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24話 餌

「レガリアさん……?」


 表情には出さないようにしたが、けっこう驚いてしまう。

 まさか、扉の向こうで盗み聞きをされていたとは……


 俺の任務のことなど、肝心なことは喋っていないから問題はないと思うが……さて、どうなる?


「その……盗み聞きをしてごめんなさい。でも、どうしても気になってしまって……アリンが誘拐されたというのは、本当なんですか?」

「……そうじゃな。その可能性が高いと思っている」


 ここで否定しても意味ないと判断したのか、リーゼロッテは素直に認めた。


「なら、私も捜索に……」

「ダメじゃ。自分の立場を忘れたのか? お主は、第三王女……第四王女と同様に狙われる可能性がある」

「……っ……」


 圧倒的な正論に、ネコネは返す言葉もないようだ。

 それでも妹のことを諦められない様子で、とても複雑な表情をしている。


 その顔を見ていると、なんだか俺も落ち着かなくて……


「……一つ、案がある」


 気がつけば、そんなことを口にしていた。


「案じゃと?」

「敵は、王女の誘拐という凶行に出た。そんなことをすれば死罪は免れない。それでも狙ったということは、それなりの理由があるはずだ」

「そうじゃな」

「ま、その理由はわからないが……あえて王女を狙ったのなら、そこに意味と理由があるはず。そして、人質の数は多い方がいいだろう」

「お主、まさか……」


 俺の考えを察した様子で、リーゼロッテが目を大きくして驚いた。


 そんな彼女はスルーしつつ、ネコネを見る。


「今、敵の情報はないに等しいが……それなら、誘い出すしかない。レガリアさんを餌に敵を釣り上げる、っていう策を考えたが、どうする?」

「私が……」


 それに、敵は王女に人質としての価値を求めているはず。

 そうそう簡単に手を出すことはないだろう。


 護衛対象を餌にするとか、無茶苦茶もいいところだが……

 ただ、目を離して、見えないところで暴走されるよりはマシだ。


「お主……!」


 抗議の声をあげるリーゼロッテを無視して、問いかける。


「どうする、レガリアさん。もちろん、危険は大きい。犯人の目的は不明だから、酷い目に遭うかもしれない。というか、遭う可能性が高い。それでも……」

「やらせてください」


 即決即断だった。

 それ以外の選択肢はありえないと言うかのように、俺の言葉を遮り、答えてみせる。


 強いな。

 この強さがあれば、たぶん、大丈夫だろう。


「よし、決まりだ」

「がんばります!」

「って、お主ら勝手に話をまとめるでない!? 妾は反対じゃぞ!? 妾の管轄内で二人も王女が誘拐されるなんて、大失態ではないか! 厳罰ものじゃぞ!?」

「レガリアさん。あとで、二つの魔法を教える。それを、なんとしても昼までにマスターしてくれ」

「わかりました」

「って、妾の話をきけええええええぇっ!!!?」




――――――――――




 どのみち、アリンはすでに誘拐されているから、それは大きな失態となる。

 ならば、ネコネを利用してでもアリンを救出して、犯人を突き止めて、その企みを潰せばいい。

 そうすれば名誉を取り戻すだけではなくて、お釣りもくるだろう……と、リーゼロッテを説得した。


 その後……


「はぁっ、はぁっ……ど、どうでしょうか?」

「ああ、バッチリだ」


 時刻は昼。

 ネコネは、なんとか俺が指定した魔法を二つ、習得することができた。


 魔力の正しい扱いを知ったのはつい最近なので、普通は、コントロールで精一杯なのだけど……

 切羽詰まった状況とはいえ、ネコネは二つの魔法を習得してみせた。

 案外、才能があるかもしれないな。


「攻撃魔法のファイア……それと、補助魔法のライト。これは、どのような意味が?」


 その二つがネコネが習得した魔法だ。


「ファイアは、いざという時のための自衛手段だ。これから誘拐されることになる。当然、武器などは全て取り上げられるだろう」


 でも、魔法を取り上げることはできない。


 魔法を封印する道具もあるが……

 ネコネが魔法を使えるようになったことは、まだ周知されていない。

 これは大きな武器となるだろう。


「ライトは、俺達、救出班に場所を伝える道標となる。素人が使ったとしても、かなりの光量を発することができるからな」

「なるほど」


 囮という危険な役をやらせる以上、もっと入念な準備をしておきたいが……

 時間をかければかけるほど、アリンの身が危うくなる。

 それに、犯人があまりに無茶な要求をすると、国がアリンを切り捨てる可能性もある。


 それを考えると、準備はここが限界だ。


「じゃあ、ネコネは昼過ぎ……放課後まで休んでおいてくれ。それから、どうするか細かい作戦を話す」

「でも、こんな時に休むなんて……」

「魔力を少しでも回復させるためだ。それに、敵も、いくらなんでも真っ昼間から動かないだろう。動くなら夕暮れか夜だ」

「……わかりました」


 そう言いつつも、ネコネの表情は複雑なままだ。

 頭で納得はしても、心は納得できないのだろう。


「大丈夫だ」

「……あ……」


 ぽんぽんと、ネコネの頭に手をやる。

 そのまま撫でる。


「アリンは絶対に助ける。それに、ネコネを傷つけることもさせやしない。絶対だ」

「……」


 ネコネは、じっとこちらを見つめて……

 そっと俺の手を取る。


「スノーフィールド君の手は、とても温かいですね」

「ネコネ?」

「この温かさを感じていると、すごく落ち着くことができて……スノーフィールド君なら、って思うことができるんです。だから……お願いします。アリンを……大事な妹を助けてください」

「了解だ」


 不思議な感覚だ。


 任務のためではなくて、魔法を学ぶためでもなく。

 今はただ、ネコネの力になりたいと思った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで一気に読みました! また面白くてなりそうですね! アリンを攫った者の目的は!?続きまってます!
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