26話 突撃
のんびりと。
ふらり、散歩をするような感じで。
俺は、ホールドハイム家の屋敷に真正面から向かう。
「なんだ、お前は?」
「ここは、ホールドハイム様のお屋敷だ。用がないのなら立ち去れ」
門番が二人。
他に警備の者は見当たらないが……
まあ、これから一騒動起きるからな。
蜂の巣を突いたように、わらわらと兵士が出てくるだろう。
三十……いや、百くらいと多めに予想しておくか。
「用ならある」
「なに? このような時間に約束をしている者なんて……いたか?」
「いや、聞いていないが……」
門番は丁寧に来客帳を確認していた。
良いヤツなのかもしれないが……ふむ?
「ここにいる友達を迎えに来たんだ」
「友達? ドグ様のことか?」
「いいや……第三王女ネコネ・レガリアと第四王女アリン・レガリアだ」
「「っ!?」」
二人の名前を出すと、門番は露骨に顔色を変えた。
なるほど。
今回の事件、ある程度は知っているようだな。
その上で力を貸しているというのなら……敵だ。
「悪いな」
魔力を練り上げる。
「あんたらがなにも知らず、ただ命令に従っているだけ、っていうなら優しくしてやったんだが……」
構造式を作り上げる。
「知った上で命令に従っている、っていうのなら容赦はしない。殺しはしないが、治癒院送りは諦めてくれ」
「な、なにを……!?」
「こいつ……! 敵襲っ、敵襲だ!!!」
門番達は慌てて槍を構えた。
即座に俺を敵と判断する思考は、なかなか。褒めてもいい。
しかし、あまりにも遅い。
「ブルーテンペスト」
氷の嵐が吹き荒れた。
風が敵を吹き飛ばして。
氷が門を破壊する。
巨大な岩でも落ちてきたかのように門は潰れた。
屋敷への道が開かれる。
「な、なんだこの惨状は……!?」
「あいつの仕業か!? いったい、何者なんだ……」
「いいから、やるぞ! 今、絶対に侵入者を許すわけにはいかない!」
予想通り、屋敷から大量の兵士が出てきた。
百か、それ以上。
よくもまあ、これだけの兵士を集めたものだ、と感心してしまう。
ホールドハイム家とマクレーン家。
なかなかの力を持っているようだ。
だからこそ、ネコネやアリンを誘拐するという暴挙に出たのだろう。
「……」
なんだろうな?
なんか、こう……
イラッとした。
両貴族がなにを企み、どのような最終地点を設定しているのか、それはわからない。
でも、つまらないことに違いない。
それにネコネ達を巻き込んで……
そのことが、なんだか、どうしようもなくイラッとした。
「悪いな」
再び魔力を練り上げつつ、俺はニヤリと笑う。
「今日の俺は不機嫌だ」
――――――――――
屋敷から少し離れたところにある丘の上に、リーゼロッテの姿があった。
屋敷を見下ろすことができるのだけど……
ゴォッ!
ドガァッ!!!
ガガガガガッ!!!!!
轟音、爆音、激音が連続で響いていた。
その度に、おもちゃのように兵士が吹き飛んで、悲鳴を撒き散らしていく。
「やれやれ、派手にやりおって」
ジークの考えた作戦はとても単純なもの。
真正面から乗り込み、敵を撃破しつつ、ネコネとアリンを救出する。
作戦とは呼べないような、あまりにも単純明快な内容だ。
ただ、実はわりと有効だ。
敵に時間を与えてしまうと、謀反の計画を進められてしまう。
どのようなものか不明ではあるが、下手をしたら大きなダメージを受けてしまう。
ならば、速攻で叩くしかない。
ネコネとアリンが人質となっている中、突撃なんて考えて、普通は出て来ないが……
ジークは別だった。
二人は人質ではあるものの、ギリギリまで手を出されることはないだろう。
人質は無事だから機能するのであって、命を失えば意味がない。
そんな当たり前のことをわからないほどバカではないだろう。
それに、もしも手を出してしまえば国が全力で叩き潰す。
謀反が成功する前に、そんな危ない橋を渡ることはできない。
唯一の問題は、ギリギリまで追いつめられた時、なりふり構わなくなった黒幕がネコネやアリンを人質として利用して、害をなそうとするかもしれないが……
「まあ、そんな状況を作り出すとしたら、ジーク以外にはおらぬな。あやつがその場にいれば、なんとかするじゃろう」
なんといっても、ジークは王国の切り札なのだから。
「さて。妾は、妾の仕事をするか」
リーゼロッテは魔力を練り上げて、魔法を解き放つ。
「アイシクルプリズン」
大地が隆起して、その下から巨大な氷が現れた。
それは屋敷を円形に囲み、高く強靭な壁を生成する。
対象を氷の結界で閉じ込める魔法だ。
主に巨大な魔物を相手に使う。
「これで、誰も逃げることはできん」
ニヤリ、とリーゼロッテは笑う。
彼女の役目は、屋敷から一人も敵を逃がさないこと。
敵は自分がなんとかするから、それを徹底してほしいとジークに頼まれたのだ。
「さて……事件が片付くまで、妾はのんびりと酒でも飲むか」
どこからともなく酒とグラスを取り出して、リーゼロッテは笑う。
「あやつは自覚していなかったが……怒るジーク・スノーフィールドを初めて見たな。ふふ、お主らバカ貴族の敗因は、あやつを怒らせたことじゃ」
 




