29話 切り札
ゴッ……ガァアアアアアッ!!!
爆炎が部屋にあふれて……
一気に外に噴出して、屋根が吹き飛んだ。
爆弾がまとめて十数個、炸裂したような感じだ。
ネコネとアリンは魔法で保護しているので問題ない。
俺は、きちんと自分を範囲外に指定しておいたから大丈夫だ。
ただ、他の者は……
「がっ……」
「あ、う……」
「な、なにが……」
皆、倒れて痙攣していた。
最大限威力を絞ったものの、それでも火属性魔法の上級は厳しいだろう。
殲滅完了だ。
「しかし、手加減するのは面倒だな……」
突入前、リーゼロッテになるべく死者は出すなと口うるさく言われたため、手加減はしているのだが……
やっぱりスッキリしないな。
全力で放ってこその魔法だ。
「大丈夫か?」
「は、はい……なんとか」
「それにしても、こ、この威力……ど、どういうこと?」
ネコネとアリンに手を貸して立ち上がらせる。
二人は呆然とした様子で、半壊した屋敷を見回していた。
「前もバハムート召喚してたし……あんた、何者よ?」
アリンがじっとこちらを見る。
さすがにやりすぎたか?
任務のことは秘密なのだけど……
ただ、そこに気づいた様子はないか。
俺の力の源を疑問に思っている様子だ。
それなら、まあ、なんとかごまかせるだろう。
「俺は……」
「ぐっ……こ、この愚物が、よくもやってくれたなぁあああ……」
怨嗟の声が響く。
振り返ると、ボロボロになりつつも立ち上がるゴーケンの姿が。
他の連中は軒並み昏倒しているが、彼は気合で耐え抜いたらしい。
やるな。
素直に感心してしまう。
ただ、よくも俺の魔法を耐えやがったな? というイライラもある。
複雑だ。
「大貴族である私に、よくもこのような暴挙を……! 貴様は許さん、絶対に許さんぞ!!!」
「知るか。なんでもかんでも自由にやれると思うな」
貴族だろうとなんだろうと、それを気にしない相手に権力は通用しない。
そのことをきちんと理解して、その上で、改めてケンカを売ってこい。
「この私を怒らせたこと、死んでも尚、後悔し続けるがいい!!!」
怒りで血管が切れそうな勢いで叫び、ゴーケンは机に設置されていた隠しスイッチを押した。
ガコン、と屋敷の遠くで妙な音が響く。
それはほどなくして爆音に変わり、壁を砕く音と共にこちらに近づいてきた。
「ガァアアアアアッ!!!」
壁をぶち破り現れたのはゴーレムだ。
ゴーレムというのは、魔力を糧に動く兵器のことだ。
人型をしているものの、その大きさ、力は人の数倍。
平時は力仕事をさせられているが、戦時中は攻城兵器として使われることも多い。
その力は一騎当千。
敵として現れた場合、討伐するのに熟練の騎士30人は必要と言われている。
「これが……切り札?」
「はははははっ、見たか! これが私の力だ、これが貴族としての証だ! ひれ伏せ、平民。新しい王である私に対して頭が高いぞ!!!」
「……はぁあああ」
思わず深いため息が出てしまう。
「あれだけ自信たっぷりにしているから、どんなものが出てくるかと思いきや……ただのゴーレムか。警戒して損した」
「な、なんだと……?」
「来い。すぐに終わらせてやる」
「この……ガキがぁあああああっ!!!」
ゴーケンは顔を真っ赤にして、ゴーレムに俺を殺せ、という命令を出した。
ゴーレムの目が光る。
命令に忠実に従い、そして実行するために巨体を動かした。
屋敷全体を震わせるかのように大きな足を動かす。
巨体に似合わない速度で、たぶん、馬よりも速いだろう。
城の門を突き破る攻撃力。
全身が鋼鉄と同じくらい堅い防御力。
そして馬よりも速い機動力。
その三つを兼ね備えているのがゴーレムだ。
「危ない! 逃げてください、スノーフィールド君!? 私達のことはいいから!!!」
「ゴーレムに立ち向かうなんて無理よ!? そんなこと、上位の騎士でさえできるかどうか……」
真正面からぶつかるのは愚策の中の愚策。
距離を取り、遠距離攻撃をひたすらに叩き込む。
ゴーレムの装甲も無敵というわけじゃない。
何度も攻撃を繰り返せばいずれ破綻する。
その時を待ち、耐え忍ぶのが定石なのだけど……
「はははははっ! もう遅い、遅いわ! 虫のように潰され、己の愚かな選択をあの世で後悔し続けるが……は?」
ガシィッ!!!
俺がゴーレムの拳を素手で受け止めたことで、ゴーケンの高笑いが止まった。
時が止まったかのように、大口を開けたまま言葉を失っている。
「す、すごいです……」
「嘘……そんな、まさか……」
ネコネとアリンも呆然としていた。
そんな中、俺は不敵に笑う。
「で?」
「……な、なに?」
「これで終わりか?」
「こ、このっ……ガキがぁあああああっ!!! ゴーレム! 魔導砲を撃てぇ!!!」
ゴーレムの頭部が変形して、中から砲身が出てきた。
蓄積されている魔力を全て放つという、ゴーレムの最大最後の武装だ。
ネコネとアリンが顔色を変える。
「な、なにを考えているのですか!? このようなところで魔導砲なんてものを使えば、どれだけの被害が出るか……!」
「ちょっと、あんた! 終わるなら勝手に一人で終わりなさい、周囲を巻き込むな!!!」
本気で慌てて、本気で怒っているところを見ると、二人は民想いの優しい王女なのだろう。
だから俺は、そんな二人のために力を貸すことにした。
逃げることなく、逆に立ち向かう。
ゴーレムの懐に潜り込み、その分厚い装甲に手の平を当てて、
「プラズマフレア」
ゼロ距離で上級雷魔法を撃つ。
紫電が竜のように暴れ狂い、ゴーレムに絡みついて、その機巧を徹底的に破壊する。
ゴーレムの内部構造は雷撃に弱い。
いくら頑丈といっても、ゼロ距離で上級雷魔法を撃たれたら終わりだ。
ゴーレムは原型を留めたまま……
しかし、内部はズタボロに破壊されて、活動を停止する。
「ば、バカな……装甲を貫くためにゼロ距離で魔法を……? そんなバカな発想、普通、思いつくわけが……それに、ゼロ距離とはいえ一撃でゴーレムを……ありえないありえないありえない……!!!」
ゴーゲンは現実を受け入れられない様子でその場にへたりこみ、ぶつぶつとつぶやいていた。
ヤツはもう終わりだな。
今の姿を見ていると、そう断言することができた。
「ネコネ、アリン」
二人のところに歩み寄り、それぞれに手を差し出す。
「おまたせ。大丈夫か?」




