心を見つめる(1)
「朔さん、あのっ……」
リビングのソファに下ろされても、更紗の身体は朔に拘束されている。きつく抱きしめられたままで、一向に解放される気配がない。
「私、何か……」
「更紗」
朔の強い視線が更紗を捕らえる。
この瞳に見つめられると、更紗は身動き一つ取れなくなる。じわじわと熱くなる身体、苦しいほどに暴れる心臓、自分を抑えられなくなるのだ。
更紗は朔の首に腕を回し、自ら唇を合わせた。それに応える朔の口づけが深くなる。
朔の指が更紗の髪を梳き、頬を柔く撫でる。触れられた場所が熱を持ち、さらに鼓動が激しくなっていく。
「朔さん……」
「更紗……更紗……」
譫言のように何度も名を呼ばれ、その度に心が震える。もっと近づきたいと腕に力がこもり、朔を引き寄せようと必死に引き寄せる。しかし、なかなか望む距離を得られず、更紗の瞳にじわりと涙が浮かんだ。
朔の唇が、涙袋の辺りに触れる。
「泣くな」
「もっと……」
「もっと?」
「朔さんの近くに行きたい」
真っ直ぐに朔の瞳を見つめ、更紗は懇願する。朔はきゅっと眉根を寄せ、今にも泣きそうな顔になる。
「これ以上……どうやって近づくんだ」
「……だって」
「更紗」
「……好き」
「……っ」
傷ついてボロボロになっていたところを助けられたから? 月読命から力を与えられ、狛犬に嫁ぐことを運命づけられたから?
理由などどうでもよかった。更紗の気持ちは、もう完全に朔に傾いている。
「朔さんが好き」
「更紗……」
「好きなんです……」
こんなにも強い想いなど知らない。
紛うことなき今の自分の正直な気持ち、そしてそれを口に出してしまったことへの羞恥に、更紗は強く目を閉じる。朔の反応が怖かった。
みっともないと思われただろうか。
しかし、そんな更紗の不安は、瞬く間に消え去ってしまった。
「さ……く……っ」
噛みつくような口づけ。息が上手く継げず、すぐに苦しくなる。ほんの僅か離れても、すぐにまた繰り返されるその行為に、更紗の意識は朦朧としていった。
「更紗……」
聞いたこともないような朔の甘い声に、更紗の全身に電流が駆け抜ける。
くたりと力の抜けた更紗の衣服に朔の手がかかる。更紗の身体は、期待と喜びで震えていた。
だがその時、リビングのドアから大きな音が聞こえた。二人はハッとし、ドアに目を凝らす。
「ウォンウォンウォンッ!」
最初に聞こえたのは、ツキが爪でドアを引っ掻く音。そして今は、大きな声で鳴き、己の存在を主張していた。




