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19話 妹

 数日後。


「おはようございます」


 教室に行くと、ネコネが笑顔で挨拶をしてきた。


 トムじいさんの件で、ここ最近、落ち込んでいたものの……

 今日はいつもと変わらない様子だ。


 立ち直ったのか。

 それとも、表には出さない程度に気持ちの整理をつけることができたのか。


 どちらなのかわからないが、元気になったのはいいことだ。


「スノーフィールド君!」

「うん?」

「私、今日から魔法を使えるようになりましたか!?」

「そうだな……」


 呪いの重ねがけは防ぐことができた。

 あれから、解呪も行っておいた。


 問題は全て解決したはずだから、魔法を使えるようになっているはず。


「放課後、試してみるか」

「はい!」




――――――――――




 そして、放課後の屋上。


「ファイア!!!」


 ありったけの気合を込めて、ネコネが魔法を唱えた。

 ぽわっ、という感じで、指先に小さな火がつく。


「あ、あああ……」


 ゆらゆらと燃える小さな火。

 それを見たネコネは、声を震わせて体を震わせて……


「で、できました! できましたよ、スノーフィールド君!?」

「熱っ!?」


 火をつけたまま抱きついてくるものだから、制服が燃えそうになってしまう。


「あああっ、ご、ごめんなさい!?」

「いや、いいさ」


 あたふたと慌てるネコネに、気にしていないと、俺は小さく笑ってみせた。


 今までずっと使えなかった魔法をようやく使うことができた。

 その気持ちは、俺もわかるつもりだ。


 初めて魔法を使うことができた時の感動。

 あれは、一生忘れられない。


「それにしても、魔法って難しいんですね……あんな小さな火を生み出すだけで、ものすごく疲れてしまいました……私って、才能がないのでしょうか?」

「そんなことはないさ。レガリアさんは、今まで魔法を使えない状態だったからな。例えるなら、まったく運動をしていない人が突然リレーをしたようなものだ。いきなりうまくいくわけがない」

「なるほど」

「まずは体を慣らして、それから練習を積み重ねていけばいい。理論はしっかりと学んでいるから、慣れれば一気に上達すると思う」

「はい。がんばりますね、師匠!」

「だから、師匠はやめてくれ……」

「ふふ」


 ネコネがいたずらっぽく笑う。


 一緒にいるようになって判明したのだけど、彼女は礼儀正しいように見えて、けっこうないたずら者でもある。

 親しい人には子供のような一面を見せることが多い。

 それもまた、彼女の魅力なのだろう。


 ……うん?

 そうなると、俺もネコネの親しい人になるのだろうか?


 そんな者は、別に……


「見つけたわ!」


 突然、第三者の声が乱入してきた。

 何事かと振り返ると、ネコネと同じ髪の色をした女の子が。


 輝く銀色の髪は、左右に分けてツインテールにしている。


 くりっとした瞳と、ちょこんとした鼻。

 童顔で、けっこう下に見えるのだけど……

 中等部の制服を着ているところを見ると、そこまで歳は離れていないのだろう。


 体の起伏は平坦。

 ただ、将来はとんでもない美人に化けるだろうという、可能性を感じた。


「アリン!? どうしてここに……」


 アリン・レガリア。

 ネコネの妹であり、第四王女でもある。


 アリンは肩を怒らせつつ、ツカツカと歩いてきた。

 俺の目の前で止まると、ビシッと指さしてくる。


「ちょっとあんた! お姉ちゃんになにをしているのよ!?」

「……俺のことか?」

「他にいないでしょ! 答えなさい。こんなところでお姉ちゃんと二人きりになって、なにをしているの!?」

「魔法の訓練だが」

「嘘つかないで! 本当はよからぬことを考えていたんでしょう!?」

「よからぬこと、っていうのは?」

「そ、それは……言葉にもできないような、ピンク色のいやらしいことで……」

「なんだ、それは?」

「わ、わかるでしょう!? ここまで言えば!」

「わからないから聞いている」

「そ、そんなことを言われても、これ以上はあたしの口からなんて……そんな、あんなことやこんなことを……お姉ちゃんにそんなことをするなんて許せない! コロス!!!」


 突然、キレた。


 なんだ、この生き物は?

 ネコネの妹とは思えないくらい、落ち着きがないのだが。


「アリン、どうしてここにいるんですか?」

「くううう、あたしのお姉ちゃんがこんな馬の骨にとられちゃうなんて、そんなのダメ。ダメダメダメ! 絶対にダメなんだから」

「アリン、ちょっと落ち着いてください」

「お姉ちゃんはあたしのものなんだから。いつも優しくて甘やかしてくれて、それで、あたしのお嫁さんになってくれる、って約束もしているんだから」

「……」

「あんたなんかにお姉ちゃんは渡さないわ! さあ、今すぐに……」

「えいっ」

「ふぎゅ!?」


 ネコネはアリンの首をコキッとやった。


 アリンは白目を剥いて倒れるのだけど……大丈夫か?

 今の、気絶させるには有効な方法だけど、専門職以外がやると事故に繋がりかねないのだが。


「えっと……」

「妹が失礼なことを言って、すみません……」

「やっぱり、妹さんだよな? 第四王女の」

「知っているんですね」

「容姿くらいは、さすがに。とはいえ、直接言葉を交わしたのはこれが初めてだから、どういう性格をしているのかはわからないけど」


 こういう性格というのは予想外だった。

 たぶん、ネコネのことが好き……シスコンというやつなのだろう。


「迷惑かけてすみません。今日は、妹を連れて帰りますので……」

「ああ、わかった。じゃあ、また明日」

「はい、さようなら」


 ネコネはにっこりと笑い、この場を後にする。

 笑顔で気絶した妹を引きずるのは、なかなかシュールな光景だ。


「あれが第四王女……か」


 この先、面倒事になるような予感がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] また、濃いキャラが出てきたな・・・。
[気になる点] 新キャラがトム氏のアナザーバージョン的な、姫様を大切に思うばかりに暴走するキャラクターとならないで欲しいものですが。  本来は姉様が初めて魔法を使えるようになったと見聞きして、お祝いす…
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