表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狛犬に娶られました  作者: 九条 睦月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/78

月川神社の護り(11)

「……っくしゅ」


 更紗のくしゃみに、朔が心配そうに顔を覗き込んでくる。


「身体が冷えたな。もう一度風呂に入るといい。入れてくる」

「あ……」


 更紗をその場に置いて、朔は風呂場へと行ってしまった。その後ろ姿を眺めながら、溜息を一つ零す。


「もう少しああしてたかったなぁ……」


 言葉に出すと、じわじわと頬が熱くなってきた。

 更紗は、先ほどの朔の言葉を思い出す。


『弱いところを見られるのが怖かった』

『失望されたくなかった』


 初めて朔の心の奥に触れられたような気がした。本音を話してもらえたことが嬉しかった。


「ほんの少しだけ、近づけたかな」


 一足飛びに距離を縮めることなど、自分と朔の間では無理だったのだと思った。

 更紗も朔も、他人に対して警戒心が強い方だ。少しずつ、少しずつ、様子を見ながら歩み寄っていくしかない。

 そう悟ってしまうと、心が軽くなった。そうして初めて気付く。「狛犬の嫁」に対し、更紗は必要以上にプレッシャーを感じていたのだ。

 優しく、そして大切にしてくれる人たちのために、役に立たなければならない。そんな風に思っていたのかもしれない。


「プレッシャーにしてしまってたんだな……」


 昔から、プレッシャーには弱かった。

 更紗は苦笑する。


「ねばならない、じゃなくて、したいって気持ちの方が大事だし、強いのに」


 役に立たなければならない、ではない。役に立ちたい、のだ。

 そのためには、素直に心を開いて、二人でもっとたくさん話をしよう、そう思った。


 戻ってきた朔は、再び更紗を抱きかかえ、腕を優しくさする。これはきっと、更紗の身体を温めるためだろう。

 くしゃみが出たのは単なる偶然だ。多少冷えてはいたが、寒いというほどではない。でも、それは言わないでおこうと思った。今こうしている時間が何よりも心地いい。

 朔を見上げ、ふと思う。

 頬の傷はかなり治ってきている。その傷を見て、思いついたのだ。

 朔は、更紗の傷に唇で触れ、治してしまう。肌と肌とを触れ合わせ、狛犬の力を注ぐことで治癒させるのだろう。それなら──。

 更紗は少し伸びあがり、朔の傷に唇を押し当てた。


「っ!」


 飛び上がるほどの驚きを見せる朔に、思わず笑ってしまった。これほど動揺する朔を見たことがない。


「こうしたら、私にも朔さんの傷が治せるかなって」

「いや、それは……そうだが」

「やっぱりそうなんですね!」


 自分の考えが合っていたことが嬉しくて、更紗はもう一度唇を寄せる。が、朔の腕に阻まれてしまった。


「……嫌、ですか?」

「そういうわけじゃない」

「でも」

「もうほとんど治っている。だからいい」


 ボソボソと話す朔の顔は、うっすらと赤く色づいている。照れている朔を目の当たりにし、更紗の胸の高鳴りは止まない。

 こんな風にいろいろな顔を見せてくれるのが嬉しい。もっともっと、いろんな朔を見たい。

 そんな更紗を見て、朔が僅かに頬を緩めた。そして、更紗の目のすぐ下の辺りに、ほんの一瞬だけ口づける。


「!」

「激しい砂埃だったからな。少し掠ったようだ」


 更紗が何か言う前に立ち上がり、「風呂が沸いた」と言い残して、朔は再び風呂場へ向かう。

 更紗は唇が触れた部分に手を当てる。

 砂埃で傷? 痛みなど感じなかったが。


「もしかして……お返し、みたいな?」


 そう思った瞬間、更紗の顔は、湯気が立ち上るほど真っ赤になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ