27話 おまたせ
「「「うぉおおおおお!!!」」」
複数の兵士が多方向から同時に突撃してきた。
見事な連携だ。
彼らの練度が高いことを表している。
ただ……
「なっ!? 剣が弾かれた、だと!?」
「防御魔法? いや、コイツは魔法を唱えていないはず!」
「待て! 防御だけじゃない、これは……がっ!?」
自動で防御魔法を展開。
さらに、こちらも自動で反撃を行う。
自動で展開される攻防一体の結界。
『ガーディアン』。
俺が開発した、オリジナルの魔法だ。
俺は敵の中を突き進むだけ。
それだけで、大抵の相手はガーディアンの反撃を食らい、自滅してくれる。
「少しはやるようだな」
奥から巨漢の兵士が現れた。
巨人が使うような戦斧を片手で担いでいる。
驚くべき膂力の持ち主だ。
名前のある戦士なのだろう。
ただ……
「俺の名前は、ガロウ。人呼んで鮮血の……」
「ライトニングバレット」
「ぎゃあっ!?」
俺の魔法を受けて、戦士は屋敷の外にまで吹き飛んでいった。
「隊長!?」
「貴様、卑怯だぞ! 名乗りをあげている最中に攻撃をするなんて、騎士道精神に反する!!!」
「騎士道精神?」
はっ、と俺は鼻で笑い飛ばす。
「バカを言うな。女の子を誘拐するような連中が、騎士道精神を持っているわけがないだろう? お前達は、ただの賊だよ」
「うっ……」
「卑怯者連中と、誇りなどを賭けて戦うつもりなんてない。無駄だ。俺がやるべきことは、邪魔な敵を可能な限り速やかに排除する……それだけだよ」
冷たく言い放ち、次いで、広範囲魔法を唱えた。
俺を中心に、円形に爆発が広がる。
炎が竜のごとく荒れ狂い、全てを飲み込む。
兵士達は避けることはできない。
逃げることもできない。
彼らは、全て俺の魔法に飲み込まれた。
後に残るのは、動けず、昏倒した兵士達だ。
一応、手加減はしたので死んでいる者はいない。
ただ、治癒院送りは確実。
後遺症が残る者もいるかもしれない。
「まあ、自業自得だな」
命令されただけ、なんて思うヤツもいるかもしれないが……
そんなこと知らん。
命令されたから。
逆らえないから。
だから、誰かに刃を向けてもいい。
そんな理屈、通るわけがない。
いちいち兵士の事情を酌んでやる義理も義務もない。
敵として立ちはだかるのなら、容赦なく蹴散らすだけだ。
「さて……俺の邪魔をするというのなら、覚悟してもらうぞ?」
――――――――――
広い執務室にネコネとアリンはいた。
特に拘束されているわけではなくて、その身を縛るものはない。
ただ、部屋の入口には屈強な兵士が二人。
さらに、窓側にも二人。
彼らを欺くことは難しく、軟禁状態だ。
二人が座るソファーの対面に、ドグとフリス。
そして、彼らの親であるゴーケンとアーニがいた。
「お会いできて光栄です、ネコネ王女、アリン王女」
ゴーケン・マクレーンは丁寧に頭を下げた。
そんな彼をネコネとアリンは睨みつける。
「ちょっとあんた! あたし達にこんなことをして、タダで済むと思っているの!? あんたの首だけじゃ済まさないわ! 一族郎党……」
「アリン」
「姉さん?」
ネコネは鋭い表情を崩さないものの、噛みつくような勢いで喋るアリンを手で制した。
そのまま、妹の代わりに静かに、しかし鋭く問いかける。
「あなた達の目的はなんですか?」
「なんだと思いますか?」
「王位簒奪」
ネコネは即答した。
「ほう……その根拠は?」
「あなたは、以前から現体制に不満を持っていたでしょう? 父の政策に異を唱えて、ぶつかることが多い。それだけならいいのですが……その不満を周囲に語り、扇動して、賛同者を増やしていた」
「ふむ」
「目立ちすぎていましたからね。少し調べていました」
「なるほど、なるほど。さすがネコネ王女、その聡明さは私も見習いたいところですな」
「どうも」
ネコネは無愛想に答えつつ、さりげなくアリンを背中にかばう。
自分達は人質だ。
娘を溺愛する王ならば、ある程度の要求には屈してしまうだろうが……
玉座を渡せと言われたら、迷うことなく断るだろう。
娘を溺愛する父だとしても、それ以前に、彼は王なのだ。
そうなった時、二人に人質としての価値はなくなる。
せめて妹だけでも。
ネコネは頭をフル回転させて、いざという時、妹を守る方法を考えた。
そして、答えを導き出して実行に移す。
「ファイア!」
「なっ……!?」
まさか、あの無能王女が魔法を?
その驚きが動きを鈍らせて、ゴーケンとアーニは棒立ちになってしまう。
やった。
ネコネは笑みを浮かべるが……それはすぐに消えてしまう。
「あ」
彼らの部下が前に出て魔法を防いだ。
不意をついたものの、ネコネの魔法は拙い。
簡単に防がれてしまう。
「まったく、驚かせて……」
「な、なら……ライト!」
光が放たれる。
ただ、それだけ。
「なんの真似だ?」
「……」
ネコネは答えない。
でも、これでいいはずだ。
これが合図となるはずだ。
不安は感じていなかった。
心配もしていない。
なぜなら……
ゴガァッ!!!
突然、部屋の壁が吹き飛んだ。
それに巻き込まれた兵士が数名、吹き飛ぶ。
煙の中から姿を見せたのは……
「おまたせ」
ジーク・スノーフィールドだった。




