23話 むかつく
「むかつくむかつくむかつく……!!!」
夜。
一人、部屋で過ごすアリンは、ふてくされた顔をしていた。
姉につきまとう怪しい男に決闘を申し込み、完膚なきまでに叩きのめす。
そして、二度と姉に近づかないように約束させる。
あるいは、学院から追い出す。
そうなるはずだったのに……
「まさか、バハムートと契約をしているなんて……」
伝説の存在を使役しているなんて話、聞いたことがない。
想像以上……いや。
予想の遥か斜め上をいっている。
「……いったい、何者なのかしら?」
突然、学院にやってきた異端児。
貴族を返り討ちにして、鮮烈なデビュー。
その後も、貴族との決闘に勝利するなど、色々と話題には事欠かない。
「うーん」
気がつけば、アリンはジークのことばかり考えていた。
彼が姉に近づく不埒者ということは忘れて、その正体などが気になるように。
「よくよく考えれば、ちゃんと話したことはないのよね……彼、どんな人なのかしら?」
姉の敵。
でも、どんな人なのか、その性格が気になる。
どうしたらいいのだろう?
アリンはぬいぐるみを抱えて、ため息をこぼす。
「あら?」
小さく扉がノックされた。
一人でなかったら気づかないほど小さな音だ。
「こんな時間に誰かしら……はーい」
アリンは返事をして、玄関の扉を開ける。
しかし、誰もいない。
「……いたずら? もうっ」
ぷりぷりと怒りつつ、玄関の扉を締めた。
鍵を閉めて、部屋に戻ろうとして……
「っ!?」
振り返ったところで、いつからそこにいたのか、黒尽くめの男と目が合う。
アリンは反射的に悲鳴をあげようとするが、口を塞がれてしまう。
さらに腹部を殴られてしまい……
「……ぅ……ぁ……」
アリンの意識はゆっくりと闇に落ちていった。
――――――――――
寮から学院は、歩いて十分ほどだ。
学院は大きく、無数の施設があり……
そして、たくさんの生徒を収容する寮も大きい。
そのため、敷地を確保するために離れた場所に建てられた。
朝。
目を覚ますためにのんびり歩くこともできるため、俺はこの距離感が気に入っているのだけど……
「……」
ふと、ネコネを見つけた。
暗い表情をしてて、時折、周囲をキョロキョロと見ている。
「レガリアさん」
「あっ……スノーフィールド君」
「おはよう」
「おはようございます……」
やはり元気がない様子だ。
「どうかしたのか?」
「あ、えっと……スノーフィールド君は、アリンを見ませんでしたか?」
「いや、見ていないが」
「そう、ですか……昨夜から連絡が取れなくて、気になってしまって」
アリンが消えた?
そういえば、今朝はなにもなかったが……
ふむ。
――――――――――
学院に到着してネコネと別れると、その足で学院長室へ向かった。
ネコネと離れることになるが、四六時中一緒にいるわけじゃない。
それに、学院で襲うバカもそうそういないだろう。
……しかし、今回はそのバカが現れた可能性がある。
その確認をしておきたい。
「……と、いうわけなんだが、なにか心当たりはないか?」
「むう」
リーゼロッテは難しい顔に。
笑い飛ばされる展開を予想していたが……
これは、洒落にならない事態に発展している可能性があるな。
「……まあ、よいか。元々、お主にも協力を頼むするつもりじゃったからな」
「っていうことは、なにか起きたんだな?」
「当たり前だが、他言無用じゃぞ? ……第四王女アリン・レガリアが誘拐された可能性がある」
リーゼロッテ曰く……
昨夜、侵入者を探知する結界が反応した。
同じく、アリンの護衛が倒れて……
そして、アリンが消えた。
「どう考えても誘拐だな。殺したいなら、その場でやればいい。アリンの立場を考えると、犯人の候補なんて腐るほどいるだろう」
「妾も同じ考えじゃ。何者かが第四王女を誘拐して、いずれ、要求を突きつけてくるじゃろう。それが国になのか学院になのか、それはわからぬがな」
「犯人の情報は?」
「わからぬ。国と連携して捜査を進めているものの、なかなか……な。おかげで徹夜じゃが、まだ情報を掴めておらん」
「それで俺の出番か」
「うむ。お主なら、色々と便利な魔法を持っているじゃろう?」
「待て。俺の協力前提で話をするな」
「なんじゃ、断るつもりなのか?」
「俺の立場も微妙なんだよ。俺は俺でやらないといけないことがある。それを疎かにして失敗したら、意味がないだろう?」
「むう」
ネコネの護衛が俺の任務だ。
敵が学院内部にまで入り込んでいるとなると、そちらを無視することはできない。
アリンのことは気になるが、ネコネの護衛の強化をするべきで……
「待ってください!」
扉が勢いよく開いて、ネコネが入ってきた。




