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花に春泥、しき緑  作者: 畑中炭比古
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青柳昌鹿 魅惑のヘノコ

 間接照明が薄っすら照らすベッドの上で、俺はアリカの股ぐらに顔を埋めて舌をせっせと動かす。生理前なのか、今日は特別に匂いが濃い。こいつ、そういうときはいつもよりちょっと激しめが好みなんだよな。唾液と愛液で濡れた陰毛が鼻の穴をくすぐって気持ち悪い。はあ、こいつのおかげで俺の給料は減っちまった。かわりにチンポは無事なんだけど。


 来月はシンリーの誕生日だっつうのにプレゼントどうしよ。てか金がねえことにはどうしようもねえ。あれ、待てよ。来月って十二月じゃね? つうことはなんだ、シンリーの誕プレ+二人へのクリプレ? あーダメだこれ詰んだ。……こうなったらもう一回密ちゃんを強襲して……。いや、そりゃねえか。


「ちょっとってば」


 アリカから頭を優しく小突かれる。しまった、上の空だったのがバレちまったか。


「もうキちゃってるから」


 いつの間にやら昇天してたアリカは、「ねぇ、早く」脳天が痺れるような表情を向けて催促してくる。しょうがねえ、金のことは後回しだ。アリカの白くて華奢な肩に手をかける。ひとまず今は俺の息子をプレゼントー!




「ヘノコタケって知ってる?」


 コトが終わり、ベッドでタバコをふかしているとアリカが腰にひっついてきた。


 こちとら射精した後の虚無感の只中だ。しかもさっきのプレゼント問題が賢者タイムの間隙を突いて襲ってきてるってのに。アリカのわけわからん話題に付き合う気力はねえ。頭でも撫でてやって、聞き流そう。タバコを持ち替えて、アリカのいる右手で気怠くくすんだピンク色の頭に触れる。


「これこれ。これなんだけどね」


 アリカは構わずスマホの画面を俺に向ける。小さい画面の中で、地面から勢いよくチンポが乱立している。


「なんじゃこりゃ?」


 つい大声をあげちまった。もしかして、これ全部アリカに葬られたチンポなんじゃ……。俺はこの前の爆弾事件がトラウマになっちまってる。いつまた俺のチンポが危険物に変えられるか、正直不安でしょうがねえ。


「んふふ、素敵でしょー。これね、普通のキノコじゃないんだよぉ」


 ヘノコタケ、そうかキノコか。俺は少し安心した。


「このフォルムだけで十分普通じゃねえだろ」

「うん、確かに形もすっごい立派なんだけどぉ」アリカはうっとりスマホの画面を眺めながら続ける。「これねぇ、寄生されたキノコなのぉ」

「どゆこと? キノコも菌だよな」


 アリカは頬を上気させて怪しく笑む。触れている肌が、まだ汗ばんでいた。


「あのね、ミシャグリンっていけない子がいてね」そう言いながら、人差し指の爪先で俺の胸をツツーとなぞり出す。

「そのミシャグリンって菌はね、とーっても寂しがり屋さんなの」そのまま俺の肌を滑っていき、陰毛を指に巻き付ける。

「だからね、誰かーってお友達を探してね」今後は五指を使って、触れるか触れないか、俺のディックを根本からなで上げる。


 あ、こいつヘノコタケ見て催したな。


「お友達に寄生しちゃって、一緒に暮らすんだって。それでね」誘う目つきで俺の胸に舌を這わせてきた。

「ミシャグリンに、ちゅぱ。寄生されちゃったキノコはね、ちゅるる。傘があんまりね、んは。成長しなくなるんだって」アリカの手は俺のディックを優しく包み、血流を促すようにじっとり上下し出す。

「それでね、竿ばっかり育っちゃうから、れろ。チンチンみたいな、じゅるる。可愛いヘノコタケになるんだって」


 そこで言葉を切ると、アリカは舌と手に意識を集中するように愛撫を激しくした。


「……あれぇ? まー君の竿は育たないね。もぉ」


 すまねえアリカ。昨日シンリーとしこたまやったから、さっきの一発で今日は打ち止めなんだ。前もって会うってわかってりゃ、昨日はもうちょいセーブしたってのに。


「さっきのがヤバすぎて、もうすっからかんだ」


 俺はアリカのデコに軽くキスして、そっと体を離した。


「キノコに寄生する菌ね。んじゃよ、しいたけのヘノコタケとか、マイタケのヘノコタケとかさ。そのミシャグリンってのに寄生されたら、どんなキノコでもヘノコタケになるってわけ?」


 タバコの火を灰皿でもみ消して、右腕をアリカの首の下にそっと通す。


「んー。まぁ、そゆこと」


 アリカは少し不服そうだったが、どうやら腕枕で妥協してくれるらしい。


「まじ? 天然のチンポ製造菌ってことか」

「うん、可愛いでしょ。それでね、松茸のヘノコタケってのがすっごいレアで」

「松茸がチンポになるのかよ。勿体ね」

「そんなことないよぉ。だいたい松茸自体デフォルメされてるけどなかなかのフォルムだし」

「んん、まー、そうか」

「そうよ。それでね、その松茸のヘノコタケってのが、むちゃんこ美味しいんだって」

「美味えのか」

「そうなの。ほかのヘノコタケは薬品みたいに苦くて食べれたもんじゃないんだけど」

「え、食ったことあんの?」

「そりゃそうよー。こんな可愛いキノコ食べないなんてアリカあり得ない」


 アリカはそこで表情を曇らせる。


「でもね、松茸のヘノコタケだけはどうしても手に入らなくて。そもそも産地がすっごい少ないんだって」

「へぇ、さすがレア」

「そうなの。なんでも、ミシャグリンと松茸さん、仲が悪いみたいで」

「仲が悪い?」

「うん。だから、ミシャグリンが松茸に寄生すること自体、かなりレアなの。なんでかわからないけど」

「あぁ、そういうこと」

「はぁ、食べてみたい。……標本にしても素敵。ねぇ、まー君もそう思うでしょ?」


 ホルマリン漬けにされたヘノコタケを想像してぞっとする。冗談じゃねえぞ。


「あのさ、そんだけ珍しくて美味えってことは、やっぱお値段的には高えわけ?」


 アリカの問いかけは無視して質問を重ねた。。


「うふふ。当ててみて」

「美味いっつってもキノコだろ?」


 俺は一仕事終えてくたびれた自分のヘノコタケを一瞥する。


「一本五千……いや八千円とか?」

「ブブー。なんと、安くても十万円以上なんだって」

「……はっ!? 冗談だろ」


 まじかよ。キノコ一本でそんな値がつくとかあり得ねえ。待て待て、これはもしかするとプレゼントどころか、俺の借金問題まで解消してくれる超ミラクル案件なんじゃねえのか? 


「それってどこに生えてんの?」

「まー君さ、それがわかってたら苦労しないわよ。……確率って話なら、松茸がいっぱい生えてるところってことかしら。この辺りなら(しら)鹿()()が有名よね」


 白鹿背か。闇無から車で一時間も走らねえで行けるぞ。それより人手だ。山の中を探し回るには、俺一人だと効率が悪すぎる。……所長の異能がほしいな。適当に言いくるめて連れて行けるか? 最悪暇してる密だけでも引っ張り出す。とりあえず明日、事務所に顔出そう。松茸、もといヘノコタケ狩りにちょうどいい季節だし、くー、猛ってきたぜ!


「あ。まー君のが元気になった」「アリカ、ありがとな」おかげでテンションあがったぜ! この勢いで二回戦突入だ。

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