表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/30

18話 返して

「姫様! なぜ、この儂にこのような仕打ちを!?」


 トムじいさんを逮捕したのだけど……

 彼は諦めが悪く、取り押さえられた後も暴れていた。

 かなりのダメージを与えたはずなのに元気なものだ。


「儂は姫様のためを思い、あえてこのようなことを……! 孫のように思う姫様に害を成すつもりなど、毛頭ありませぬぞ! 儂のしていることこそが正しいのです!!!」

「……」


 必死に訴えてくるトムじいさんを見て、ネコネは辛そうな表情に。


 仕方ないだろう。

 幼い頃からの知り合いで、ずっと守ってきてくれた。


 トムじいさんにとってネコネが孫のようなら、ネコネにとってトムじいさんは祖父だ。

 そんな祖父から歪な感情を向けられていたなんて、普通、耐えられない。


「レガリアさん」

「……あ……」


 ぽん、と彼女の肩を叩いた。


 彼女は護衛対象だけど、でも、必要以上になにかをする必要はない。

 慰めの言葉なんていらない。


 そのはずなのに……

 気がつけば、俺は勝手に口が動いていた。


「トムじいさんのこと、気にしてもいいし気にしなくてもいいんじゃないか?」

「え?」

「俺は当事者じゃないから適当なことしか言えないが……ぶっちゃけた話をすると、向こうが勝手に期待していることだ。押しつけている、と言ってもいい」

「それは……」

「ただ、それを受け止めるか。あるいは無視するか。それもまた、レガリアさんの自由なんだ」

「……自由に……」

「相手の期待に応えてもいい。無視してもいい。その選択権もまた、レガリアさんが持っていることを忘れないでくれ」

「……」


 ネコネは、少し考えるような顔に。


 ややあって、トムじいさんの方に一歩、前に出た。


「姫様、儂は……!」

「私は」


 トムじいさんの声を遮り、ネコネが凛とした表情で言う。


「……あなたのことを、本当の祖父のように慕っていました」

「おぉ!」


 ネコネの言葉に、トムじいさんは目を輝かせる。


 しかし、気づいていないのだろうか?

 ネコネは、いつものように『トムじいさん』と呼んでいないことに。


「ですが」

「……姫様?」

「あなたが本当の祖父であろうとなかろうと、私の生き方を勝手に決めることは、決して許されることではありません!」

「え、あ……し、しかし、それは姫様のためを想ってのことでして……」

「そのようなことを頼んだ覚えはありません。あなたのしてきたことは、ただの独りよがりな独善です。私の9年を返してください!!!」

「っ……!!!?」


 これ以上ないほどの拒絶を叩きつけられて、トムじいさんはふらりとよろめいた。

 立っている力がなくなったらしく、その場に膝をついてうなだれる。


 そのまま無理矢理立たされて、連行された。

 彼がネコネに会うことは、もう二度とないだろう。


「……行きましょう」


 ネコネに頷いて、カフェテリアを離れた。


 ただ、すぐ寮へ向かうわけではない。

 ネコネは屋上に登り、俺もなにも言わずついていく。


「……」


 いつの間にか空は赤くなっていた。

 その夕日を眺めるネコネは、一枚の絵画のように綺麗だ。


 ただ、その表情は悲しみであふれている。


「……スノーフィールド君」

「なんだ?」

「私は……これでよかったのでしょうか?」

「さあな」


 冷たいと思われるかもしれないが、俺は答えを持っていない。


「正しいか正しくないか。それを判断できるのは、レガリアさんだけだ」

「そう、ですよね……」


 ネコネはうつむいて、


「っ!」


 次いで、こちらに抱きついてきた。


「レガリアさん?」

「少しだけでいいです。少しでいいから……胸を貸してください」

「……ああ」


 そっと、ネコネを胸に抱いた。

 彼女の表情は見えない。わからない。


 ただ……

 涙で濡れていることはわかる。


「あんなことを言ってしまいましたが、私、完全にトムおじいさんのことを嫌いにはなれません。なれませんでした」

「ああ」

「本当は、まだ、どこかで優しい笑顔を見せてほしいと思っていて、のんびりと他愛のない話をしたいと思っていて……優しかったんです。あんなことをされていましたけど、でも、とても優しくて、温かい人だったんです」

「ああ」

「好きでしたけど、でも、許せない気持ちもあって……私は、私は……!」

「いいさ」


 彼女の方は見ない。

 そのまま声をかける。


「割り切れないことは色々とあると思う。それを我慢する必要はないさ」

「我慢しなくても……いいのですか?」

「いいんじゃないか? なんでも溜め込むよりは、適度に発散した方がいいさ」

「そうでしょうか……? 我慢しなくてもいいのでしょうか?」

「いいさ」


 あえて言い切る。

 それが必要だと、そう思った。


「俺は、ここにいるから」

「はい」

「でも、なにか聞くことはないし、聞こえてもいないから」

「はい」

「だから、好きにするといい」

「……はい」


 そして……


 しばらくの間、ネコネの泣き声が響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 子供が成長し、自分の手から離れることを受け入れないとこういう結末になってしまうのか・・・。 何か、わたしたちもこういうふうにならないように気をつけないといけないな・・・。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ