神様の思し召し(1)
その眩しさに、更紗は重い瞼をゆるゆると開ける。意識はまだ朦朧としており、しばらくそのままぼんやりとしていた。眩しいと思ったのは、陽の光だった。夜は明け、朝になっていたのだ。
その時、部屋の外から声が聞こえてきた。「失礼します」という声とともに、障子が開けられる。入ってきたのは、見るからに美しくしとやかな女性だった。
「あ、気が付かれたのですね。よかった……」
心から安堵したように微笑み、彼女は更紗の元へやって来る。更紗は慌てて身を起こそうとしたが、急に動いたせいか身体がよろめいてしまう。
「無理をしないで。まだ寝ていた方が……」
「いえ、大丈夫です。あの……」
彼女に支えられ、更紗は上半身を起こして辺りを見渡した。
ここは和室のようで、更紗は布団に寝かされていた。床の間には水墨画がかけられ、花も活けられてある。畳の匂いが仄かに香り、更紗の気持ちを落ち着かせてくれる。
「私……昨日……」
昨夜のことが脳裏をよぎる。夢だと思いたいが、ここが自分の部屋ではないということが、夢ではなかったということを証明している。
更紗の状態が安定すると、彼女は身体から手を離し、ガラスのコップに水を注ぎ、差し出す。更紗は礼を言って受け取り、ゆっくりと喉に流し込んだ。ひんやりとした水の冷たさが、喉に心地いい。
「あの……」
「私は、月川春南といいます。そしてここは、月川神社の宮司・月川司狼の家です。あなたは昨夜、神社の前で悪霊に憑りつかれた男に襲われそうになったと聞いています」
「悪霊……。あの、黒い煙というか、塊が見えたんですけど、あれが悪霊……なんですか?」
「はい、そうです。月川神社はとても強い神力で護られているのですが、この場所は現世と幽世が交わる場所でもあり、よからぬものが集まってくることも多いのです」
「……っ」
春南の話に、更紗は驚くばかりだった。
まず、昨夜自分が辿り着いた場所が、月川神社だったということ。
月川神社がある場所は、千葉県にある海沿いの小さな町、月川町だ。月読命を祀っている神社で、それほど大きくはない。しかし、ご利益を授かる者が多く、参拝者は多かった。
何故、更紗がこれほど月川神社について知っているかというと、更紗は昔、月川町に住んでいたからだ。その頃はまだ両親も健在で、よく連れてきてもらったものだ。
そんな昔の記憶が呼び起こされ、無意識のうちにここへ来てしまったのだろうか。
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