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狛犬に娶られました  作者: 九条 睦月


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月満ちる決戦の刻(6)

 朔が右肩を押さえていた。そこから血が流れている。

 それを見た瞬間、更紗は愕然とし、頭が真っ白になる。しかし、更紗以上に衝撃を受けていたのがツキだった。


『いかん! 更紗、我に掴まれ!』

「え、えぇっ!?」


 掴まれと言われても、ツキは子犬なのだ。どうやって掴まればいいのだろう?


「きゃあ!」


 いきなり空間がぐにゃりと歪む。大きく体勢を崩す更紗を、ツキは体当たりで助ける。

 まるで地震のような揺れ。縦に横にと揺れるものだから、胃がひっくり返りそうだ。


「う……気持ち悪い……」

『更紗! しっかりしろ!』


 ツキの声に、何とか正気を保つ。

 そうだ、ツキに掴まらなければいけないのだった。

 更紗は朦朧とする頭で、ツキの身体をぎゅっと抱きしめた。これだとツキが更紗に掴まっているようなものだが、これしか方法がない。


『更紗、くるぞ』

「……何が?」

『結界が……崩れる』

「えっ……」


 何故、いきなり結界が崩れるのか。


『血が流れたことで、ギリギリ保っていた結界が限界を越えた』


 ツキがそう言った瞬間、真っ黒な空間がパアンと大きく弾け飛ぶ。

 更紗はツキを抱えたまま、今度は真っ白な空間に投げ出される。


「ここは……」


 真っ白な空間に立ってみて、初めて知った。

 真っ黒も真っ白も変わらない。──何も見えない。


「ツキ、いる?」

『そなたの腕の中にいるぞ』


 ツキの言葉にホッとする。こんなところで一人になるなど、考えたくもない。


『更紗、もう一度くる』

「えっ」


 もう一度大きく空間が揺れ、更紗たちはまたどこかへ放り出される。


「きゃああああっ!」


 今度は、再び真っ暗な空間だった。──いや、違う。


「え、ここ……」

「更紗……」


 声のする方に顔を向けると、肩を上下に揺らしながら苦しげに呼吸する朔の姿があった。

 右肩が真っ黒に染まっているように見えた。夜のせいだ。月明かりもない暗闇、だから黒く見える。しかしこれは黒ではなく、赤だ。


「朔さんっ」


 よろめく足で必死に立ち上がり、朔に駆け寄ろうとする。だがそれより早く、朔が更紗の元へ駆け寄り、動く左手で抱きしめる。


「無事でよかった……」

「朔さん、肩……」


 朔の右肩から腕は、血まみれになっている。


「ギャウウウウウッ!」


 敵を威嚇する唸り声をあげるツキは、玲二から二人を庇うように立っていた。

 結界が崩れ、更紗たちは元の空間に戻ってきたのだ。戻ってきた瞬間、ツキの言葉は聞こえなくなり、鳴き声になっている。


「ウォーーーン!」


 遠吠えのような声をあげたかと思うと、ツキは目にも止まらぬ動きであっという間に玲二の懐に入り込み、その身体に爪を立てた。


「グアアアアアア!」


 玲二は叫び声をあげ、地面に蹲る。しかしこれで終わりではなかった。玲二の身体からどす黒い何かが溢れ出てきて、ゆっくりと形作っていく。


「今のうちに……あいつを倒さないと」

「朔さん!」


 黒いものに向かっていこうとする朔を更紗は止めようとするが、それを制される。


「朔さんっ!!」


 抱きしめられてわかった。朔の身体は冷え切っている。強く冷たい雨に打たれ続けている上、体内からどんどん血液が奪われているのだ。このままでは危険すぎる。それなのに、朔はまだ戦おうとしているのだ。

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