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17話 魔法だけじゃない

「いきなり魔法を放つとは……君は、姫様の隣にいる資格はないのう」

「あんたに言われたくない」


 睨み合い……


「ふっ!」


 息を吐くと同時に、トムじいさんが突撃を開始した。


 速い。

 身体能力を強化しているから、風のようだ。


「動くな!」

「おとなしく……がっ!?」


 周りにいた諜報員が動くけど、返り討ちにあってしまう。


 歳の差なんて感じさせない動きだ。

 というか、経験値が圧倒的に向こうの方が上なので、諜報員では手も足も出ない様子だ。


「俺がやるから、レガリアさんを頼む」

「はっ……」


 諜報員達は苦い顔をしつつも、実力差を理解したらしく、ネコネを連れて後ろに下がる。


「スノーフィールド君!」

「なんだ?」

「その、あの……本来、このようなことは頼めないのですが、しかし……」

「わかった」

「え?」

「殺さない」


 誰のことを指しているか理解したのだろう。

 ネコネは頭を下げて、後ろに下がった。


「待たせたな」

「なに。姫様を巻き込むわけにはいかないからのう」

「じゃあ……」

「始めるとしよう、ゆくぞ」


 再びトムじいさんが駆けた。

 床を踏み砕くような勢いで蹴り、超加速。

 一瞬で視界外へ移動してしまう。


 ただ……


「甘い」

「む!?」


 背後に回り込んだトムじいさんが拳を繰り出してくるが、俺は振り返ることなく、それを回避した。

 そのまま腕を掴み、背中に背負うようにして投げる。


 ダンッ!!!


 カフェテリアの床を割る勢いで、トムじいさんを叩きつけた。

 ただ……


「ふんっ!」


 トムじいさんは両手を床について、腰を回転させつつ、両足をこちらにぶつけてくる。

 ダンスをしているかのような動きで、かなり変則的だ。

 それ故に動きを見切ることが難しい。

 いくらか攻撃を受けてしまう。


「厄介な技を」

「儂の専門は格闘術でのう。魔法使いとしては、やりづらいじゃろう?」

「確かにやりづらいな」


 殴り合いは趣味じゃない。

 やはり派手な魔法の撃ち合いの方が楽しい。


 でも、


「なんじゃと!?」


 ほどなくしてトムじいさんの足捌きを見切り、全ての攻撃を回避した。

 その上でカウンターを叩き込み、数メートルほど吹き飛ばす。


 とはいえ、それはトムじいさんが衝撃を逃がすために自分で跳んだだけ。 

 実際に大したダメージはないらしく、すぐに起き上がる。


「器用な真似をするな」

「……それは儂の台詞じゃ。お主には初めて見せる技なのに、即座に対応するとは」

「あれくらい、脅威のうちに入らないからな。初見で驚いただけで、対処するのは簡単だろう?」

「言ってくれる」


 トムじいさんは呼吸を整えると、再び突撃してきた。

 今度はまっすぐ、真正面から突っ込んできた。

 さきほどのような速さはない。


 ただ、一歩一歩が重い。

 たくさんの力が込められている様子で、妙な威圧感を感じる。


「これは……」


 そうか、なるほど。

 トムじいさんがやろうとしていることを理解した。


 さて、どうするか?


 トムじいさんがやろうとしていることは、多少、時間がかかる。

 妙な威圧感を放ち、しかし距離を詰めてこないのは時間稼ぎだ。


 先手を打つと楽に戦いを進められるだろうが……

 でも、そうだな……あえて受けて立つか。


 これは、おそらくトムじいさんの切り札。

 それを真正面から受けて、そして、完膚なきまでに叩きのめす。

 そうすることで心を折ることにしよう。


「ふぅううううう……」


 トムじいさんは深く息を吸う。

 準備完了だ。


「はぁっ!!!!!」


 トムじいさんの魔力が爆発的に高まった。


 あらかじめ溜め込んでおいた魔力を、ここぞという時に一気に解き放つ。

 遅延魔法と似た原理の技だ。

 そうすることで、通常使う魔法が数倍の威力に跳ね上げる。


 爆発的に膨らんだ魔力を、トムじいさんは全て身体能力強化に回した。

 その結果、音を超える速さで動いた。


 ふっ、と消えた後には真横に回り込んでいて、音が遅れてやってくる。


 周りにいる諜報員はなにも見えていない、気づいていない。


 ネコネも見えていない。

 ただ、なにか起きていると気づいているらしく、慌てていた。

 センスがある。


「終わりじゃ」

「あんたがな」

「なっ!?」


 きっちり反応してやると、トムじいさんは驚愕に目を大きくした。

 それでいて、超速で拳を突き出してくる。


 ただ……甘い。


「遅いな」


 俺は、トムじいさんのさらに上をいく速度で動く。

 彼の拳をミリ単位で避けると同時に、彼の腕を掴んで逃げられないようにした。


 そのまま腕を引き寄せて、ゼロ距離まで接近する。

 それと同時に膝を腹部に叩き込む。


「がっ!?」


 体勢が思い切り崩れたところで、足を引っ掛け、地面に倒す。

 倒した状態でも腕を掴んでいたため、あらぬ方向に曲がり、鈍い音と共に折れる。


 それでも反撃を狙っている様子なので、脇腹を蹴る。

 いくつか骨を折り……

 動けなくなったところで、頭の脇スレスレを踏み抜いた。


「っっっ!!!?」


 こめかみに衝撃が伝わり、トムじいさんの運動機能を一時的に麻痺させた。

 意識は残ったままだけど、これでしばらくは動くことができない。


「お主……なぜ、このような力を……魔法使いでは……」

「そうだな、俺は魔法使いだ。ただ……」


 言い放つ。


「格闘術が苦手なんて誰が言った? 俺は、なんでもできるオールラウンダーなんだよ」

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