表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

序章 1 春雷

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 激しい雨と風、そして夜の闇を切り裂く稲光。


 春の嵐。


 満開の桜並木は、暴風雨に嬲られ悲鳴を上げている。





「はぁはぁ・・・はぁ・・・ひぃ・・・」


 全身濡れ鼠になった1人の少年が、何かから逃げるように走っている。


 何度も何度も足が、もつれて倒れそうになる。


「助けて・・・誰か・・・」


 苦しい息の中、弱々しくつぶやく。


「あっ!?」


 何度も後ろを振り返りながら走っていたせいか、泥濘に足を取られた。


 バシャァ!!!


 水溜まりに、思い切り頭から突っ込んでしまった。


「ひぃ・・・ひぃ・・・ひぃひぃ・・・」


 立ち上がろうとして立ち上がれず、それでも少年は泥濘の中を這いずる。


 パシャ・・・パシャ・・・パシャ・・・


 泥濘の中を歩く、複数の足音。


「ひぃ・・・」


 息を呑む音と同時に、悲鳴のような声が自分の口から漏れた。


 目の前に立っているのは、10人にも満たない数の、自分と大して年齢の変わらない少年少女たちだった。


 ただ、彼らは手にナイフや包丁、金属バットや棒のような物を持ち、全員が能面の様に無表情だった。


 時折走る稲光に照らされて、この世のものとは思えない程、恐ろしい。


「・・・・・・」


 1人が、無表情のまま、金属バットを振り上げる。


 もう駄目だ!


 逃れられない運命を目前に、少年は身体を丸めて目を閉じた。


「・・・・・・」


 何も起こらない。


 無限に続く長い時間が経ったように思われたが、それはほんの数秒だったかも知れない。


 バシャア!!


 何か、重い物が地面に叩き付けられる音がした。


「・・・・・・」


 恐る恐る目を開けると、先ほど自分に金属バットで殴りかかって来た少年が、白目を剝いて倒れていた。


 そして、その側には・・・


 まるで粘土細工のように、グニャグニャに曲がった金属バットが、転がっていた。


「あれれれ~・・・こ~んな時間に学生が~?ダメだよ~不純異性交遊は~・・・桜さんたちが、迷惑しているよぉ~」


 どこか、間の抜けた声。


 身長は、小学生の自分の妹くらいの小柄な人物が、自分の前に立っていた。


「「「・・・・・・」」」


 少年のような、少女のような中性的な人物の言葉にも、少年少女たちは表情を変えず、不気味に沈黙している。


「えっと・・・」


 その人物は、あまりの反応の無さに戸惑っているようだ。


「・・・逃げて・・・」


 掠れた声が、口から出た。


「えっ?」


 その人物が振り返る。


「・・・逃げて。でないと君まで・・・」

 

「・・・・・・」


 どうやら自分の言う言葉の意味が理解出来なかったのか、その人物は完全に自分の方へ向き直り、首を傾げている。


 その背後に、金属バットを手にした別の少年が、忍び寄って来る。


「危ない!」


 バキッ!


 自分が叫んだのと同時に、その人物は背後を振り返りもせず、裏拳を少年に叩き込んでいた。


 バシャア!


 盛大に鼻血を噴き出しながら、少年が水溜まりに倒れ込む。


「話してわかる相手じゃなさそうだし、ここは退散一択かな・・・」


「へっ?」


 何事も無かったかのように、ボソッとつぶやく人物。


 次の瞬間、少年は自分の身体が浮いたように感じた。


「えっ?えっ?えぇ~っ!?」


 自分が、小学生くらいの背丈しかない人物に、肩に担がれた事に気が付いた時、驚きの声が漏れた。


 さらに驚きなのが、その状態で走り出したのだ。


 そして・・・速い。


 自分たちが逃げ出した事で、当然、学生の集団は追い駆けて来たのだが、距離はドンドン開いていく。


 あっという間に、学生たちの姿は見えなくなったのだった。





「もう、いいかな?」


 公園を抜け、ある程度に人通りのある街道を、すれ違う人々の視線を掻い潜りながら、走ったところで、人物は少年を肩から降ろした。


 あり得ないの連続で、逆に混乱していた少年は、降ろされてヘタヘタと地面に崩れた。


「あ・・・ありがとう・・・かな?」


 それでも、恐怖しか無かった現場から避難出来たのには安堵した。


 ホッとした途端に腰が抜けたのだった。


「どういたしまして。えーと、私は桐生明美。君は?」


「・・・え・・・と・・・」


 名乗った相手に、自分も名乗るべきか・・・


 一瞬、逡巡した。





「おい!君たち。こんな時間に何をしている?」


 1台のパトカーが道路脇に停車し、警察官が降車しながら問いかけてきた。


「あ・・・ヤバ」


「見たところ、中高生と小学生じゃないか!こんな所で何をしている?」


 警察官は、桐生と少年を交互に見ながら、さらに質問してくる。


「・・・小学生・・・」


 桐生は、ボソッとつぶやいた。


「・・・・・・」


 桐生の雰囲気が、一変した。


 明らかに、怒ったのがわかる。


 ドカッ!!


「あぁ!!何をする!!?」


 いきなり、パトカーを蹴飛ばした桐生の暴挙に、警察官は声を上げる。


 蹴飛ばした場所は、ベッコリとへこんでいた。


 これで、器物損壊罪と公務執行妨害罪は確定である。


「にっげろー!!!」


「あわっ!!?あわっ!!?あわっ!!?」


 再び、少年は桐生に物のように担がれて、もの凄い勢いで、その場を離れる事になる。


「嘘でしょおぉぉぉぉ!!?」





 高嶺学園入学式の、2日前の出来事である。

 お読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ