和製シュトゥルモヴィーク シン99式襲撃機 ~ブリティッシュ作戦~
たくさんの人に読んでいただき日間ランキング19位。週刊ランキング26位に。
今回も地味な機体の少しだけ派手な活躍です。
駄文ですが、読んでいただければ幸いです。
今後も生温かい目で見守って頂ければと存じます。
1942年1月(昭和17年)、第3飛行集団は、クアラルンプールの飛行場に駐屯し、英軍に対し激しい航空撃滅戦を行っていた。
第3飛行集団は優勢に航空作戦を進めていたが、イギリス空軍はゲリラ的少数機で日本軍地上部隊に継続的に爆撃を加え、地上軍にも少なからず損害が生じていた。
第3飛行集団集団長の菅原道大中将が、絶対的制空権の確保を優先するあまり、地上支援が少ないと感じていた第25軍司令官の山下は、「まずは地上作戦協力の方が緊急」という不満を抱いていた。
山下の不満を受けて南方軍参謀谷川一男大佐は、「遠藤三郎率いる第3飛行団を第3飛行集団から第25軍の指揮下に移してはどうか」とする案を菅原ら第3飛行集団に示したが、菅原らは谷川の提案を一蹴、遠藤が「まずは何より重要なことは全般の制空権を獲得し、その傘の下で作戦することである」との意見を谷川に返した。
そのため、引き続き第3飛行団は第3飛行集団の指揮下で菅原の方針通り、制空権確保に全力を投入した。
そん中、ある男が駐屯地にやってきた。
不幸は、忘れたころにやって来る……
「おーい! カン軍曹! 乾物屋!」
「いぬいであります! 実家は金物屋です!」
「それと、今は曹長であります! 辻参謀殿」
と、答えながら戦場で死神を見たような顔になる乾軍曹であった。悪い予感しかしない……
「早朝? もはや、昼時だと思うが…… 貴様、時差ボケかっ?」
「いや、早朝じゃなくて、曹長ですよっ! 昇進しました!」
「ほう! 出世したなあ! 流石、ノモンハンの英雄!」
「一緒に戦ったわしも鼻が高いわ!」
そう、この辻参謀とはノモンハン事件で一緒に戦った?
いやいや、いやいやいやいや、独断専行、猪突猛進、勇猛果敢、唯我独尊、頑迷固陋、支離滅裂な暴風みたいなこのおっさんに、オレが振り回されただけだあ!
ノモンハンでは、BT戦車を始め装甲車両を30台以上を撃破し昇進も手にしたが、このおっさんのせいで何度死にそうな目にあったか!
はっきり言って、二度と関わりたく無い人だ!
「さて、今日は貴様と昔話をしに来た訳ではない。貴様の小隊は、今後この第25軍参謀である辻の指揮下に入る!」
何故、嫌な予感は的確に当たるんだ!
後で知ったことだが、第3飛行団を第3飛行集団から、第25軍の指揮下に移してはどうか、とする案を蹴られた第25軍が、辻参謀主導で代わりに「ノモンハンの英雄」をという代替え案を出し、辻の度重なる無理難題に辟易した第3飛行集団が、第3飛行団ではなく1小隊ならと差し出されたらしい……
どうしてこうなった!
どうしてこうなった!
何故、我々は空母の上に居る?
「小隊長、何故我々は空母に?」と言うのは、右目に向こう傷があるまっつこと松井軍曹。
「小隊長、陸からどんどん離れていきますよ! 自分は、泳げないんですが……」と情けないことを言っている相撲取りの様な巨漢の大多賀軍曹。
こいつらは、オレの小隊僚機だ。ノモンハン事件の後、中国戦線で小隊を組んで今に至っている。気心が知れた僚機である。
「オレも知らん! 辻参謀殿に聞いてくれ!」
その辻参謀が、やって来て作戦を説明する。
マレー作戦の最終目標シンガポールを攻略するにあたり、ジョホール海峡を渡っての攻撃は、敵も重厚な防御線を敷いているため、ジョホール海峡越しの砲撃による敵の戦意を挫こうというものであった。
しかし、今後の南方作戦の根拠地として利用したい日本軍としては、可能な限り無傷で手に入れたいのが心情であった。
では、この自称「作戦の神様」は、何をしに来たのか?
シンガポールのセレター軍港。ここに、シンガポール回航中に座礁し、修理のためドック入りしているイギリス海軍の空母インドミタブル。これを攻撃しようというのである。
インドミタブルは日本語で「不屈」。その不屈の心を折ってやる! という至って、戦略的にどうよ? という作戦であり、本来ならどのみち砲撃範囲が日に日に前進しているから構ってやる必要は無い。はずだった……
情報によると突貫工事で動ける様にして、シンガポールから脱出を図っていると。
元々、マレー沖海戦で沈んだプリンス・オブ・ウェールズ、レパルスと共に、イギリス本国より派遣されたインドミタブルは、マラッカ海峡で座礁しマレー沖海戦には参加できず。インドミタブルの航空支援を受けれなかったプリンス・オブ・ウェールズ、レパルスは、世界で初めて航空攻撃で沈んだ戦艦となった。
「という訳で、英国海軍の最新鋭空母を撃破し英軍の戦意に掣肘を食らわす!
名付けて「ブリティッシュ作戦」である!」と声高々に宣言する辻参謀であった。
「イギリスをやっつけるからブリティッシュ作戦って安易じゃないですか?」とまっつ。
「作戦っていうのは、中身であって名前は関係無いっすもんね」と大多賀。
「参謀殿には、名前のセンスは関係無いんだろ」
と、オレ達は作戦名をヒソヒソとバカにしていた。
後に、この作戦名を聞いた別府造船グループ総帥、来島義男社長だけが「いいねえ! コロニー(植民地)落とすから、ブリティッシュ作戦かあ! 実に面白い!」と喜んでいたとか・・・
陸軍の空母「あきつ丸」
陸軍が、上陸作戦支援用に建造した正式には揚陸艦。
そのあきつ丸のお世辞にも広くない飛行甲板。なんと言っても127mしか無い!
ここに、何故か99式襲撃機3機がある。それが、我々の今回の乗機であるらしいが、何か違和感を覚えるのは気のせいか?
「この99式襲撃機は、別制だ!」
「特別制ですか?」
「いや、別制な。別府造船の別制な!」
現場での評価も高く、中華大陸で一番活躍した軍用機と言われた99式襲撃機も、制式化されて早3年となり太平洋戦争に突入して、能力の向上を求められていた。
具体的には、搭載量の増加、航続距離の増加、速度向上の3点であった。
その話を持ち込まれた99式襲撃機の製造会社たる渡邊鉄工所、その面々は頭を抱える事になる。
「これ、全部を向上させるとなると新型を作った方がいいですよ!」と渡邊社長。
「私もそう思います。実際、川崎にキ45を発展させた新型の襲撃機の開発も内示しています。ただ、それが制式化されるまでは99式で乗り切るしかありません」
「搭載量の増加、航続距離の増加、速度上昇。この3点で、どれが一番現場で求められていますか?」
「そうですね。搭載量に関しては、別製爆弾架台での攻撃が主ですし、九七式曲射歩兵砲の81mm砲弾装備の甲型。八十九式重擲弾筒の八十九式榴弾装備の乙型共に好評です。
これ以上の重量の爆弾に関しては、襲撃機の任務上無いでしょう。別製爆弾架台を2基搭載したいという意見がありますが、それは次の新型に任せましょう」
「航続距離の増加に関しても、陸軍としては一式戦闘機の航続距離もあって、無理に航続距離を増やすよりも航空基地を増設する方策を取っています」
「最後に速度向上ですが、これが一番強く求められてます。中国戦線では問題になりませんでしたが、英米機相手となると……」
と、いう訳で99式襲撃機の性能向上は、速度向上を中心に進めていくことになった。
が、しかし、エンジンは三菱、更に言えば設計図もほぼ三菱の98式軍偵。
99式襲撃機の売りの防弾装備も、別府造船の来島義男社長のアイデアから……
と、いう訳でまたまた何かいいアイデアは無いでしょうか? と、別府造船に問い合わせたところ、
「こまった時のド〇えもんじゃないんだからさあ。そんなに簡単にアイデアなんか無いよう!」
と、何故か呼んでもいないのに、九州に覇を唱える別府造船グループ総帥、来島義男社長が目の前でお茶を啜っている。
どうしてこうなった!
「やはり、エンジン換装でしょうか? それが、一番手っ取り早いと思うんですが」
「どこも、エンジンに余裕は無い! 絶賛戦争中で、三菱も中島もフル稼働だ! 三菱も瑞星だから回してくれてるが他は無理だ!」
「そうなると固定脚を引き込み脚にして空気抵抗を減少させる位が……」
と、渡邊鉄工所の面々が意見を言い合っていると
「足なんて飾りです! 偉い人にはそれが分らんのですよ!」と叫ぶ、この中で一番偉い別府造船グループ総帥、来島義男社長である。
「固定脚を引き込み脚にしたら、機銃の銃弾や燃料タンク容積を圧迫するだろう! それに、マッキM.C.72はフロート付きで709kmの世界記録出してるぞ!」
「いやいや、あれは水冷V24気筒 2,850hp って化け物を積んでるからじゃないですか?」
「それだよ! 大概のことは馬力で何とかなる! 足にこだわるんじゃなく、エンジンの馬力向上をしよう!」
「でも、瑞星ですよ。頑張っても1000馬力いきませんよ!」
「水メタノール噴射装置を装着する」
「うちの関連会社の山岡製作所に水メタノール噴射装置付きの瑞星を作らせる!」
そうして、来島義男社長の無茶ぶりを受けて、山岡製作所が仕上げたのが瑞星三十一型だった。
瑞星三十一型
タイプ:空冷複列星型14気筒
筒径×行程:140mm×130mm
排気量:28.02L
外径:1,118mm
乾燥重量:542 kg
燃料:気化器式
過給機:遠心式スーパーチャージャー1段2速
特記事項:水メタノール噴射、高ブースト
離昇馬力:1,200HP / 2,700RPM +450mmhg
一速全開:1,160HP / 2,600RPM +300mmhg
二速全開:1,050HP / 2,600RPM +300mmhg
99式襲撃機に搭載されている瑞星十五型(ハ26-II型)が、離昇馬力 940HP/2,650RPM であり、およそ3割も馬力が向上している?
この瑞星三十一型にエンジン換装したのが、99式襲撃機二型である。
エンジン換装の他の改造点は、推力式単排気管にしたことと、水メタノール70Lを積むために操縦席下に弾倉を無くしたこと位であり、重量増加もわずかであった。12,7mm弾は250発に減ったが、対装甲車両などの硬目標に対しては、現行の99式襲撃機一型乙を充てるため問題無しとされた。
重量増加がわずかであり、馬力が3割向上。それが、何を意味するかというと……
「530kmだとう! 零式艦上戦闘機と変わらんでは無いかっ!」
皆が驚嘆の声を上げている中、
「ちっ! 一式戦闘機の620kmとまでは言わんが、550kmは欲しかったなあ!」
と何故か一人悔しがる別府造船グループ総帥、来島義男社長であった。
「いやいや、固定脚で500kmオーバーは凄いでしょう!」
「マッキM.C.72はフロート付きで709kmの世界記録出してるぞ!」
「まだ、それ言いますか!」
この様に、99式襲撃機二型は公試において時速530kmの最高速をたたき出し、制式化された。
シンガポール北東200kmの海上をあきつ丸は風上に向かって航行していた。
あきつ丸を何とか無事飛び立った我々小隊は、高度100mをシンガポールに向けて飛んでいた。
127mの飛行甲板、更に小隊先頭のオレの機体は100mほどの滑走距離しかない。いかに船首を向けて向かい風を作っているとは言え短いものは短い。
船首の向こうの波が見えるくらいだ……
その短距離を飛び立つために水メタノール噴射を作動させ、辻参謀曰く「花火の打ち上げ」の様に飛び上がった時は少しビビったのは内緒だ。
南下を続けシンガポール海峡の真東から右旋回し、シンガポール海峡に入りセントーサ島が見えたらまた右旋回し北上しシンガポール上空に侵入するコースを我が小隊は順調に進んでいる。
「高度を上げるなよ! 敵に見つかるのは少しでも遅い方がいいからなあ!」
「了解! シンガポールマリーナに入ります」
「ん? あれに見えるは……」
「おい、どうした? 高度を下げすぎじゃないか?」
その時、固定脚が何かに当たった衝撃が
「ハハハ! ビンゴー!」
「何だ? 何をした?」
「まあ、シンガポール一番乗りの証をね。それよりも、進路指示願います!」
こういう時は、ごまかすに限る。
「ようし、奥にあるのがカラン川だ! カラン川を遡上するぞ!」
カラン川を遡り貯水池に抜けたら、ここで右に旋回したらセレター軍港は目の前だ!
湖水を低高度のまま右急旋回する。翼端が、水面を叩いて湖面に一本の航跡を引く。
貯水池を抜けて森に入る。
「ここからは、高度20mだ!」
ときたま、木々に固定脚が当たる音がするが気にせず、まっすぐに飛ぶ。
右上方が、キラリと光った! 敵機だ。
あいつら、もう飛んで来やがった。
「無線解除! 右上方、敵機だ! 回り込んでくるぞ! 大多賀! まっつ! 後部機銃展開!」
「辻参謀殿も後部機銃展開願います!」
「後部機銃? 後部機銃なんぞ、飾りです! 偉い人にはそれが分らんのですよ」
「何言ってんすかっ! あんたが、その偉い人でしょう!」
「後部機銃があると、後部座席の快適性が失われるから置いてきた」といい笑顔を返す作戦の神様。
「はあーっ! あんた、ノモンハンでもそれやって、死にかけましたよね?」
「何を言うか! 心頭滅却すれば弾も避ける! 現にこうして生きている!」
「あの時に、二度としないと約束したじゃないですか!」
「約束はしたが、守るとは言っちゃいない!」
「曹長、敵が後方に回り込んできます!」と僚機より無線が入る。
二人の不毛の会話の間に敵機が後方に回りこんできた。
「ちっ! 流石、英国空軍だ。いい仕事しやがる。少し早いがやるか?」
「大多賀! まっつ! 水メタノール噴射だ! 全開で飛ぶぞ!」
スロットルレバーを全開位置から更に押し込んで水メタノール噴射を作動させる。
「うおっと! 体が座席に押し込まれる! 凄い加速だ!」
推力式単排気管から炎が出ているのが操縦席からも見える。アフターファイアーだ。
「はははっ! 敵機が付いて来れないぞ! 我に追いつくハリケーン無しだ!」
のんきにはしゃいでいる参謀殿にムカつき、一瞬スロットルを絞って敵機に追いつかせて、わざと撃たせてみようかと思ったのは秘密だ。
「よし! セレター軍港が見えた! ドッグを中心に盛大に豆まきしてとんずらするぞ!」
「編隊を密にしろ!」
「曹長! 前方に敵機です!」
「あーっ! 今日の英軍は随分働き者だな? たかが3機に何機上がってるんだ?」
「大多賀! まっつ! 別製爆弾架台投下したら、そのまま機銃ぶっ放して行くぞ!」
「「了解!」」
「別製爆弾架台投下! 投下後、敵編隊の真ん中に機銃発射!」
別製爆弾架台を投下し、軽くなった機体が浮き上がろうとするのを利用し、機首を敵機に向け機銃発射する。
きれいに編隊を組んだ3機の機銃は、6本まとめて敵機に向かって行く。
向こうも翼を真っ赤にするほどの1機当たり12基の 7,7mm機銃を撃ってきた。
が、エンジンカウルにも6mmの装甲版を追加し、正面風防も60mmの防弾ガラスを装備した99式襲撃機二型は全ての7,7mm弾を跳ね返した。
そして、6基のホ103に貫かれた敵機が堕ちていく。敵機編隊の真ん中の機体が堕ち、左右の敵機は激しい銃撃に臆してばらけた。
「よし、このまま突っ切るぞ!」
「おうっ! ドッグは盛大に爆炎に包まれてるぞ! 作戦成功だ!」
我々は、ジョホール海峡を越えても水メタノールが切れるまで全開で飛行し、敵機を振り切ってクアラルンプール郊外の基地に帰投した。
この作戦後、セレター軍港の盛大な爆撃を見たシンガポール市長が無防備都市宣言を宣言し、シンガポールでの防衛が出来なくなったアーサー・パーシヴァル中将は、山下中将らの降伏勧告を受諾した。ここに、日本陸軍のマレー作戦は完遂した。
シンガポール市長の心を折った別製爆弾架台3基だったが、以外にセレター軍港のドックにあったインドミタブルは被害が少なく、その後日本陸軍に接収された。
150発もの81mm砲弾は、派手ではあったが世界初の装甲空母に被害を出すほどは無く、接収後に別府造船のドックで「陸軍空母」として改装された。それは、また別の物語である。
新聞には、「作戦の神様、敵機撃墜!」と何故か愛機の前でポーズを取る辻参謀の写真が掲載された。解せぬ……
いや、敵機を撃墜したのはオレだけど……
シンガポールに進駐しラッフルズ・ホテルを接収した第25軍司令部は、シンガポールマリーナのマーライオンの頭部にタイヤ痕があるのを発見し、誰がシンガポール一番乗りしたかを知ることに……
99式襲撃機二型は、この後もキ44一式戦闘機と共に陸軍の主力をなし、工兵隊の活躍により航空基地を常に前進させることにより航続距離の短さが問題になることは無かった。
乾、大多賀、松井の3名は、今回の作戦成功により、それぞれ准尉と曹長に昇進した。
その後も、乾、大多賀、松井の3名は辻参謀に振り回され大活躍を続けることに……
乾、大多賀、松井の三人の乗る99式襲撃機は、尾翼が黒く塗りつぶされた識別のため「黒い三連星」と呼ばれ連合軍に恐れられたという……
マーライオンは、1972年に作られており、戦前には当然ございません。
そこは、ご都合主義でございます。ご勘弁ください。
けいよん!の方も週末には、UPしたいと思います。
そちらもよろしくお願いいたします。
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