悪夢の純情な感情
日曜日。特徴がないということが特徴の小さな地方都市。しかし、その都市には異変が起きていた。人気が異常に少なく、まるで時間が停止したかのようだった。一体何が起きているのだろうか?
「なんですかこれ……ベッドで眠っていたのにどうしてここにいるんですか」
佐伯葵は異様な空間に困惑していた。たしかにベッドに眠っていたのに気づいたらこの世界にいたのだ。悪夢にしては冗談がキツい。葵は訳の分からないままに街を歩き駅前のロータリーのところまでやってきたのだ。
「誰かいますか?」
葵は誰かいないか呼びかける。しかし、誰も答えてくれなかった。
カタッ! 空から何かが落ちてくると音がした。葵は音がした方に向かうと、そこにはラジカセが落ちていた。さっきまでラジカセはなかったはずだ。葵が訝しんでいるとラジカセが動き出した。
「……佐伯会長……聞こえますか? 今、あなたは現実世界と位相の違う世界、星幽界にいます。今、迎えに行きますので待っててください」
葵にメッセージを伝えるとラジオはノイズを撒き散らした。
「星幽界?それにラジオから流れた声、鷹月くんに似ていた」
情報が溢れて葵は混乱した!
とりあえず情報を整理すると葵は星幽界にいるらしい。そこまではわかった。
葵は駅前のベンチに座り迎えが来るのを待つことにした。
すると空が急に曇り空になった! それと同時にロータリーの周辺の景色が砂漠に変わった!
「景色が変化した!」
それと同時に怪しい黒ローブ集団が遠巻きから葵を囲み始めた!
葵は不気味な黒ローブ集団を見て気味が悪いと思った。
「……ククク、星幽界に久しぶりの迷子が現れたと思ったら、小さいガキじゃないか」
「あなた達、一体何者なの!?」
葵は震える声で黒ローブに尋ねた!
「我々の存在を知ったところでどうする……今のお前は無力な迷子に過ぎないんだぞ」
「我々のところに来てもらおうか」
黒ローブは強引に葵の手を引っ張ろうとした!
「嫌!」
危うし!
「佐伯会長の手を離せ!」
その時、鷹月春斗の飛び蹴りが黒ローブを襲い、黒ローブは砂漠に倒れた!
「鷹月くん、本当に迎えに来たんだね」
「佐伯会長……あそこの扉のところまで逃げましょう!」
春斗の指をさす方、砂漠に似つかわしくない扉が立っていた!
葵は春斗の先導の元、扉のところまで必死で走った! それを追いかける黒ローブ!
必死で二人は扉のところまで走った!
「佐伯会長!扉の中に入って扉を閉めるんだ!」
「そうしたら鷹月くんはどうなるの!?」
「俺は大丈夫だから!時間がないから早く」
黒ローブはもうすぐ扉のところまで迫ろうとしていた!
葵は断腸の思いで扉の中に入り扉を閉めた!
扉の中は扉以外は薄暗い膜のような空間だった!そして扉を閉めると同時に空間は縮んでいき……
◆◆◆◆
佐伯葵はベッドの上で目覚めた。
「今のは夢!?」
さっきまで見ていた夢の意味とは何か、鷹月春斗は無事なのか。混乱しながら閉まっていたカーテンを開けた。いつも通りの河越の住宅街が広がっていた。
「……早く学校に行って鷹月くんに会って無事なのかを確認したい」
葵はそう強く思った。