表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

3話 入学前のトラブル

「ここか」


 一週間後。

 準備を終えた俺は魔法学院にやってきた。


 国の南に扇状に伸びている商業区。

 そこをさらに南に進んだところに魔法学院はある。


 城の次に広い敷地を持ち。

 校舎は三階建て。

 実習棟や教員棟など、多くの建物が並び……

 全学生を収容するだけの寮も完備されている。


 別名、アカデミー。

 魔法使いを志す者が憧れる場所だ。


「……誰もいないな?」


 門の前に来たけれど、誰もいない。

 ここで事情を知る者と待ち合わせの予定だったのだけど……


「少し早いのかもしれないな」


 せっかくだから見学してみよう。

 少しくらいなら問題ないだろう。


 好奇心を抑えることができず、俺は門を潜る。

 そのままグラウンドの方に向かう。


「へえ、色々な設備があるな」


 アカデミーの中で学生が暮らしているからなのか、魔力を動力とした明かりがあちらこちらに設置されていた。

 不審者対策なのか、簡易的な結界装置も設置されている。


「ふむ……少し古いタイプのものだな。でも、この型番のヤツは悪くない。多少、性能は劣るが値段は安いからな。ほどほどに使いやすいから、ちょうどいいだろう」


 好奇心の赴くまま、ついつい調べていると、


「やめてください!」


 ふと、鋭い声が聞こえてきた。


 グラウンドからだ。

 トラブルか?


 ヒマなので様子を見に行く。


「あなたは今、なにをしようとしているのか理解しているのですか!?」

「もちろん。貴族としての務めを果たそうとしている……それだけのことですが、なにか?」


 グラウンドの中央で二人の生徒が対峙してて……

 その近くに女子生徒。

 そして、彼らを遠巻きに眺めている生徒達。


 彼らが生徒であることは、皆、同じ服を着ていることからわかる。

 マントとリボンが特徴的な服で、色が分かれている。

 たぶん、学年で違うのだろう。


 その中で一際目立つ少女がいた。


 銀色の髪は腰に届くほど長い。

 シルクのようにサラサラで、そよ風を受けて静かに揺れていた。


 女性にしては背が高い方だろうか?

 スタイルも良く、背の高さもあって人目を引くだろう。


 顔は綺麗に整っていて、異性を魅了するだろうが……

 それよりも目を引くのは、彼女の瞳だ。

 宝石のように輝いていて、それでいて、強い意思を感じさせる。


「そう、これは貴族としての務めなのですよ。平民を教育する、というね」


 対する男子は、美形と言えば美形だ。

 二枚目といって問題ない。


 ただ、表情は醜悪なもので、黒い感情が隠されることなく表に出ている。


「理不尽な要求を突きつけて、従わなければ暴力をふるうことが教育だと?」

「ええ、その通りですよ」

「ふざけないでください! そのようなこと、絶対に認められません!」

「認められなければ、どうするのですか? 学年主席である僕に逆らうとでも? あなたがどのような方であれ、アカデミーでは実力が全てだ。おとなしく言うことを聞かせられるとは思わないことですね」

「くっ……」


 貴族が平民をいじめる。

 よくある話だ。


 彼らは民を導いて、模範とならなければいけないのだけど……

 その本分を忘れたものは多く、好き勝手に振る舞う者ばかりだ。


 とはいえ、言ってしまえば、これはただの生徒同士のケンカ。

 殺し合いに発展することはまずないだろうから、放っておいていい。


 本来なら、わざわざ介入することはないのだけど……


「ちょっと待った」


 貴族らしき男子と対峙しているのが、第三王女のネコネだというのなら話は別だ。


「なんだい、君は?」

「あなたは……?」


 男子はうさんくさそうなものを見る目をこちらに向けて。

 ネコネは、俺の意図を察した様子で、驚いた顔をする。


「事情は軽くしか知らないが、その辺にしておいたらどうだ? あまり騒ぎになると、教師がやってきたりして面倒なことになるだろう?」

「はははっ、どこの誰か知らないが、勉強は真面目にした方がいい。アカデミーでは決闘が許可されている。一度成立したら、教師であろうと止めることはできない。これ以上、そちらの世間知らずの王女様が己の非を認めないのなら、僕は決闘で全てを決めるつもりなのだよ」

「なるほど」


 そんなルールがあったのか。

 教えてくれてありがとう。


「なら、俺はあんたに決闘を挑もう」

「……なんだって?」

「俺と戦え。そして、この場から手を引け」

「……まるで、君が勝つことが決定しているような言い方だね」


 男子は不快そうに眉をしかめてみせた。


「見知らぬ者の決闘を受ける意味も義務もないが……いいだろう、おもしろい。平民の代わりに君を教育してやろう」

「ま、待ってください! そのような勝手なことは……」

「彼が決闘を挑み、僕はそれを受けた。もう決闘は成立したのですよ? 例え王女であろうと、それを止めることはできない」

「くっ……」


 ネコネは悔しそうな顔に。


「では」


 男子は親指くらいの宝石を取り出して、それを地面に放る。

 すると淡い光が放たれて、半径十メートルほどの円ができた。

 様子を見ていた生徒達は、慌てた様子で円の外に出る。


「これは?」

「おいおい、そんなことも知らないのかい? 決闘用のフィールドだよ。周囲に被害が出ないように、魔力を完全に遮断することができるのさ」

「なるほど」


 とても興味深い。


 魔力を完全に遮断というのは、かなりの高機能だ。

 そんなものをずっと、というのは難しいから、時間が決まっているのだろうか?

 決闘のために、全生徒にこういったものが支給されているのだろうか?


 調べることがたくさんだ。

 それだけでも、ここに来た甲斐がある。


「あの……!」


 ネコネは円の外に出る前に、俺に声をかけてきた。


「どうか無理はしないでください。あなたの健闘を祈ります」

「ありがとう」


 律儀な人だ。

 彼女からしてみれば、俺は勝手に決闘を挑んだ見知らぬ人。

 無視してもいいのに、そうしないで無事を祈るとは……


 なるほど。

 少しだけだけど、彼女に対しても興味が湧いてきた。


「僕の名前は、ドグ・マクレーン。マクレーン伯爵家の長男であり、いずれ、全てを手にする男だ」


 名乗りをあげるのだけど……

 全てを、とは大きく出たものだ。


 俺も似たようなことをした方がいいのだろうか?


 ……いや、やめておこう。

 正体は秘密だ。

 無茶はしない方がいい。


「ジーク・スノーフィールド。ただの平民だ」

「やはり、君も平民か。そうだと思ったよ。礼儀がなっていないし、品がない。それに平民臭いからね」

「うん? 平民は臭いのか? どういう匂いがするんだ?」

「それは……平民らしい臭いさ」

「そうか、勉強になった」

「……その態度、僕をバカにしているのか?」


 なぜかドグが怒る。

 俺はなにもしていないはずなのに……なぜだ?


「さあ、来い。僕が教育してやろう!」


 そして、決闘が始まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ