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フォニィ 5話 逃走



顔を見られている? それとも見られていない?


頭の中はそれで一杯で返事はしてられなかった。


ー誰だと言っている!


眩しそうにしながら再度男が声を上げ、ポケットから刃渡りの長いナイフを取り出した時、やはりコイツには掴まってはいけないんだ! と今度はハッキリと認識した。


身を翻し窓から飛び出す。


男が追って来る。


2階から飛び降りて着地する前に空中に浮かぶ手を掴み落下の衝撃をやわらげ、走って路地裏に入る。今度は()に手を引っ張ってもらって建物の屋上にグングンと登っていく。


まるで補助輪付きの自転車の如く自身をアシストしてくれる「見えない手」に感謝しつつ太陽の方角を確認。太陽を背にしながら民家の屋上から男の居場所を探る。


少しでも見られたら… 西日がうまい事逆光になってくれれば…

そんなことばかりで頭が一杯だった。


上から通りをいくつか見ていくと男を見つけた!


あの男が手で陽射しから目を守りつつ

何処かに連絡している。


一体何処に、誰に連絡してるんだ……


僕のことを知ってる? 

僕が暗黒街の、この通りに住む子供の物乞いだと分かってるのか?


恐怖にすくみ上り、血の気が引いていく。

もしも住処を知られていたら…


いやいや! 

ここはクミ爺の路上の目の前で僕の住む路地は直ぐ目と鼻の先なんだぞ!


仮に今知られてなくとも暗黒街の路上生活者だと知られただけでマズイ。必ず見つかるし、殺されてしまうだろう。路上生活者どころかここは市民の命ですら安いのだから。


震えた足取りで散々今までは恐怖の対象であった「見えない手」に手を繋いで手を引いてもらいながら一目散に住処まで駆けていく。と言っても住処としている路上は余りにも近い。


クミ爺のテントの裏のあの建物がある通りから道を2つ隔てただけなのだ。フォニィの住処まで1分もかからない。


ふらつく足は何度も少年を地面と衝突させようとしたがその度に「手」が助けてくれた。


そして建物の屋根の上から住処の路上を見ると近くにあの男!

自分の段ボールとブルシートで出来たテントに近づいていっている!

 

男は手早くテントに近づきガサガサと漁る。


そしてあの読めない本を男が手に取った。

何処か感嘆したような雰囲気。


価値のある本だと思ったのか、単純に気に入ったのか。


僅かに嬉々とした笑みを浮かべ本を脇に抱えた。

アイツ盗む気だ! それは僕の本だぞ!


フォニィはただ指を咥えて見ているしかなかった。

通りかかった通行人が知り合いなのか男に声をかける。

会話が少し聞こえてきた。


ーカーキの… コートを 以外良く、見えなかった…


会話が終わると男たちは何処かへと去った。


恐らくフォニィのコート。インバネスコートだけ見られた。

顔は見られてないと願うしかない。


お気に入りのカーキの外套だった。奇跡的にこの街の路上で守り通せた一張羅。


捨てなければならない。嫌で仕方ないけれど。

唯一身に着けているもので上等なものだったのに!


フォニィは決断する。

インバネスコートを脱いで捨てる場所を探す。


いや、待った。隠し場所でもいい。


隠すのもいいかもしれない。後で取りに来て… そこまで考えたと所で。ダメだと心の中で誰かに言われた。自分自身の声だったかもしれない。


30歳の自分だったかもしれない。どちらでもいい。同意したからだ。


取りに来ちゃいけない。むしろビリビリに破きにいく。手で破ろうとすると中々丈夫だが穴の開いた箇所から少しずつ破けた。見えない手が途中で手伝ってくれると簡単に外套はビリビリの細切れになった。


この怪力…


やっぱり僕の腕よりよっぽど力がある。


改めてその事実に意識を向けるとこの幽霊の手が頼もしく、少年の心に希望の火をともしてくれた。少し力が湧いた気がした。


教会だ、教会へ行こう!


急いで屋根から降り、またショートカットの為に登り寂れた住宅街を進む。たまに行く教会近くの公園へ。公園にはクミ爺と自分の隠した宝がある。


それに教会の神父は知り合いだ。毎週炊き出しを貰いに行くし、相談したら力になってくれるかも!



沈みかけている太陽を再び上った屋根の上から少年は見た。まだ夕方だ。だがもうすぐ陽が沈む。神父は教会にいるだろうか。不安で仕方なかったし、心の中がむず痒くてソワソワしていた。会えなかったらまた明日になってしまう。


フォニィが公園に着いた頃にはもう辺りはかなり薄暗くなっていた。教会を覗くと人の気配は無かった。もう神父はいないだろう。


正直ほっとした。神父さんはいい人だと思うけれど本当に自分の味方をしてくれるかなんて分からないからだ。教会が無人ならば信じて裏切られるかも等と不安がりながら助けを求めに行かなくていい。


フォニィが信頼できる大人は本当に少なかった。


よし、宝の在処へ行こう。


公園の水飲み場の近くに茂みに覆われるようにして天蓋付きのテーブル席がある。


天蓋の横に穴がありそこにカギを隠していた。カギをさっと見えない手に取ってもらい今度は公園の地下を流れている川の一部に繋がっているちょっとした地下通路に繋がっている蓋を取る。


この蓋はかなり重く普通の人間では持ち上げられないがカギがあれば蓋の一部が開けられる。


鍵を使い中に入ったフォニィは横倒しになっている

錆びたドラム缶の中に手を入れた。


ここに財宝がある。

金銀財宝とかではなくてクミ爺と一緒に集めた

普通に持っていたら取り上げられてしまいそうな物の総称だった。


それは…

*柄が綺麗な黒曜石(?)のナイフ:刃も手の付け根から中指の先端くらいまである。

*純金製の装飾品や婦人用の手鏡。

値の張るものだとクミ爺はいってた。


*小型の銃。先端に何かついている。『これは持っていることを知られちゃいけねぇ奴だぞ』

クミ爺談。


*現金 600ダラー



他にも少しあったがこれらは全て持っていく。


アイツは僕のテントを怪しんでた。服装はバレてる。


周辺の住民に聞き取りなどされたら最後。

あの建物に入り込んでいたのが僕なのはすぐにバレてしまう。


もう戻れないし。姿も出来るだけ変えなきゃ。


服を脱いで手鏡を見ながらナイフで髪を短かく剃って坊主にする。


宝の隠し場所から出て、入口の蓋を元に戻す。公園で水を汲んで頭を洗い流す。


もう辺りは暗い。

コソ泥の様に、誰にも見られないように移動し教会のほうを見る。


もう教会は放っておいて暗黒街のずっと反対側の地区へと行ってみようか。

いやそれとも暗黒街からもう切って出てみようかと思い始めていた。


その時だった。うす暗い、街灯もまばらな教会前の道からコソコソと一人の女が出てきた。


反射的に身を隠す。


女の様子を窺がっていると女は教会へと歩いていきドアを開けてそそくさと入っていった。


ドアに鍵がかかっていなかった? ……あの女の人、鍵がかかっているか確かめようとすらしなかった。驚くことも。灯りが付いていない居ないのに? 余りにも不自然すぎた。


鍵が開いていることを知っていたんだ。


何故かは知らないけど。何であんなにコソコソしてるんだろう。気になる。


教会の小部屋の一つに天窓か、違ったとしても高い場所に窓があったはず。


建物を昇って探すと確かに教会の一室を覗ける天窓があった。覗くと給湯室のように使われている部屋の中が見えた。茶色いソファベッドなども置いてある。


フォニィはこの部屋にはあまり入ったことは無い。部屋には誰もいないし。どうにかして中に入ってみたいけれど……


と考えているうちに3人の男女が部屋に入って来た。


さっきの女だ!見た所20代から30代。

男の一人は神父。もう一人は良く知らない男。神父は禿げ上がっており長い髭を蓄えている50代の男で真面目そうな雰囲気の初老の男。


しかし今は少し普段と雰囲気が違う。何だかいじけている様な表情。少し不良のような顔だとも思った。


もう一人はニコニコして気の良さそうな男。痩せ気味でこちらは僅かに神父よりも若い。それでも40歳くらいか。


何処かで見たことがあったのだが思い出せない。


フォニィは息を殺し興味津々で3人を見ていた。


もしかしたら自分と同じようにこの女の人もこっそりと何か相談しに来たのかも。


しかしフォニィの予想は外れ

3人は揃って性行為を始めたのだった。



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