28話 そんなこと知るか
「なっ、お、お前は……!?」
「どうして、こんなところに……!?」
俺の姿を見て、ドグとフリスが動揺をあらわにした。
一方で、ネコネは安堵した表情を浮かべている。
「ありがとうございます、スノーフィールド君」
「まだ礼を言うには早いだろう」
「???」
アリンは、訳がわからないという様子で不思議そうにしていた。
ただ、説明は後だ。
「貴様! 何者ぐはぁ!?」
アーニとかいう貴族だったか?
そいつが騒いだので、うるさいので無詠唱魔法で黙らせた。
続けて、ゴーケンにも炎弾を叩き込むのだけど……
「へぇ」
パァンッ! と弾けるような音と共に、炎弾が消えてしまう。
今、なにをした?
あらかじめ防御魔法を展開していたのか。
それとも魔道具か。
どちらにしても、俺の知らない技術だ。
興味深い。
「なるほど。先程からやけに騒がしいと思っていましたが、君の仕業ですか。君は?」
「レガリアさんの……えっと、ネコネさんのクラスメイトだ」
ネコネもアリンもどちらもレガリアなので、今回は名前で呼ぶことにした。
「ふむ、クラスメイト? そのような者が、なぜここに?」
「友達がピンチなんだ。見過ごせないだろう?」
「なるほど。正義の味方に憧れる愚者、というわけですか」
ゴーケンはにこりと笑い……
パチンと指を鳴らす。
隣の部屋から大量の兵士がやってきた。
あっという間に俺を包囲する。
ネコネとアリンを捕らえているから、これくらいの用意はしているか。
まあ、大したことはないだろう。
いずれも平凡なレベルで、大したプレッシャーを感じない。
「君はなかなかの力を持っているようですが、これならどうですか?」
「どうもこうも、なにも障害にはなっていない。邪魔者は蹴散らす。それだけだ」
「ふむ……ハッタリというわけではなさそうですね。それなりの力を持っていて、自信があるというわけですか」
ゴーケンは余裕を失わない。
彼にとって、この程度、ピンチでもなんでもないのだろう。
実際、対峙しているのは学生だからな。
なかなか脅威に思うことはできないだろう。
「さて……君がどこの誰か詳しくは知らないが、私を敵に回してタダで済むと思っているのかね?」
「と、いうと?」
「なるほど、確かに君は強い。ここまで一人で辿り着くだけのことはある。しかし、君は本当の強さを知らない」
「へぇ」
問答無用で叩き潰してもいいのだけど、ゴーケンの言う本当の強さに興味を覚えた。
素直に話を聞くことにする。
「強い魔法を使うことができる……それは素晴らしいことだ。しかし、個人の力では限界がある。全てに手が届くことはない。だが、それを可能とする力がある……それこそが権力だ」
「権力?」
「そう、権力だ。君のような平民では成し遂げることができないことも、私のような貴族ならば成し遂げることができる。単純な力の問題ではないのだ。さらにその上の段階の話をしているのだよ」
「ふむ」
「そう、君は無力だ。平民である君にはなにもできない。例えば、私が一つサインをするだけで、君はこの国で生活することはできなくなる」
事実、その通りだろう。
ゴーケンほどの立場にいる者ならば、無茶を成し遂げることができる。
「牢に放り込むことも簡単だ。生きるために必要な権利を剥奪してもいい。奴隷に堕とすこともできる……なんでも可能なのですよ」
「それで?」
「ここまで言えばわかるだろう? どうやら王女達を助けに来たようだけど、バカな真似はやめておくことだ。社会的に死にたくないだろう?」
ゴーケンはニヤリと笑い、そう忠告をしてきた。
確かに、ヤツの言う通りだ。
権力というものは圧倒的な力を持つ。
下手に逆らえば、そこで人生終了。
死ぬよりも厳しい状況に追い込まれるだろう。
ただ……
「そんなこと知るか」
「……なんだと?」
ヤツは一つ、大きな勘違いをしている。
「あんたの持つ力は理解した、というか、最初から理解しているよ。貴族にケンカを売る。それは、国にケンカを売るようなものだ」
「理解しているのなら、バカな真似はやめたまえ。社会的に死にたくないだろう?」
「だから、そんなこと知るか」
「……なんだって?」
「確かに、俺は人間社会の中で生きている。その枠組の中にいる。ただ、この国に属した覚えはない。俺に命令できるのは俺だけだ」
「やれやれ、なにも理解していないな。それはつまり、この国を敵に回すということだ。そんなことをして勝てるとでも?」
「勝てるさ」
即答。
そして、迷いなく言い放つ。
「この国の全てを相手にしても、俺が勝つ」
「なっ……」
「あと、貴族だろうが権力だろうが、そんなこと知らん。権力があるから従え? バカ言うな。そんなめんどくさいこと、するわけないだろう。俺は、俺のやりたいようにやる。それを邪魔するなら、みんな敵だ。そして……敵は叩き潰す」
権力の力は大きい。
絶大と言ってもいい。
その国に生きる者にとって、決して逆らうことはできない。
ただ、俺はこの国なんてどうでもいい。
いつでも出ていっていいし、なんなら敵対してもいい。
そして、叩き潰す覚悟がある。
それを成し遂げる自信がある。
そんな俺にとって、ゴーケンの持つ権力はまるで意味がない。
立っている舞台が違うのだ。
「貴様、本当にこの国を敵に回すつもりか……正気か!?」
「だから、そんなこと知るか。俺がやるべきことは、ネコネとアリンを助けることだ」
二人を見る。
ネコネとアリンはぽかんとした様子で……でも、どこか嬉しそうにしていた。
「そんなわけで、俺に倒されてくれ」
「正気か!? この私を敵に回すということは、この国の貴族の大半を敵に回すということだぞ!? この国で生きていくことなど不可能に……」
「だから、どうでもいいんだよ」
そんなことよりも、ネコネとアリンだ。
「そんなわけで……エアリアルシールド」
ネコネとアリンを魔力の盾で包み込む。
それから、魔法をもう一つ。
「インフェルノ」
 




