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狛犬に娶られました  作者: 九条 睦月


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上弦の月(4)

 微かに聞こえる声を頼りに、その主を探す。

 あちこちを走り回って辿り着いたのは、神社の入口だった。その外側に、一人の男性が倒れている。


「どうかしました? 大丈夫ですか?」


 更紗は神社の敷地内ギリギリのところから声をかける。

 本当は駆け寄りたいのだが、夜は迂闊に外に出ることを禁じられている。何故なら、月川神社全体が強い結界で張り巡らされているからだ。

 そこから外に出るということは、結界を破ってしまうことになる。結界を張っているのは司狼なので、どうしても外に出なくてはいけない場合は彼に許可を取る必要があった。

 倒れている男性は、かろうじて意識はあるようだ。更紗の声に反応している。しかしそれは弱々しく、虫の息といったように見えた。


「司狼さんを呼ばなきゃ」


 誰かなどわからないし、どうしてこんなところで倒れているのかも謎だ。だが、このまま見捨てるわけにはいかない。

 更紗が踵を返そうとした時、倒れている男性が腕を伸ばしながら、絞り出すような声を出した。


「さら……さ……」

「っ!」


 更紗は、改めて男性を見つめる。

 少しずつその風貌が露わとなる。目が慣れてきたのだ。そして、倒れている男性が誰なのかを悟った時、更紗は驚愕のあまり腰が抜けてしまった。地面にペタンと座り込み、呆然とする。


「玲二……さん」

「更紗……助けて……く……れ……」


 苦しげに喘ぐ男は、津山玲二だった。

 どうして彼がここにいるのか。仮に更紗に会いに来たとしても、こんな夜にありえない。


「どうして……」

「わから……ない……いつの間にか……っ」


 玲二は胸を抑え、悶え苦しむ。何がどうなっているのかわからないが、このままでは危険だ。一刻も早く病院に連れて行かなければ。携帯で救急車を呼べればいいのだが、あいにく家に置いてきてしまった。


「更紗っ……」


 更紗の方に向かって手を伸ばし、玲二は請うように更紗を見つめる。苦悶に歪む表情に、更紗は目を背けそうになった。しかし、更紗の心がそれを留める。苦しんでいる人間を目の前にして、目を背けるなど──。

 更紗は意を決し、玲二の手を握ろうと腕を伸ばしたその瞬間──


「ギャウッ!」


 ツキが勢いよく更紗の腕に体当たりしてきた。そして、すぐさま方向転換し、更紗を庇うように前に立つと、玲二に向かって威嚇する。


「ウゥ……」

「ツキ!」

「グウゥッ!」


 黙っていろと言わんばかりのツキの迫力に、更紗はビクッと身体を震わせる。ツキが更紗に対してこんな声を出すのは初めてだ。


「更紗、どうした!」


 背後から司狼の声がし、更紗は弾かれたように立ち上がる。司狼なら何とかしてくれるに違いない、そう思ったのだ。

 だが、司狼は倒れている玲二を見るや、更紗の腕を強く引き、自分の背後へと追いやる。そして結界を更に強めようと印を結ぼうとした刹那、それは起こった。


「返せっ!」


 あれほど苦しんでいた玲二が起き上がり、こちらに向かってくる。ツキが突進しようとするが、その前に玲二の攻撃によって、遠くへ飛ばされてしまった。


「ツキ!」

「返せ……」


 その濁った声は、何重にも重なっていた。喉を締め付けられているような掠れたそれは、明らかに玲二のものではない。彼はまた、悪霊に憑りつかれている。しかも、何体もだ。集合体といっていいかもしれない。

 いつもなら見えるのに、何故か今日に限って見えない。()()のはわかる。しかし更紗には、その姿を捉えることができなかった。


「更紗、動けるか?」


 司狼の声に我に返る。更紗は小さな声で「はい」と答える。

 司狼はこれまでにないほど厳しい顔をしており、これほど冷える夜だというのに、額から汗を流している。

 想定外の出来事に、司狼も動揺しているのか。司狼には玲二に憑りついてる悪霊たちが見えるのか。

 司狼は玲二を見据えたまま、更紗に言った。


「逃げろ」

「え……」

「悪霊たちの目的は更紗、お前だ」

「!」

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