フォニィ 11話 キャンディショップ
キャンディ屋から出てきたのは…
宝石屋の男!
どうする!? 足が震える。
脳裏にあの読めない本が浮かんでくる。
そうだ、あの本!
クミ爺からもらった本を取り返さなきゃ!
尾行していくと男は宝石屋近くのカフェへと入り、
そこでサンドイッチとコーヒーを注文。
テラス席で新聞を読んで過ごし、しばらくすると宝石屋へ入っていった。
ここで張り込んでいてもいいかもしれないけど。
まだ昼にもなっていない。午前10時手前。
交差点を見渡すと
辺りに有害な霧が出始めてきてる…
まだ薄いから大丈夫だけど。
これ以上濃くなるなら皆外には出なくなるだろう。
霧に触れると体中がじりじりとして痛くなる。
中に包まれると精神が死んでしまう霧。
この世界に来る前までは無かったものだ。
直ぐに消えてくれればいいけど。そう思った後。
そうでないなら移動したほうが良いかもしれない。
そう考えなおした。
あいつは今から出勤。
朝の出勤前にあのブリッジ通りのキャンディ屋で一体何をしていた?
脳裏に何か浮かんできた。
心の奥にアクセスする。暗闇の中に30歳の自分がいた。
ポッケにカッコつけるように手を突っ込んで何か言っている。
ー今のうちにキャンディ屋にいけ。
キャンディ屋?
よし。踵を返し、今来た道を戻っていく。
キャンディ屋の前に到着。ここも霧が出てきてる。
額が汗ばんでいた。一度キャップを取って汗を拭う。
電線の上を見てみるとカラスはいない。
キャンディ屋に近づく。
店の窓は熱した油でも吹きかけられたのかというほど曇っているように汚い。
他の窓もレースのカーテンで中が酷く見えにくくなっていた。
チリンチリン
ドアを開け店に入ると、ドアについていた小さなベルが鳴った。
店内には誰も居ない。
陳列棚にはキャンディが並んでいるが、
容器の底の方に多少残っている様な量しか無かったり、
そもそも棚が埃まみれでこんな物に誰が金を払いたいと思うだろう。
というような有様だった。
この店おかしい。こんな店は偶によくあるけれど。
フォニィにはそもそも存在理由すら良く分からなかった。
家業などを名目上続けているだけで、
地主などをやっているのかも知れなかったし。
何かしら税金対策になるのかも知れなかったがそういうものは良く分からない。
兎に角、アイツ。宝石屋の男がここで何をしてたのかが知りたいんだ。
暫く店内を見て回っているとカウンターの奥から店主らしき男が出てきた。
多少が体格のいい小太りの男だった。
目に凡そ生気というものが無い。
ちょっと、目が怖いな。
真っ当な職の人間な気がしない。
何かヤバいオーラと言うか。
この男、殺し屋とかじゃないだろうな。話しかけられた。
ー坊主。買うのか、買わないのか早く決めたらどうだ?
「うん、ちょっと霧が出てきたから、避難ついでに買おうか迷ってる。」
「まだ、そんなに濃くないだろ。買わないなら失せろ。」
適当に返して店を出た。
商売をする気は無さそうだった。
店は閉めないが客は歓迎しないという雰囲気だった。
まだ、時間はたっぷりある。宝石屋のアイツの仕事はいつ終わるだろう。
あそこの宝石店は5時くらい? あってるか分からないけど。
合ってるならまだ5時間以上ある。裏口に回ろう。
裏の通りに行くと坂になっており、表から見ると1階建てのように見える店は
裏から見ると2階建てだった。
そっか、2階建ての建物の2階部分がキャンディ屋なのか。
店内では地下(本当は地下じゃなく1階)へと続く階段はなかった。
てことはカウンターの奥に下に続く階段があるはず。
2階部分はキャンディしかないから、
宝石屋の男が用があるとは思えない。
あの殺し屋のようなオジさんと会話してただけ
なら可笑しくは無いけれど、どうかな。
裏口は塀で見えない、よじ登ってみよう。
何の変哲もない民家のような外観の建物。
入口のドアも普通の一軒家のよう。敷地に車が一台止まっている。
あの殺し屋風店主のだろう。ガレージも母屋の横にあるけど閉まってる。
見えない手でカギを内側から開けてしまえば忍び込めそうだけど。
どうしようかな。ガレージも気になるな。
よし、まずは車庫から見てみるか。
ガレージの横の戸に回ると鍵がかかっていた。
見えない手で内側から開け中に滑りこむように入る。
真っ暗だ…
ドアを開けようとすると予想以上に重い。
何か光を入れるために扉を少し開けながら中を見ようとするが、
扉の戻る力が強くすぐに閉まってしまう。
バネとかなのか、いやドアのネジの問題かもしれない。
取りあえず車が一台と大きな箱が敷き詰められているのは分かったけど……
電気付けても大丈夫かな…
気にしすぎか。さっさと点けよう。
手探りでスイッチを探して壁際のボタンを押す。
ギギギコギゴイギギコ!
途端に大きな音が鳴りだす。
やばい!ヤバい!ヤバい! シャッターが上がり始めた!
直ぐにボタンを押すとまた機械が悲鳴を上げるような音
がしてガレージのシャッターが停止。
シャッターは半開きになっている。
横の母屋からバタバタと音がした。そのあと水の流れる音。
アイツがこっちに向かってるかも。
トイレに入ってた? それでもここまで20秒もかからないだろう。
どうする? 今からもう一回閉めるの?
どっちにしろ怪しまれるに決まってる!
やばい! とその瞬間思った以上の早さで母屋の扉が開く音。
ここの扉まで数mしかない!
咄嗟に車の下に。
車庫の戸がバッと開いて人が入って来る。
靴しか見えないけどアイツだろう。警戒しているのか動きが慎重だ。
カチッと音がして車庫の電気が付いた。
車庫の中をアイツが歩き回る、最初ゆっくりとしていたが
直ぐに普通の速さに変わった。
床に手を突いた後が聞こえて、急いで車の下から出て
奴がいるのとは反対方向へ。
タイヤと車のボディの影に隠れる。
見られてないよね? 大丈夫か?
不安感が増す。【見えない手】でシャッターのボタンを押す。
ギギギコギゴイギギコ
軋む様な大きな音を立てながらシャッターが開きだす。
奴が立ち上がり、何か言った。
焦ってるようだった。直ぐに店主がボタンを押しなおすが、
2秒ほどしてもう一度【手】でボタンを再度押す。
奴は苛立ったように舌打ちをして
プラスチックのカバーを外して電池事取り除いた。
シャッターが止まり、奴は手でシャッターをある程度まで
降ろして母屋の方へ戻っていった。
出ていくときに
電池だけじゃなく新しいものに変えたほうが良いかもしれん…
と呟いていた。




