序章 2 年度変わり
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
東京都郊外にある高嶺市。
3月の最終週。
高嶺市に1つ置かれている警察署では、年度変わりの最終準備が行われていた。
高嶺警察署刑事課強行犯捜査係第1班に所属する重田実巡査長は、書類整理を終えて、昼食休憩をとっていた。
近所のコンビニで、買ったお握り3個と、緑茶のペットボトルを買い物袋から取り出す。
「やあ、重田。今日の昼食は、お握りか?」
「ああ」
重田に声をかけたのは、同僚の菅田篤巡査長だ。
「俺は、パンだ」
そう言いながら、自分と同じコンビニで買ったと思しき、パンを取り出した。
「総務課の先輩に、聞いた話だが・・・よ」
菅田は、いつものように情報を仕入れたらしい。
「来月。うちの署が増員されるらしい」
「へ?」
東京都内の市町村内では比較的に大規模警察署であるが、平凡そのもので凶悪な事件と言えば、軽度の傷害事件ぐらいであり、東京23区内のような、殺人事件や強盗事件とは無縁である。
そのため、毎年、定員が減らされており、大規模警察署でありながら、警察署長は警視が置かれている状況だ。
「まず、警察署長を警視正にするらしい」
「署長が、昇進するのか?」
「いや、署長は副署長になるらしい。署長は警察庁からキャリア組の警視正が、転勤してくるんだってさ」
「お前・・・そんな話がある訳無いだろう。こんなド田舎・・・いや確かに、都心へのアクセスやら住環境は整備されていて便利で発展しているけど・・・23区内に住んでいる連中からは、東京都とは思われていない市だし。将来を約束されたキャリア組が、派遣される訳が無い」
「俺も最初は、そう思った。でもよ、市内にある高嶺学園に、それなりのお嬢さんが、入学するらしい。そのために、うちの署を増員するんだとよ」
「いや、何で?」
確かに、高嶺学園は名門と言われる学校だ。
実際、政治家や経済界の大物と言われる人々の子息や息女も多数在籍しているが、今まで、こんな事があった例が無い。
「で・・・だ。新しく着任する警察署長は、警視正で、とびっきりの美人らしい」
重田は、件の令嬢はどうでもいいらしく、菅田の質問をスルーして、いきなり本題に入った。
「マジ?」
当然、菅田もそれに喰い付く。
「ああ」
「まあ・・・俺たちには、関係ない話だ」
「だな」
キャリア組の美人という事は、『高嶺の花』という事になる。
自分たちのような、高卒の勤務年数10年の下っ端警察官が、相手にされるはずが無い。
「それと、だ。新たに警備課に公安係と外事係が、設置されるぞ」
いきなり話に割って入って来たのは、2人の同僚である水田茂巡査長だった。
「はぁ!?」
重田が、声を上げた。
「こんなド田舎に!?」
「そう」
「何かの間違いだろう?」
「いやいや、その証拠に去年、定年退職した警備課長に変わって、本庁(警視庁)公安部の警部が配置される。さらに、うちの課の課長も念願の転属が叶って、別の所轄署の刑事課長になるだって。そして、穴埋めとして、本庁刑事部捜査1課に所属していた警部が転属して来るんだってさ」
「マジかよ?」
「マジだ」
重田は、緑茶を飲む。
「俺たちの知らないところで、何かとんでもない事が、起きているかも知れん」
「「!?」」
3人が振り返ると、1班長の柴田通泰巡査部長が、腕を組んで立っていた。
警察署内で、何かあると、上層部の陰謀だ、何だと、被害妄想する警察官である。
「部長(巡査部長)。またまた、警察の陰謀説を、語るんですか?」
「陰謀では無い!俺たちの知らない所で、警察の上層部が、何らかの悪事を行おうとしているんだ。それも、俺たちの町で」
「またまた・・・」
菅田が、笑う。
「部長。警察組織は、そんな闇の組織でも無いですよ」
「いやいや、公安係や外事係が新設されるという事は、国際テロリストや国内テロリストと警察が手を組むんだ。そして、日本の邪魔をする者たちを、秘密裏に排除するんだ」
いくらなんでも、妄想が過ぎるとしか言いようがない・・・
自分の世界に入り込んだ上司を後目に、2人は食事を再開し、水田はどこかへ行ってしまった。
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誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は5月11日を予定しています。