ!


自分に馬乗りになっていた少年の頭を「手」

で掴んで後方に引きずり倒す。


倒れた少年に今度は自分が馬乗りになり拳をお見舞いした。

上手く顔面を殴れない! ガードされるし、左手は掴まれ動かせない。

脚で蹴飛ばしてこようとする。


見えない手を右手に加勢させる前に30歳の自分が出て来て

「直ぐに頼るな! 1発だけでも自力で入れろ!」

発破をかけてきた。


うるさい! 反発しながらも一発だけと、自分の拳をお見舞いする。

当たった! もう一発だけ返すぞ!

ニヤケ面の口の下。顎にもろに入った。ひびが入ったかもしれない。


もういい。見えない手を使う。


見えない手は自分の腕よりもずっと強かった。

透明な、しかし確かな力の塊はガードの上から不良の手首事

折ってしまうような重いパンチを喰らわせた。

最初ニヤケ面だった不良の意識が一発でノックアウトされた。


立ち上がり、もう一人をどうするか考え始める。

逃げたほうが良いか。どうするんだよ、もう!

本当に人殺しに成っちゃったじゃないか!

更に賞金でもかけられちゃったら…


急いで廃墟から出ようとする。


カラカラン*******************************************


2階からビンが転がっていくような音が聞こえた。

聞き耳を立てるが自分の呼吸音以外の音は聞こえてこなかった。


廊下を逆方向へ行くともう一つの階段がある。

其方へ移動。静かに、音を立てないように下に降りる。


2階の階段踊り場近くの床に血痕。

血がべったりと残っていて、何かに引きずられたように部屋に続いていた。

靴が片方だけ落ちている。


……何だよ、意表を突こうとしてる?

それとも、さっきの戦闘で大怪我でもしてここで休んでる?


どうしよう。放っておいて逃げるチャンスかも知れない。


しかし、いつの間にか自分の足はその部屋へと向かっていた。

まるで自分以外の何かが自分に乗り移っているようにフラフラと

部屋の中を覗きに行く。


壁に大量の血痕。惨殺された死体が壁際に寄りかかる様にして置かれていた。

どんな殺し方をしたら壁がこんなことになるんだ。



何だよ、これ。

……僕は何もしてないぞ。

僕じゃないぞ。


何か大きな獣にでもやられたのか?


血の跡が新しい。

今さっきやられたのか? 

さっきのビンが転がっていくような音……


ー廃墟の幽霊…

15歳の自分が心の中でつぶやいた気がした。


幽霊? 本当に?

この場から逃げようと部屋の入り口に足を伸ばすと

大きな犬が階段を上っていく所だった。








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