20話 ライバル認定
「……うん?」
翌朝。
気持ちよく寝ていると、扉をノックする音が響いてきた。
ドンドンドン、と連打されている。
「なんだ、こんな時間に……」
まだ朝の五時だ。
しっかりと魔力を貯めるには、しっかりと睡眠を取ることが大事だ。
七時までは寝ていたいが……
「この様子だと、出てくるまでノックされそうだな」
次第にノックが激しくなってきた。
俺はため息をこぼして、手早く着替えた後、玄関の扉を開ける。
「やっと出てきたわね、ジーク・スノーフィールド!」
片手を腰に当てて、ふふんと偉そうに胸を張っているのは、第四王女のアリンだった。
彼女はすでに制服に着替えていて、ピシリとした格好をしていた。
「……」
「ちょっと!? 無言で扉を閉めないでよ!?」
ダンダンダン、と再び連打された。
ややあって、しくしくという泣き声が聞こえてくる。
「開けてよぉ……いきなり無理なんてひどいわよぉ……」
扉を引っかいているのか、カリカリという音が聞こえてきた。
隣に迷惑だから、おとなしく話を聞いた方がいいか。
「うー……」
再び扉を開けると、アリンは涙目だった。
飼い主に放置されて拗ねる犬みたいだ。
「なにか用か?」
「……あんた、お姉ちゃんの魔法の師匠になったらしいわね」
「そうだな。レガリアさんから話を聞いたのか」
「そんなの許せないわ! っていうか、邪なことを企んでいるでしょう!?」
「なんだよ、それ」
「魔法を教えるとか適当な理由をつけて、お姉ちゃんにえっちなことをするつもりでしょう!? この変態!」
そんな発想を持つ妹の方が変態だと思うのだが、それはどうだろう?
「そんなこと、まったく考えていない」
「なんでよ、おかしいでしょ!? お姉ちゃんを見て欲情しないとか、あんた、それでも男!? あたしは、ちゃんと欲情するわ!!!」
とんでもないことをさらりと告白しないでほしい。
お前、本当に王女か?
昨日のやりとりで、シスコンらしいことは窺えたが……
まさか、ここまでだとは。
「で……なんだ? いちゃもんをつけに、わざわざこんな朝早くにやってきたのか?」
「そんなわけないでしょう。ほら、これ」
なにやら手紙を渡された。
視線で促してくるので開いてみる。
『果たし状』と書かれていた。
「???」
「ちょっと、バカを見るような目をしないでくれる!?」
「いや、だって……」
「いい? いわば、あたしとあんたはお姉ちゃんを巡るライバルよ!」
「ライバル、ねえ……」
「どちらがお姉ちゃんの傍にいるべきか、決めましょう!」
「面倒だ、断る」
バタン。
「……」
沈黙。
そして……
「ひどいわよぅ……こんなにストレートな無視、ひどいわよぅ……」
涙声と、カリカリと扉をひっかく音が聞こえてきた。
いたずらをして怒られた猫か。
「まったく……」
「さあ、勝負よ!」
いたたまれなくなって扉を開けると、アリンは即復活してみせた。
また扉を閉めてやろうか?
無視してもいいのだけど……
ずっとつきまとわれるだろう。
会ったばかりなのだけど、彼女の性格はなんとなく理解した。
「仕方ないな……わかった、勝負を受ける」
「いい返事ね。男らしいところだけは褒めてあげる」
「で、どんな勝負をするんだ?」
「……」
なぜか返事がない。
アリンはちょっと間の抜けた顔で、ぽかーんと目を丸くしていた。
それから考える仕草を取る。
「……あっ」
「おい。なんだ、その『あっ』は? もしかして、決闘を了承させることだけを考えて、肝心の内容はなにも考えていないんじゃないだろうな?」
「そ、そそそ、そんなことないもんっ!」
わかりやすいヤツだ。
「えっと……」
考える。
考える。
考える。
「……」
アリンは、ダラダラと汗をかき始めた。
なにも思い浮かばなかったらしい。
「しょ、詳細は後で伝えるわ!」
「え?」
「ま、また放課後に来るわ!」
言い放ち、アリンは逃げるように立ち去った。
いや。
実際、逃げたのだろう。
自分から決闘を申し込んでおいて、内容を考えていないとか、ドジにもほどがある。
「第四王女アリンはドジ……いや。ドジを通り越して、ぽんこつ? まあ、そんな感じで記憶しておこう」
略して、ポリンでもいいかもな。
本人が聞いたら、たぶん……いや、絶対に憤慨するだろう。
「さて……」
一応、対策は練っておいた方がいいだろう。
ネコネと話をしておくか。




