神様の思し召し(3)
夫婦と紹介され、二人はそっと視線を絡ませる。そこには二人だけの世界があり、微笑ましく思いながらも当てられてしまう。
「更紗さん、あなたは狛犬のことをご存じですか?」
突然司狼に問われ、更紗はハッと我に返り、少し考え曖昧に頷く。
狛犬といえば、神社の入口の両脇に置かれているあれだ。確か、一方が無角の獅子で、もう一方が有角の狛犬だったか。
二つまとめて「狛犬」とよく言われるが、一方は獅子ということを初めて知った時は驚いたものだ。
それを思い出し、更紗は思わず両手で口元を覆った。
二人には耳と尾がある。だが、形が少し違う。耳は朔の方がピンと立っていて、陽の耳は垂れ気味だ。尾は、朔の方がもこもことしていて、陽の尾は朔よりも少し細い。
神社を護る獅子と狛犬、この二人の耳と尾は、それを連想させた。
「でも、まさか……」
本当にそうであるわけがない。
二人は耳と尾があるとはいえ、人間だ……と思われる。しかし、人間には獣のような耳と尾はない。
更紗は頭がこんがらがり、小さく唸る。
「うーん……」
「はは。悩ませてしまったようですね」
「親父、早く本題に入れよ」
陽が焦れたように司狼を促す。
本題? 彼らは更紗に何かを伝えようとしているのだろうか。
更紗が司狼を見つめると、彼はコホンと一つ咳払いをした。表情に僅かな緊張が走るが、慎重に、噛みしめるような口調で話し始める。
「陽と朔の耳と尾は、普通の人には見えません」
「はぁ……」
「それが見えるということは、神……月読命様に選ばれた者、ということなのです」
「えっ!?」
月読命に選ばれた者? そんな馬鹿な!
更紗は、咄嗟にブンブンと激しく首を横に振る。
自分がそんな大層なものであるわけがない。霊感などもないし、何かに秀でた能力があるわけでもない。ごくごく普通、よくも悪くも平均的な人間なのだ。ただ、それは自分がそう思っていただけで、本当は違うのだろうか。
ますます混乱してきて、更紗は頭を抱えてしまった。
「あの、えっと……耳と尻尾が見えるのは……その……きっと偶然だと思うんです!」
自分でも苦し紛れの言い訳だと思った。しかし、そうとしか考えられないのだ。
司狼は困ったような笑みを浮かべ、朔を見る。すると朔が前に出てきて、更紗の視線を捕らえた。朔の視線に射すくめられ、更紗はまばたきさえできなくなる。呼吸をしているのかも怪しい。
朔の唇がゆっくりと動いた。その動きを目で追いながら、更紗の心臓は痛いほどに脈打つ。
「更紗、俺の嫁になれ」
その瞬間、更紗の頭の中は真っ白になり、目は点になっていた。